夢の中の君へ。

うさらぶ

夢の中の君へ。

登場人物

A…犬派。明るく元気な性格。ゲームが好きで、料理や片付けが苦手。

B…猫派。面倒見がよく落ち着いた性格。料理が好き。ゲームは最近やりはじめた。

※Bの母は、B役の方が兼ね役してください。








B:昔、すごく怖い夢を見た。夢の中の出来事だから細かいことは朧気だけど、はっきり覚えてることがある。

B:私と同じ名前の仲のいい女の子がいて。私の家でお泊り会をして。わたしたちはもう一人の自分みたいだ、なんて言って笑って、ならんで眠って。

B:それなのに、あの子は苦しそうで、悲しそうに、消えてしまいそうに見えて…。階段の上あの子は、笑いながら泣いていた。


B:手を、のばした。


B:気がつくとあの子はいなくて、誰もあの子のことを覚えていなくて、そのうち私もあの子とのことを忘れてしまう。…そんな、夢を見たんだ。




A:はじめまして、山城中学出身の、蓮葉ルリです!


B:あの子だ、と思った。

B:あの子の苗字は母の旧姓と同じで、もしも父が婿入りしていたら私の名前は蓮葉 瑠璃だった

B:私とあの子は同じ名前という接点もあり、すぐに仲良くなれた。

B:ルリは明るく元気で、ゲームが好き。ハンバーグが好物で、外食の時はだいたいハンバーグを頼む。そのくせ「求めてた味はこれじゃないんだ…!」なんて難しい顔をする。


B:高校2年の夏。終業式が終わった帰り道、あの子は交通事故にあったらしい。

B:心配で、メッセージを送ったけど、既読はつかない。

B:夏休みが半分終わったころ、あの子が迷子のような顔をして、家の前まで走ってきた。


B:ルリ、心配したんだよ。ケガは大丈夫なの!?

A:…え

B:すごい汗。うちにあがってよ。ケガは…大丈夫そうで安心したけど、ひどい顔だよ。


A、 表札を見たのち、Bの顔を見る。


A:なんで、そんな…

B:本当、今日はどうしたの?ルリ、ちょっと変だよ。

A:なんで!?


Bの両親がやってくる。


Bの母:瑠璃、どうしたの?……あら、瑠璃のクラスの子?よかったら上がっていらっしゃいな。


A:…と…、…か…さ…(何かつぶやいているが聞きとれない)


A、 Bの両親を見つめる。


B:ルリ?

A:……ッ!


A、 その場から走り去る。


B:ルリ、待ってよ…!



B:様子のおかしいルリが心配で、その日の晩、ルリにメッセージを送った。


B:『今日、どうしたの?』

A:『……』

B:『あの後ちゃんと家に帰れた?気分悪いとか、どこか痛いとか、そういうのはない?』

A:『……』

B:『心配、してたんだよ。事故に遭ったって聞いて。でも、大きなケガがなさそうで、安心した。何かあったら、いつでも言ってね』


B:『今日は午前中雨だったけど、お昼から晴れてよかったね。うちの窓からきれいな虹が見えたよ (虹の写真) 』


B:『うちの犬。犬なのに暑さで溶けて、液体みたいになってる (犬の写真) 』

B:『私は猫派なんだけど、お母さんが犬大好きで。いい子なんだ。私もよく元気もらってるから、おすそ分け』

A:『(犬のスタンプで)…ありがと』


A:『近所に居ついてる、野良猫。ミケは珍しいから… (猫の写真) 』

B:『かわいい!ありがとう!』


B:何度かメッセージを送るうちに、ぽつぽつと、ルリからも返信が返ってくるようになった。ぎこちなさは残るけど、私の知っているルリとのやりとりが戻ってきたように感じた。

B:なぜか、ルリは私のことを「B」と呼ぶようになった。理由も、事故の後何があったのかも、教えてくれなくて、少し寂しい。

B:それでも、今はただ、ルリが元気になったことが嬉しかった。きっといつか教えてくれるはず。


B:『そういえば、夏休みの宿題ってどうなってるの?免除?』

A:『ケガが大したことなかったから、宿題はやらないといけないんだ…。テキスト系は猶予もらったから、9月中に出せばいいんだって。それでも量が多いから今のうちに進めないといけないんだけど…』

B:『大変だね』

A:『ここ散らかってて、全っ然やる気でない。集中できない』

B:『じゃあ、一緒に勉強する?』

A:『でも、図書館は明日から改修工事でしょ? ファミレスは、うるさいから集中できないと思うし』

B:『うちにおいでよ。もちもち柴犬のゴンタもいるよ~』

A:『……』

A:『いや、迷惑でしょ』

B:『大丈夫だよ。というか、実は両親が明後日から二人とも出張で、ちょっと寂しいんだ。よかったら、泊まりに来てよ』


B:結論を言うと、ルリとのお泊り会は明後日から実施されることになった!夏休みが終わる前の最後の3日間。2泊3日のお泊り会。ちょうど両親の出張と重なる期間だ。

B:ルリを説得するのにちょっと時間はかかったけど…

B:今のルリを放っておいたらいけないって思った。両親も、私が事故の話をしたからか、この間のルリの様子を見たからか、ルリのことを心配していたみたいでお泊り会を許してくれた。あと、なんだか「あの子なら私たちがいない時でも大丈夫だって思った」んだって。



B:お泊り会の日になった。昨日お母さんと一緒に掃除したし、散らかってたり変なところがないかチェックしたから、大丈夫なはず。そわそわしながらリビングで待っていると、ぴんぽーん、と間延びしたチャイムの音が鳴った。


B:いらっしゃい!

A:……お…おじゃま、…します

B:そんな緊張しないでよ、たしかにうちに遊びに来るのは初めてだけど、親いないから図書館とかファミレスに行くのと同じ感じで大丈夫だよ。

A:…いやー、誰かの家に遊びに行くの、実は初めてでさ。


A、ゆっくりと、かみしめるように、Bの家の玄関や廊下、リビングを見渡す。


B:そうだったんだ、意外。私の部屋、2階なんだ。こっちだよ。

A:青系の色が多いね。落ち着いた感じだ…

B:そうそう。瑠璃色って色があって、私の名前と字も一緒で、この色好きになったんだよね。

A:私の部屋は、もっと暖色系が多かった…

B:…そうなんだ?今度行ってもいい?

A:片付けないといけないから、しばらくは無理かな~…はは…


B:宿題、何からやる?

A:とりあえず、始業式の日に出さないといけない読書感想文と、量が多い数学のテキストが優先かな…

B:読書感想文の本って決まってるの?

A:とりあえず図書館通信で1位の本借りた。一昨日。実は…まだ読み終わってない。

B:じゃあ、午前中は数学やって、午後は本を読むってのはどう?

A:そうしよっかな。


B:午前中はお互い数学の勉強をして、午後は、私は苦手な英語の復習を、ルリは読書感想文用の本を読んだ。けれどなかなかページが進まない様子で、集中できないといって、ルリも途中から英語の課題を進めることにしたようだった。


B:そして、お泊り会の最終日。まだルリは読書感想文を書けずにいた。


A:あーあ、隕石でも落ちてこないかな。

B:なに、突然。

A:それか、突如銃を持った強盗とかが入ってきて、「手を挙げろ!」って

B:昨日見た、頭脳は大人の名探偵アニメ引きずってる?

A:私はトイレにいくフリして犯人に近づいて銃を奪うから、Bは麻酔銃かサッカーボールで相手オトしてね!

B:要求が高い!あんなトンデモメカもってないよ!それと普通に無理。

A:お泊り会終わっちゃう…やだ!

B:それどころか人生終わりそうだけど。

A:いっそ…アリ!?

B:ナシだよ。はいはい、馬鹿言ってないで手を動かす。原稿用紙まだまだ真っ白ですよー。

A:あ゛ーやだー!もう1文字もかけない!

B:皆、その苦しみを乗り越えて書いてるんだよ。別に先生も文章力は期待してないと思うからさ、小学生並みの文章でもいいから、何か書こうよ。とりあえず。

A:主人公は苦労を乗り越えて幸せになった!すごいなと思った!完!

B:いや幼稚園児。

A:だって何も書くことないもん。苦手なんだよー!

B:なんでそんなに合わない本選んじゃったの…。

A:図書館通信の「おすすめの本」1位だから、行けると思ったのに…。

B:今から別の本読み直す?

A:それも面倒なんだよなー…。読書感想文なんて書かなくても別に人生に支障はないんだしさー、折角の夏休みなんだから、遊ぼうよー。イカの色塗りゲームやってみたい。


A、迷いない様子でBの部屋のテレビボードを開け、目的のゲームを取り出す。


B:こら勝手に開けない…って、一発で目的の物を取り出すとは…たまに見せるその妙な勘の良さは何なの?

A:ふふん、Bの事はお見通しだよ!さ、ゲームだ!

B:はいはい。宿題提出しないと怒られちゃうよ。お泊り会も、今日までだし。

A:…。

B:あとは読書感想文だけなんだから、さっさと終わらせてゲームしよ。私も手伝うから。

A:ほんと!?

B:確か、アニメ化するっていう本だよね。あらすじは…

B:「野球が好きな父、少し天然な母、運動が得意な一色(ひいろ)、そして体は弱いが優しくピアノを弾くのが好きな妹の二葉(ふたば)。平凡だが仲のいい4人家族。ーーその筈だった。ある朝目が覚めると二葉は消え、『彩羽(いろは)』という活発な少女が『妹』だと言うが…? 誰もが二葉のことを知らないという中、一色は二葉を取り戻すことができるのか!?」

B:…漫画でもこんな感じの話はあるよね?何に躓いてるの?サクサク読める感じだし、主人公の行動も「二葉を助ける」ってことで一貫性あるし、そんな難しい内容じゃないよね?

A:…だって彩羽ちゃんいい子じゃん。そりゃあ、主人公からしたら、異物…かもしれないけど……。明るくて、一色のこと大好きでさ。二葉か彩羽かどちらかしか選べないって状況になってさあ…それでもまったく悩まずブレないって逆におかしくない?…人間の心搭載されてる??主人公ヤバイやつすぎない?

B:ネットの感想見たら「家族愛を感じて、そこがいい」らしいけど?

A:うー、全っ然共感できないよお…。

B:別にそれならそれでいいんじゃない?「どこがおかしいと思ったのか」も感想でしょ?

A:うーん…とりあえず…書くー…。

B:がんばれ。

A:はーい…。


A:書いた!

B:お疲れ。枚数もクリアしてるし、いいんじゃない?

A:ゲーム!ゲーム!

B:その前に晩ご飯買いに行こ。


二人はBの部屋を出て1階へ降りる。リビングを抜け、キッチンやトイレのドアの前を通り過ぎるが、シンと静まり返り、二人の足音以外の音はしない。Bの家をでる。


A:明日まで出張なんだっけ。

B:そう、うち共働きで。お母さんは滅多に出張はないんだけど、なんか重なっちゃったんだよね。しかも二人とも遠くにいくから、前泊からでちょうど2泊3日。

A:よくお泊り許してくれたよね。

B:ほんと、不思議だよね。でもなんか、両親もあの子ならいいかなって感じになって。あ、コンビニついたよ。何食べる?

A:…ハンバーグ。食べたいな。

B:また?前もファミレスで頼んでたし、本当に好きだよね。でも毎回「求めていたのはこれじゃない」とか言ってるけど、将来ハンバーグ評論家でも目指すの?

A:目指さないよ!? ってかそんなことあったんだ!?

B:あったし、言ってた。

A:……もう一回食べたい味があるんだよね。

B:好きなお店が閉店しちゃったとか?

A:……そうじゃないけど、そんな感じ。

B:ふーん。…今晩、一緒に作ってみる?ハンバーグ。

A:え?

B:そんなに食べたくて、でもお店がないなら、あとはもう作るしかないでしょ。

A:…。

B:どうする?スーパーも近くにあるから、材料も買えるよ。とはいっても今からレシピ探求する時間はないから、とりあえず今日はうちのレシピだけど…。

A:うん…。ありがと。

B:なんか、急にしおらしくなったね。変なの。


夜。Bはベッドに、Aは来客用の敷布団に横になっている。


A:B、もう一泊していい?っていうかBの家の子になる。

B:どうしたの急に。

A:ハンバーグ、おいしかった。

B:気に入ってくれたようで何より。でも、うちのは普通の家庭レシピだよ?

A:むしろそれがいい。B、すごいね。料理上手だ。

B:好きなんだよね、料理作るの。特に餃子とかいいよ。餃子包みながらだと考え事が進むから。

A:意味わかんない。いやー、同じ名前でも全然違うねー…。

B:そりゃ、そうでしょ。というか、いくら同じ名前でもBはないと思うよー…普通こういう場合って、せめて苗字で呼んだり、そこからあだ名とかつけるでしょ。

A:んー…、苗字は、なんか違うっていうか。

B:Bは違わないんだ。

A:Bは、Bだからね。

B:変なこだわり強いよね。

A:……ねえ、B。私のこと…呼んでみてよ。


B:いやに真剣な目をしていた。私はふと、昔見た夢を思い出した。

B:同じ名前の女の子とお泊り会をして。わたしたちはもう一人の自分みたいだ、なんて言って笑って、ならんで眠る夢。

B:今だ。今が、そうなんだと思った。あの夢の中で私は、あの子のつけたあだ名に倣って、あの子を「A」と呼んだ。そうしたらあの子は私のことを「もう一人の自分」だと言って、笑って…笑っていたのだろうか?布団をかぶっていたから、表情はわからなかった。


A:B…?


B:夢で見た、笑ってるのに泣いている、ぐちゃぐちゃの顔を思い出す。


A:寝ちゃった…?


B:多分、夢の中の私は間違えたんじゃないだろうか。何を、どう、と言われるとわからないけど。ただ、今この一瞬があの子にとってはすごく重要な瞬間なんじゃないかと思った。


B:…ルリ。

A:もう一回。

B:ルリ。

A:うん。…うん。

A:…ねえ、瑠璃。

B:なに?

A:ありがと。

B:変なの。…ルリ、お休み。

A:お休み、瑠璃。


翌朝。


A:宿題、ありがとうね、B!

B:どういたしまして。残りもがんばろうね。

A:はーい!


A、Bの家をじっと見る。しばし見つめた後、


A:…お邪魔、しました。


歩き去るAの背に、Bが声をかける。


B:また、学校でね!ルリ。

A:うん。…またね、瑠璃!



A:あの日のことは、まだ鮮明に覚えている。

A:ずっと気になっていたイカのゲームを買って、遊ぶのを楽しみにしながら歩いていた。そしたら、突然、世界がひっくり返った。強い衝撃と、背中と頭が一瞬熱くなって、それから、それから…急に寒くなった。

A:目が覚めたら、私は一人で病院にいた。知らない苗字。家族は私が小さいころに死んでるらしい。変わらないのは、名前だけ。

A:わけが分からなかった。退院して、私は走って家に帰った。

A:…知らない子がいた。その子も「瑠璃」という名前で、私はクラスメイトらしい。お父さんも、お母さんも、私のことを知らないみたいで。

A:すごい顔で走ってきて、叫んで、走り去った私は、不審者のように見えただろう。でも、本気で心配して、力になろうとしてきて。


A:あそこは私の居場所のはずなのに。あの子のことが、嫌いだった。憎かった、筈だ。

A:…でも、心配になるくらいに面倒見がよくて、優しい子で。もっと、嫌な奴だったらよかったのに。


A、空を見て、わらう。


A:あーあ、隕石でも落ちてこないかな。


A:そしたら、私は今度こそあの家に帰れるのだろうか。少なくとも、あの子を憎まないで済む。それはとっても魅力的で。ありえない展開を想像して、泣いた。




B:あの子が、また、名前を呼んでくれるようになった。

A:ここは、あの子の、「瑠璃」の世界なんだ。


B:私は、今度は間違えなかったのかな。

A:これが夢ならいいのに。


※次のセリフは同時に。ただ、ずれても気にせず言い切ってください。

B:(同時に)夢の中の君へ。

A:(同時に)夢の中の君へ。


B:絶対、あんな顔させないからね。

A:助けて。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る