最初の神々

第1話 港に帰る船

　紀元前1460年、クリート島、クリトス港。

　今月はミノア人のトレーオニ月（7月）で、賑やかな貿易シーズンです。この古い港は地中海を行き交う船に詰まっています。

　この季節には、商人や船乗りが通常、真夜中に出港し、後退する波に乗り出して陸地から離れて次の目的地へ向かいます。

　一方で、午前中には、満載の船が到着するのが一般的です。

　空の女神トラキアは、明るい太陽を海面にのばし、温かな光で人々に祝福を与えています。

　しかし、今日は少し違います。冬にありがちな冷たい湿った海の霧が女神の視界を遮り、全体のビーチを覆っています。南風の吹き付けで、言語道断な怪物が陸地に這い上がろうとしているかのようです。

　アラキア（キプロス）からの商人カプリアスは、港の石造りの見張り台で祈りを捧げ、自分の船と商品が無事に帰還することを願っています。

　エーゲ海と地中海の貿易はいつも活発ですが、海賊も同様に蔓延しています。幸いなことに、クリート島では武装船を雇って護衛することができます。彼も2隻の船を雇って護衛に加え、海賊は通常、装備が整った経験豊富なクリート戦士の相手ではありません。

　ただ最近、彼には新しい懸念があります。

　すべて順調であれば、彼の船はここ数日で帰還するはずでしたが、10日前には、近海で海の怪物が目撃されたと報告されました。まだ船が襲われたという話は聞こえていませんが、旅行者や商船の皆さんに多大な驚きを与えてしまいました。

　去年は嵐で3隻の商船と2隻の護衛船を失いましたが、今年は彼はこのシーズンの貿易にほぼ全ての財産を投じました。そのため、ここ数日は、毎日早く港に来て結果を待っています。

　彼が神殿に大切にしている紅玉を捧げて、もっと多くの守りを得ようと考えていると、海の霧の奥から低い長い雄々しい音が聞こえてきました。まるで深海にいる怪物が吠えているかのようです。

　カプリアスは身を引いて、「何の音ですか？」と緊張して尋ねました。

　隣のミノアの奴隷が答えました。「主人、それはホラの角笛の音です。」

　多くの島を往復する商人として、カプリアスもたまにはホラの音を聞いたことがありますが、これは少し違っていました。

　彼が音源を探そうとしたとき、突然、金色の船首が霧の中から現れ、怪物の体を切り裂く槍のように、霧を払い、波を割って、人々の中に飛び込んできました。

　カプリアスは息をのむと、これは典型的なミノア風の戦船で、長さは80エル（エリ）ありました。帆は既に下げられ、左右に30人の漕ぎ手が統一された声を上げながら、強力な筋肉を引き締め、体をリズミカルに前後させ、船を港に向かって曲がりました。

　カプリアスはこれらの漕ぎ手の腕が非常に力強く、奴隷にありがちな痩せ型ではなく、鎧を着て槍を手にすれば、合格点の戦士になるでしょう。

　そして...

　彼の目は船首に立っている背の高い人影に引き寄せられました。

　若い男性で、藻のような黒い髪を持ち、光沢のある銅のボタンで白いマントを締め、今風に膨らんで、神々の彫像のような強壮な体を現わしています。

　若い男性は銅の長槍を手に持ち、柳のような槍先は鋭い輝きを放ち、彼は非常に安定して立って、荒れた波にもかかわらず、少し動くことはありません。

　もしこれらの漕ぎ手がただの人間のようなら、海霧を突き抜けて差し込む太陽の光の照射の下で、その若い男性はまるで海の底から出てきた神々そのものです。

　カプリアスは思わず言いました。「なんてことだ、これは『エセサラ』の末裔ですか？」

　隣のミノアの奴隷は詠嘆の調子で言いました。「はい、主人、それはオルフェウスです。彼は生命の母神エセサラの息子とされています。クリトスの神殿を守る英雄です！」

「彼はオルフェウスですか？」

　カプリアスは憧れと驚きを顔に浮かべています。この2年間、彼はアラキアでさえも、この英雄の名前を聞いたことがあります。彼が神々の子であるという彼のアイデンティティには半信半疑ですが、商人の本能が彼を誘惑して、どうやって相手と仲良くなろうか考えています。

　彼が港の人々と一緒に帰還する船を見ていると、突然、群衆の中から大きな驚きの声が聞こえてきました。目が早い人々は、その戦船の後ろに巨大な灰色の怪物が引きずられているのが見えています。

　たとえ水面に浮かんでいる部分だけを見ても、3、4人の立ち幅の頭と、白く脈打つ目の中から、生前はどんなに恐ろしい海の怪物であったかを想像することができます。それだけで、人々の内面の恐怖を引き起こします。

「なんてことだ、海の怪物ですか？」

「間違いなく、オルフェウスが海に出たのはこの怪物を狩るためです！」

「またしても神の業跡です！母神の守りを！」

　議論の中で、その戦船が港に入ってきました。人々も波のように埠頭に押し寄せました。

　金色の長船が陸地に着くと、オルフェウスは船から飛び降り、彼の後ろには7人の武装した戦士が続いて飛び降りました。その金色に輝く銅の兜は、太陽の下で光を反射しています。

　地面に定着した後、これらの戦士は頭を高く持ち、片手で腰の銅の剣を持ち、片手で槍を持ち、とても誇り高い姿勢で、まるで偉大な勝利を得たかのように見えます。

　事実もそうです。怪物がビーチに引きずり上げられると、群衆はついにその姿を認め出しました。これはもっと大きな驚きの声を引き起こしました。そのたるんだ頭と、吸盤がいっぱいの8本の腕から、人々はその正体を認め出しました。

「タコ、タコです！」

　このタコはビーチに横たわっているだけで、家と同じくらい高くなっています。そして、その触手は長くて、頭から尾まで20エル（約10メートル）もあると見えます。

　東地中海からの商人や船乗りは、オルフェウスたちに畏敬の目で見ています。このような怪物を捕まえるには、どんな力が必要なのかと不思議に思っています。

　クノソス宮殿の巫女は長い間、オルフェウスは生命の母神エセサラの子であり、この伝説は本当かもしれませんと宣伝してきました！

　マイケネイの商人がタコを一周して、断言的に言いました。これはタコの中でも「バスリュス」と呼ばれるものです。それは人を食べる生業を持ち、通りかかる船の貨物を攻撃するのが好きです。自分の船が最近沈没しましたが、このタコが悪行を働いたに違いありません。

　そして彼はその船にはどれほどの財宝が詰まっているか、クリート島の香水やオリーブオイル、アラキアの銅、クマート（エジプト）の象牙や青金石、ハティの地（アナトリア半島）の錫、アティカの銀と鉛など、それほど多く、船倉いっぱいに詰まっていて、隙間が非常に狭く、鼠が入ることができないと言いました。

　これをマイケネイに運ぶと、各地の王は門を広げて、果てしないワインと美女で自分をもてなしてくれるでしょう。

　ある吟遊詩人は皮肉を言って、「それは残念ですね。尊敬される商人はその時は船にいなかったんですね。そうでなければ、彼は自分の宝と一緒にいて、今日タコの腹を切り開けて、目が覚めた彼が皆と挨拶できるかもしれませんね」と言いました。

　これは何の悪辣なジョークでしょう！

　マイケネイの商人は呪詛して飛び上がったが、それはただの笑い声を引き起こしました。これらのマイケネイ人は普段は威張りながらも、騒々しく、無粋で、すぐに力を用いる傾向がありますが、少なくともクリート島では誰も彼らを好きではありません。

　その時、群衆から別の異国の商人が現れ、怪物を見てからオルフェウスを見た後、傲慢な口調で言いました。「ケフェティウス（クリート）でこのような怪物を見るとは思いもよらなかった。100ガドゥス（ガデット）の黄金で買収します！」

　オルフェウスはこの異国の商人を一瞥しました。間違いなく、これはクマート人（エジプト人）です。

　彼は身なりはミノス人とほとんど同じですが、現在地中海世界でほとんどが50または60進法を採用している中、エジプトからの商人だけが10進法を使うのです。

　彼は心の中で計算しました。100ガドゥスは後の世で約1キログラムの黄金で、彼が熟知している貨幣に換算すると、20万人民元ほどです。

　この価格もそんなに悪くないですが、黄金はどこでも硬貨です。しかし、彼はこのタコを売らないでしょう。なぜなら、これは彼にとってもっと大きな用途があるからです。

　彼はエジプト商人の叫び声に耳を傾けず、後ろにいる護衛隊長に言いました。「ピスティス、人を連れてこのタコを倉庫に戻せ。

　この30代で忠実で無口な護衛隊長は、胸の銅の鎧を叩きました。2人の戦士を連れて港に行き、すぐに20人以上の港の奴隷といくつかの道具を集めました。手際よくタコを4本の交差した木の台にのせて、綱でしっかりと固定しました。

　これらの奴隷は体が小さく、腰にだけ簡単な布を巻いていましたが、足は意外と力がありました。リズムを見つけたら、オルフェウスたちと同じペースで進み始めました。

　その時、子供たちが走ってきました。タコの周りで飛び跳ねて、砂や石を投げかけました。そして、指さしと騒ぐ人々がいましたが、投げられた奴隷は黙って耐えていました。ニュースを聞いた人々が集まってきましたが、海の怪物の姿を見たいと思っていました。

　騒がしい群衆の時、叫び声が響きました。「オルフェウス！」

　その声はとても大きいので、山から谷に転がる大きな石のように、港のすべての騒音をかき消しました。人々は自発的に騒音を止め、声の源を見ました。港の高い段丘で、体型がスリムで、完全に武装した戦士が見えました。

　この戦士は、野猪の歯で編まれた兜を頭にかぶって、茶色のレザーの鎧を着ていました。それには丸い銅の板が取り付けられており、胸と背中はよく保護されていました。両脚にはレザーのガーターがあります。

　彼は大きなマイケネイの双耳盾を持っており、右手には槍を持ち、腰には銅の剣を下げています。このセットはマイケネイの初期のスタイルを備えており、現在とは比べものにならない古い感じがあります。

　人々は彼の腕にマノバングルを気づきました。これは彼が有名な出来事に参加し、偉大な戦争に参加し、または強敵を倒した戦士であることを意味しています。

　そしてこのような人々は通常「英雄」と呼ばれます！

　港の人々は自らの意志でこの英雄に道を譲り、顔には興奮と興奮があります。彼らはこれから何が起こることを認識しています。

　その戦士は段丘から飛び降り、オルフェウスの近くまで落ち着いて歩いて行きました。槍を持ち上げ、後者を指して、大きな声で言いました。「オルフェウス、あなたはミノア人の中最強の英雄として知られています。人々に『半神』と呼ばれていますが、私は白山から来たオピタウリオンです。『サガーメトス』の息子です。今日あなたに挑戦します！」