星の継承者たち

島原大知

第一章

宇宙暦2758年、考古学者のライア=ソレルは、太陽系外縁部に位置する惑星トリトンの地下遺跡で、古代の宇宙種族に関する謎めいた記録を発見した。


「ゼフ、これを見てくれ」


ライアは、同僚の宇宙生物学者ゼフ=レナードを呼ぶと、半透明の情報端末に浮かび上がる古代文字を指差した。


「こんなところに、『ホモ・ステラリス』について書かれているなんて…」


ゼフの瞳が、驚きに見開かれる。


ホモ・ステラリス──それは、人類の起源に関する一つの仮説に過ぎなかった。だが、その存在を裏付ける資料が、まさかトリトンの地下遺跡で見つかるとは。


「宇宙に存在する知的生命体は、ホモ・ステラリスの意志によって創造された──そう読める」


ライアの声が、遺跡内に木霊した。


「パンスペルミア仮説だ。生命の種子が宇宙を漂い、環境が整った惑星で発芽するという説だが…まさか、その種子を撒いたのが、高度な知性体だったとは!」


ゼフは興奮を隠しきれない様子だった。


ライアもまた、胸の高鳴りを感じていた。宇宙考古学者としての直感が、この発見が人類史に大きな衝撃を与えると告げているのだ。


創造主とも言うべき古代種族の存在。それは、人類の起源に関する常識を覆すだけでなく、人間とは何かという根源的な問いを突きつけてくる。


「私たちは、このホモ・ステラリスを追わなければならない」


ライアの瞳が、探究心に輝いた。


「急がないと、学会の連中に先を越されるぞ」


ゼフが笑みを浮かべる。競争相手に先んじて新発見をすることは、宇宙考古学者としての醍醐味だった。


「アルファ、直近の惑星調査のスケジュールを調整してくれ」


「かしこまりました」


探査機に搭載された人工知能アルファが、穏やかな音声で応える。


「次の目的地は、HE1327-2326だ」


ライアは、星図を見ながら言った。HE1327-2326は、銀河系最古の星の一つとされる天体だ。


「了解です。ジャンプ準備に入ります」


アルファの言葉を合図に、探査機の核融合エンジンが静かに加速し始めた。


ライアの思考は、遥か彼方の古代へと旅をしていた。


私たちの祖先は、いったい何者だったのか。


ホモ・ステラリスが残した答えを求めて、若き宇宙考古学者の冒険が始まったのだ。


***


「ライアの研究か。確かに興味深い仮説だが、証拠が乏しいのが難点だな」


トリトンの宇宙港で、ライアとゼフを見送ったアマリ=ヴェンカタラマンは、露骨に眉をひそめた。


「アマリ先生。私は必ず、ホモ・ステラリスの痕跡を見つけ出します」


師の懐疑的な態度に、ライアは反発を覚えていた。


「それは君の自由だ。だが、惑星調査局の予算を使うからには、確たる成果を出してもらわないとね」


「わかっています」


ライアは歯を食いしばった。アマリの厳しさは、宇宙考古学者を志す者として当然のことを求めているに過ぎない。


「健闘を祈っているよ。君の直感を信じているからこそ、厳しいことを言うんだ」


アマリは笑みを浮かべ、ライアの肩に手を置いた。


師の温かさに、ライアの心が和らぐ。


遺跡から見つかった記録。


宇宙に散りばめられたホモ・ステラリスの"種子"。


壮大な仮説を裏付ける証拠を見つけ出すことで、ライアは師の信頼に応えるのだ。


船内に戻ると、ゼフとアルファが待っていた。


「やあ、待たせたね」


ライアが軽やかに言うと、ゼフは小さくうなずいた。


「次の目的地はHE1327-2326だったね。俺もワクワクしてきたよ」


「ゼフとアルファがいてくれて、心強いわ」


ライアは仲間への感謝を込めて微笑んだ。


「これから、人類の起源の謎に挑むんだから」


「そうだね。人類は一体何者なのか──」


「その問いの先に、私たちの存在意義が見えてくるはずよ」


ライアの凛とした表情を見て、ゼフは頷いた。


「私たちは、真理を追い求める者です。たとえ、それが人類の常識をくつがえすことになっても」


アルファの言葉が、探査機内に響いた。


ホモ・ステラリスが残した謎の封印を解くため、若き冒険者たちの船出が始まった。

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