第20話 俺、覚醒しちゃう

 とうとう決勝戦。

 始まりのアナウンスが流れる。


「さて、始まるぞ決勝戦! これまで圧倒的な力で幾度もねじ伏せてきた――勇者ヤクモ・タケバヤシと運よく棄権、退場が続きこの舞台に舞い降りた残虐無慈悲の編入生ネオ。運と力、どのように決着が着くのか楽しみでなりません。では入場です!」


 アナウンスが終わり、舞台に上がると異質なオーラを纏った勇者が地面に剣を突き立てていた。

 横にはユリアナとの戦闘で召喚していた大蛇の姿もある。

 映像で見た時より迫力が段違いだ。


「姉ちゃんれる?」

「う~ん時間はかかちゃうかもね。でも大丈夫。お姉ちゃんに任せて」

「任せるよ。俺は逃げ回るけど」


 試合開始のシンバルが鳴らされた。


 勇者は挨拶なしに早速動き始める。

 大蛇を操り、俺に尻尾で攻撃を仕掛けるも姉ちゃんが〈魔障壁アリド〉で防いでくれた。


 俺は大きく後ろに飛び、大蛇との距離を空ける。


 やはりと言えばいいのか俺を集中的に狙ってくる。しかし姉ちゃんが黒い炎を纏った拳で大蛇の頭を殴ると「シャアあああああ!」と大きな叫び声を上げ、標的が姉ちゃんに変わったようだった。

 表情から察するに勇者はその状況をあまりよく思っていないようだ。


「チッ、目障りな。消えろ」


 勇者はてのひらに白い光のエネルギーを溜め始めた。

 言動からするに姉ちゃんに向けてに違いない。

 このままだと戦いに集中している姉ちゃんに当たってしまう。


 そう思った瞬間、身体の底からマグマが湧き出る様に熱くなってきた。風邪とか気温とかそういう類の熱さじゃない。

 それに心臓の鼓動がバクバクと激しくなり、痛みに耐えられず俺はその場にしゃがみ込む。

 

“汝は何者よ”


 声は聞こえない。だけど脳に響く女性の声。


“なぜ、汝は力を求めぬ”


 何が言いたいのか理解できない。

 それに力ってなんだ。 

 頭が割れるように痛い。


“抗うな、受け入れよ人間。力が欲しくば”


 姉ちゃんの助けとなるならこの力受け入れるべきだ。だけど俺が正体不明の力に呑まれ、暴走したらどうする。また大きなケガをさせてしまったら。

 そんな混迷のなか姉ちゃんが大蛇と戦う姿を見つめていると、勇者は光の球を放った。

 このままじゃ姉ちゃんに!


 その瞬間、さっきまでの迷いは嘘のようになくなった。

 俺は心のなかで言った。「受け入れる」と。


 すると真っ黒な闇に包まれた。

 どこを見ても暗闇で何も見えない。

 唯一見えるのは、天から照らされた自分の手と身体だけ。


「クククッそれでよい。受け入れよ、始祖たる我の力を」


 その女の声とともに俺の前には黒いオーラを纏った剣が姿を現した。


「さあ抜け。楽観も悲観すらも力と変え、その魂を黒く染め上げよ」


 勢いよく剣を抜くと、瞬く間に真っ暗な空間はガラスが割れるようにパリンッと消失した。


 相変わらず姉ちゃんは大蛇との戦闘は続いている。


 俺は手に取った剣を見つめた。

 今ならわかる。この剣が何のために創られ、どんな力を秘めているのかも。

 

 この【殲滅剣オーバーウェルム】は、始祖の魔王が創ったとされる幻のつるぎ。刀身は黒く煌びやかに輝き、英雄と呼ばれる者たちを幾人も葬ってきたとされている。

 時間を操り、理を断つ。

 この腐敗した世界を変えるべく始祖の魔王は自身の血を使い、魂をもこの剣に捧げた。

 

 これがあれば……姉ちゃんを。


「おっと! 編入生ネオの手には黒い剣が! 戦うことを決意したのかあああ!」


 俺は姉ちゃんに目掛けて飛んでいく光の球を〈斬撃刃ザンゲキハ〉で斬り裂いた。

 エネルギーの衝突によって引き起こされた大きな爆発。会場は爆風で荒れた状態になっている。

 砂埃が舞い、視界が悪い。


「ネオ君……」


 悲しそうな顔をする姉ちゃん。

 理由はわからない。

 けど今は勇者を倒してこの試合を終わらせる。


「おいお前、何だその力は?」


 とは聞かれても、答えようがないのは確かだ。


「姉ちゃんに向けたあの白い球」

「誰でもわかんだろ。あの大蛇と渡り合える者なんかそうはいねぇ。それも奴隷の人間なんざに太刀打ちできるわけねぇだろ」

「そうか……その力で姉ちゃんを消そうとしたんだな」


 一瞬で勇者の背後を取ると、俺は耳元でささやいた。


「悪魔は光に弱い、お前知っててやったな」


 焦った様子の勇者は大きく横に大剣を振るった。

 しかし俺は無傷。

 とっくの前に距離を取っているからだ。


「マジで何もんだ? どれほどの力を隠してる」


 口数が多くなってきたな。動揺している証拠だ。

 ユリアナと戦った時の動きはどうした、と聞きたいところだが、本気を出されて俺が対抗できなくなっても困る。

 この力がどこまで通用するのかわからないからだ。

 

「…………」

「答えねぇってんならその口、無理矢理にでも開かせてやる」


 ヤクモは地面を強く蹴って猛突進してきた。

 そして俺の懐に入ると溝内目掛けて拳で殴りつける。懐に入られた以上、もう避けようがない。

 そう瞬時に判断し剣でその重い拳を受け止めた。


「ぐっ……重い……」


 気を抜けば間違いなく場外に吹き飛ばされる。

 でも、このまま耐えるのもキツイ。

 こんなにも威力が桁違いだったなんて……想像以上だ。

 

「な~んてね。爆ぜよ」


 殲滅剣から無数の光線が飛び出した。

 あまり意識はしていなかったが、「爆ぜよ」この言葉を言うだけで不思議と何が起こることはわかっていた。

 それよりこの力のおかげで強くなった気分だ。よくある俺TUEEEみたいな展開だが、俺は満足している。

 

 なぜなら前の世界で俺は子供の頃、最強系主人公に憧れを持っていたからだ。どんな強敵が立ちはだかろうとも恐れず嘲笑い圧倒的力でねじ伏せる。

 それを見ると爽快で堪らなかった。


「チッ、やってくれるじゃねぇか。クソがよ!!」


 ヤクモはあの光線を浴びようともまだ息があるようだった。

 さすがは勇者様だ。

 それが善だろうと、悪だろうと勇者の異名を持つやつはやっぱり違う。


 俺は殲滅剣を地面に突き立て待機する。

 

「俺は不死身だ。観念したか。だったらさっさと死にやがれ」


 威勢だけはいい。だが周囲の警戒を怠るのは……やがて死を招く。


「後ろには注意しろ」

「隙を狙って仕掛けるつもりだな。甘いな、俺がそんな罠に――ぐはっ……何だ、何が起きて……?」


 ヤクモの腹部に複数の影の剣が刺突する。

 俺が指で影の剣を操作し、腹部から引っこ抜くと大量の血を流し、苦しそうに膝から崩れ落ちた。

 

「ほら、言わんこっちゃない」


 俺からの言葉はただそれだけ。

 こういう自信過剰な自分大好き人間は他人を信用しない。だから俺の話を真に受けないことぐらい簡単に予想できた。

 まあ、素直に耳を傾けて置けば、あまり苦しくない方法で天に旅立てたというのに。

 まったくもって残念で仕方のないやつだ。


――――――

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