第14話 竜の子たち

~紫竜本家 こども部屋~

「お!龍光殿、龍久殿」

「龍灯様。お邪魔いたします。」

龍光が息子の龍久を連れて入ってきた。


「りゅう久!こっちであそぼうぜ!」


龍景と竜縁と一緒にパズルをしている龍陽が声をかけると、龍久は嬉しそうに駆け寄っていく。

部屋の右手側では竜琴が竜理、龍風、龍示と人形遊びをしている。


「龍示様もいらっしゃいましたか。」

龍光が龍算に話しかける。

「ええ、龍陽様たちがお誘い下さったのです。龍久のことも探していましたよ。」

「龍久と中庭で遊んでいましたら、使用人が呼びに来まして。やはり子ども同士で遊ぶ方が楽しいようですな。」

龍光はそう言って嬉しそうに息子を見る。

「龍示もですよ。」

そう言う龍算も愛おしそうに息子を見ている。

「子どもの頃を思い出しますね。」

龍灯の言葉に龍算と龍光は頷いた。

この部屋は昔から竜の子の遊び部屋にしており、たくさんのおもちゃを置き、壁や床は頑丈な作りにしている。


「やはり賑やかなのがいいですな。竜冠の時には一人で遊ぶことも多くて不憫でしたから。」


「ああ、龍兎には同い年の龍景に、年の近い龍緑や龍希様たちも居たけど、竜冠だけ年が離れてましたからね。」

「ええ、たまに龍緑や竜染がトランプなどの相手をしてくれましたが、竜冠も遠慮がちにしていました。 龍久はいい時に生まれましたよ。」

「龍久殿はちょうど真ん中ですからね。でも、マムシの侍女たちを龍久は気に入ったんでしょう?」

龍算たちが解放軍の巣でマーメイと一緒に発見した元奴隷のマムシの獣人2匹は、龍光が引き取って侍女見習いにしたのだ。


「ええ、同じ蛇族だからか他の使用人より龍久との相性がいいのです。 私の巣の侍女頭の言うこともよく聞きますし。本当は本家で使用人教育をするのですが、族長の奥様は蛇が嫌いだそうで、マムシたちを本家に置くことを族長がお許しにならなかったのです。 まあ、私の元妻のこともありますから、族長の奥様に文句など言えませんが。」

「ああ。あのゴリラも同じ理由で、本家での教育をしないまま龍景が引き取りましたよ。 しかし、龍景は元気だなぁ。なんで龍陽様たちと同じテンションで遊べるんだ?」

龍算はそう言って呆れた顔になっている。


「あいつも子ども好きなんだから、早く再婚して子どもを作ればいいのに。私や龍範の説教など聞きやしない!」


龍光は怒り出した。

「あはは!あいつはいつも龍栄様の再婚が先だって言って逃げるんですよね。ほんとに龍希様の悪いとこばかり真似るんだから。」

龍灯はそう言って笑う。

「そう言う龍光殿は再婚しないんですか?」

「私はまだ龍久が小さいですし、もう40を超えましたから、次の子どもよりも、龍久をしっかり育てて、竜冠と龍久に財産を遺してやりたいと思っています。」

「そんなご謙遜を。と言いたいですけど、子どもがまだ1人しかいない俺たちじゃ偉そうなことは言えないですね。」

龍灯の言葉に龍算も頷いている。


「いやいや、お二人はお子様が3人でも余裕でございましょう。期待しております。」

「いや~俺の妻は次で最後って言ってるからなぁ。」

龍灯は困った顔で笑う。

「私の妻はまだ体調が戻っていませんので、無理はさせられません。」

龍算も困った顔になっている。

「竜理様は兄弟ができると喜んでおられるのでしょう?」

「ええ。でも、困ったことに竜琴様みたいなお姉ちゃんが欲しいって言ってて。」

「はは!竜理は竜琴様にべったりだもんなぁ。」

「ああ。・・・ん?」

龍灯のところに二足形姿の竜理が駆け寄ってきた。


「パパ!」

「お、どうした?竜理」

龍灯は嬉しそうな顔になって床に膝をついて娘を抱っこする。

「わたしもあれほしい!」

「お!どれだい?竜理の欲しいものならパパがなんでも用意するよ。」

「あれ!」

そう言って竜理は竜琴の方を指差している。

「え?どれ?」

「りゅうりもこれがほしいんだって。」

そう言って竜琴が頭につけた深紅の髪飾りを指差すので、さすがの龍灯も顔色が変わった。


「え?いや、竜理?まさか、あの朱鳳の雄くさい羽のことじゃないよね?」


「ねえねとおなじの。あのあかいの!」


「あれはダメだ!」


龍灯が悲鳴をあげる。

「ほしいー!なんで?」

「あれはダメだよ。あんなケチ鳥のとこなんかに嫁にやれないよ! 似たような髪飾りを買ってあげるから。」

「やだ!ねえねとおなじの。」

竜理は怒り出した。

「だいじょうぶだよー。しゅほうからけっこんかんけいないってげんちとれば。」

竜琴はのんきにそう言うが、龍灯は青い顔をして首を横にふる。


朱鳳が結婚と無関係に自分の羽を贈ったりしない。


周りから見れば婚約の証としか見えない。

龍希様ほどの権力と度胸があれば朱鳳との縁談を断ることもまあ最悪、できなくもないが、補佐官レベルでは無理だ。

むしろ、竜琴様の代わりとして嫁に差し出されかねない。


「ええ!?」

娘のおねだりに途方にくれている龍灯を、龍算と龍光は苦笑いしながら見ていた。

「そういえば龍栄様は?竜縁様の近くに居られないとは珍しい。」

龍光が不思議そうに部屋を見渡す。

「ああ、龍栄様は客間ですよ。最近、ようやく竜縁様と距離をとるようになられました。」

龍算はそう言って苦笑いしているが、龍光は驚いた。

「え?一体何が?」

「いや~龍栄様は、数日前、娘になんで嫌われてるのか分からないって族長の奥様に相談されたんだよ。 そしたら、竜縁様と距離を置けって奥様にアドバイスされたんだって。」


「え?あの龍栄様が獣人の妻の言うことを聞いたのか?」


「ああ、驚くべきことにね。」

龍算はそう言って肩をすくめるが、龍光は信じられない。

「守番の竜夢殿が同じアドバイスを耳にタコができるほど繰り返してもダメだったのに、族長の奥様の言葉は一回で聞いたらしいよ。」

「ええ・・・なんで?」

龍光は呆気にとられている。

「すごいよな。あの龍栄様に信用されるなんて・・・」



うわ~ん


「ん?」

「あれ?龍風様、どうされました?」

先ほどまでご機嫌で遊んでいたはずの龍風が泣き出している。

「わ~ん、ママ!」

「あ~りゅうふうはおねむだね。」

龍陽がそう言うと、壁際に控えていた龍希様のカッコウの侍女が寄ってきて龍風を抱き上げた。

「さ、龍風様、奥様のところに参りましょうね。」

「タタ、よろしくね。」

タタと呼ばれた侍女は一礼して、龍風を抱えて出ていった。



「パパ!」

今度は子狼姿の龍示が龍算のところにかけ寄ってきた。

「どうした、龍示。」

龍算は龍示を抱えあげて笑顔で問いかける。

「ぼくもねむい。ママのとこいく。」

「え?」

龍算は困った顔になる。


昨年末に龍算の妻は育児放棄してしまい、子どもの顔を見るのも嫌がっているのだ。


「あ~。ママはここには来てないだろう?パパと寝よう。」

「やだ!ママ!ぼくもママのとこいく!」

龍示はそう言って泣き出した。

「参ったな。守番の竜和を呼んできてくれ。」

龍算の命令で執事のオラウータンはすぐに出て行ったのだが、


「りゅうじおいで!わたしとねんねしよ!」


竜琴が呼びかける。

「え?でも、ママがいい・・・」

「ねえねがひざまくらしてあげる」

「ひざ、まくら?」

龍示は首をかしげて竜琴を見るが、龍算も、龍灯も龍光もヒザマクラが何か分からない。

「そ!ほら、おいで!」

竜琴は気にせず笑顔で龍示を呼ぶと、龍示は龍算の両腕から飛び降りて竜琴のもとに寄っていった。

「そ、りゅうじはいい子だね。ほら、ごろーんして、ここにあたまをのせるの。」

竜琴はそう言って正座すると、自分の膝を指さした。

「え?こう?」

龍示は不思議そうにカーペットの上に横になると竜琴の膝の上に頭を乗せた。

「そう。よしよし。」

竜琴は笑顔で龍示の頭を撫で始めた。


「これなにー?」


龍示はすっかり泣き止んで不思議そうに竜琴を見上げている。

「ひざまくらだよー。ママがしてくれるの。りゅうじはとくべつにわたしがしてあげる。とくべつだよ。」

「とくべつ?ぼくが?」

「そう。とくべつ~。りゅうじはとくべつだよ。」

「わ~い。」

龍示は甘えるように竜琴の膝に頭を擦り付けている。


「え~ずるい!わたしも~」


竜理が龍灯のそばを離れて竜琴たちの方に寄ってきた。

走っているうちに子象の姿になる。

竜理と龍示はよく竜琴を取り合っているのだ。

「りゅうりはまってて。じゅんばんだよ。」

「え~やだー」


「なんだりゅうりもねむいのか?まだ赤ちゃんだなあ。」


龍陽が笑いながらそう言うと、竜理は不機嫌な顔になる。

「ねむくないもん!りゅうりもうあかちゃんないもん!」

「そうなのか?じゃあこっちこいよ!赤ちゃんじゃないならなかまに入れてやる!」

「ほんと!?」

竜理はとたんに笑顔になって、龍陽たちの方に寄っていった。


「え~りゅうりはでかくてやだー」


龍久が不満そうに竜理を睨む。

「おい、りゅう久!女の子にはやさしくするんだ。 パズルやめてボールあそびしようぜ!」

龍陽が龍久を叱りながら立ち上がった。

「はーい、りゅうようにいちゃん」

龍久は素直に立ち上がってボールを取りに行く。

「りゅうり、ボールであそぶからおれらと同じすがたになれるか?」

「なれる!」

竜理はそう言って二足形の姿になる。

そうして仲良くボール遊びを始めた竜の子たちを、3人の父親は感心して見ていた。


「あの龍希様のお子様とは思えんな。」


呆気にとられているのは龍光だ。

「奥様のご教育の賜物だよ。」

龍灯の言葉に龍算は大きく頷いた。

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