第9話

ギャーーッというすさまじい悲鳴が聞こえてきた。

「キキ、ララ、くるみ割り人形、もういいよ。あの人にも子どもがいる。妹なのか弟なのか、何人いるのか、名前すら知らないけど。お母さんの帰りをきっと待ってる。子どもからお母さんを奪わないで。私と真侑さんとおじさんを守ってくれてありがとう」

手を伸ばすとキキとララとくるみ割り人形が私の腕の中に戻ってきた。

目の錯覚かもしれないけど、スナネズミの二つの顔がお母さんとおばあちゃんに重なって見えた。

(ちこは優しいね。ちこはママとあーちゃんの誇りだよ)

(人もモノも同じだ。大切にすんだぞ。粗末にすんなよ)

(うん、分かった)

堰を切ったかのように涙が次から次に溢れた。

「母さん、お姉ちゃん、ちこは私と彼で育てます。だから……もう、やだ、私まで涙が移ったじゃないの」

「俺もだ」

真侑さんとおじさんが恥ずかしそうに照れながら涙を手の甲でごしごしと拭った。

「携帯鳴ってない?」

「そうか?」

おじさんがズボンの後ろポケットからスマホを取り出すと、ぶるぶると振動していた。

「マナーモードにした覚えがないんだが、変だな。それに知らない番号だ」

おじさんが警戒しながら電話に出ると、警察からだった。

「そうですか。分かりました」

短く答えると電話を切った。

「孝さん、何かあったの?」

「誠一郎さんが以前住んでいた家の庭から人のものとみられる骨片が数個見つかったそうだ。今の住人が五年間放置され荒れ果てていた庭を手入れしていたとき偶然見つけたみたいだ。DNA検査に協力して欲しいって。それと釘が刺さったくるみ割り人形も見つかったって」

その言葉にドキッとした。くるみ割り人形は二体存在したのだ。



「モノヲダイジニシナイカラバチガアタッタンダ」


しゃがれた声がどこからか聞こえてきて。

ぎくっとして見上げると、白髭のおじいちゃんががふわふわと宙に浮いていた。おじいちゃんの後ろにはもう一人誰かいた。

目を凝らしよく見るとそれは赤い服を着たくるみ割り人形だった。


キャハハハ。

アハハハ。


不気味な声で高笑いしながら、一歩ずつ、ひたひたと私たちに近付いてきた。



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