第4話

「当時私はニ歳で、あとから母から聞いたことをそのまま話すわね。クリスマスの朝、姉は玄関で死んでいるナツメグ色のネズミを見付けたの。二匹いた赤ちゃんネズミのほうはかなり衰弱していたけどかろうじてまだ息があったから、姉さんは懸命に子ネズミたちを温め続けた。調べたらスナネズミというペットとして飼われているネズミだと分かったの。くるみ割り人形の絵本を読んだことがある母はネズミのお母さんは怖い。祟られないようにと、母ネズミを丁重に供養した。子ネズミたちはそのまま家族の一員となった。キキとララ。姉は好きだったキャラクターの名前を子ネズミたちに付けてとても可愛がったみたい。数日後、白い髭を生やしたおじいちゃんが突然訪ねてきて、優しいお嬢ちゃんにこれをプレゼントしよう。きっとお嬢ちゃんを守ってくれる。そう言ってくるみ割り人形を置いて行ったみたい。実を言うとね、お姉さんがいなくなった日、くるみ割り人形もいなくなったのよ」

「え?」

「でも夕方には戻っていて、いつもの場所に立っていたの」

くるみ割り人形の定位置はピアノの上だ。

「鳥肌が立つくらいめちゃくちゃ怖い顔をしていたよ」

真侑さんがぶるぶると肩を震わせた。

「ここから離れたのにも理由があるのかも知れない。お義姉さんと、お義母を守ろうとした。いや、そんなまさか……」

「そのまさかかも知れないよ。人形には魂が宿っている、だから粗末に扱ってはいけない。母さんよく言っていたもの」

おそるおそるピアノの上に立つくるみ割り人形を見上げるとかすかにふふっと笑ったような気がして。目に見えぬ恐怖に鳥肌が立った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る