第1話 1人の女

とある異世界。


 その世界は、現代世界とは違い、魔術が発展した。

 魔術が発達するとともに、その世界の人々は考えた、「この魔術は誰が与え、なぜ生まれたのか」「そもそも、我々は何のために生まれ、何のために生きているのか」と。

 疑問に感じた人々は、魔術の研究を進め、術式、魔力源、魔法物理などが解明されていき……やがて人々は、それを「魔法科学」と呼ぶようになった。

 魔法科学の発達は、人々の生活をより便利にしていき、それまで地竜や馬が引いていた「車」は、魔法で動く「自動車」へと変わり、それまで人の手で建てていた建物たちも、「工作機械」の活躍により、より高い建物も建てられるようになった。


 ……そして、この世界に、そんな魔法科学を引っ張る女が一人。


「あらぁ? こんなところで迷子かなぁ? ママと逸れちゃったのかなぁ?」


 女は道端で見つけた地竜の子どもを抱きかかえ、赤子をあやす様に撫で始めた。

 ……女の見た目は、まるで少女のようだった、赤毛のロングヘアがトレードマーク、しかし、女の服装は、気品がありつつも動きやすそうなドレスを召していた。


「よしよし~、よしよし~……やっぱりかわいいなぁ、地竜は……」


 女は時間を忘れ、地竜を撫で続けた。

 彼女にもこれから大事な予定があった……が、彼女は自分のやるべきことよりも、動物を撫でたいという欲望が勝っていた。


「あ! それぼくの地竜!」


 地竜を撫で続けていた女の元に、同じくらいの身長の少年が、彼女に駆け寄ってきた。


「あら、これ君の?」

「うん! 散歩してたらどっかに行っちゃってて……」

「こらこら、ダメだよ、飼い主なんだからちゃんと面倒見なきゃ……」

「う、うん……」

「ほら、ちゃんと抱えて」


 女は地竜を少年に手渡した。


「ちゃんと見てるんだよ、お姉ちゃんと約束!」

「お、お姉ちゃん? ぼくと同じくらいじゃないの? 背の高さも同じくらいだし……」

「しっつれいね! 私はこう見えて『21歳』よ!」

「あ、ごめん、お姉ちゃん……」

「全くもう! とにかく! もう離しちゃダメだからね! ……ってやば! そろそろ『オムニバス』が出ちゃう! じゃあね!」


 女はようやっと用事を思い出し、走り出した。

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