第一章

ep.1余命半年の三日月

一ノ瀬が家族と家を失ったと知ったのはダンジョンが現れてから三日後、病院で目が覚めた時だった。


人類史上最大の大惨事であるダンジョンの出現。

それに伴う、人工物の大崩壊と人々の砂化の影響は余りにも深い爪痕を人々の心に残した。


それは東京に住む一ノ瀬にとってもやはり他人事ではなかった。


ダンジョンの出現に巻き込まれながらも間一髪で助かった一ノ瀬も例外ではない。


かつての生活圏はダンジョンに飲み込まれ家も学校も家族も全てを失い、これからどうやって生きていけばいいのか見当もつかない。



このとき十六歳の高校生だった一ノ瀬にとってこの現実は余りにも受け入れがたいものだった。



入院して数日、病室のラジオから流れるニュースは不安を煽るものばかり。


病院には被害を受けた者が次々と運びこまれる。


そして助からなかった者が次々と運び出されていく。


近所に仮設された火葬場からは絶えず煙が上がっていた。


窓の外の煙は少しずつ、だが確実に一ノ瀬を憔悴させた。


こんな状況で生き残ったところでどうしろというのだ。

気がつけばそんな思考が頭の中を支配する。



入院して五日目、とうとう一ノ瀬は自殺を決意した。



生きていればいつかいいことがあるかもしれない、そんな微かな希望を灯にして生きていくには一ノ瀬が直面した現実は余りにも暗すぎた。


深夜1時、こっそりと病室を抜け出し屋上へ向かう。階段を一歩ずつ昇る。


一歩ごとに家族や友人との思い出が蘇る。


死に近づいた人間が走馬灯を見るのは無意識に過去の経験から生き残る方法を探しているからとは言うが、二度と元に戻ることはない日常の記憶はむしろ逆効果で一ノ瀬の死への覚悟を固くするだけだった。


病院の屋上の鍵は内側からなら誰でも開けられる作りになっていたため一ノ瀬は簡単に屋上に出ることができた。


屋上には落下防止用のフェンスが設置してあるが大した高さでもなく返しや鉄条網もない。


これなら簡単に登れるな、そう思った一ノ瀬はフェンスに近づいた。その時……



「そんなところで何をしてるの?飛び降り自殺?」



病院のフェンスに指をかけよじ登ろうとしたその時、一ノ瀬は誰かに声をかけられた。


声のした方を見るとそこには一人の少女がいた。


真夜中の屋上は暗いので顔はよく見えない。


わかるのは少し痩せていること、髪が長いこと、松葉杖をついていることぐらいだった。


屋上には誰もいないと思っていたため急に現れた少女に一ノ瀬は少し驚いた。

しかし一ノ瀬はそのまま無言で再びフェンスを越えようとする。



「ちょっとちょっと、無視しないでよ!聞こえてるでしょ?」



一ノ瀬は構わずフェンスを上る。



「だーかーら!ちょっと止まりなさい!」



一ノ瀬の片足がフェンスにかかったとほぼ同時に背中、ちょうど肝臓がある部分に何かが突き刺さった様な鈍い激痛が走った。


余りの痛みに思わず手を離してしまった一ノ瀬は勢いよく地面に落下した。


ドスッという鈍い着地音と同時にカラランッという軽い金属の音がする。


一ノ瀬はこの音で痛みの原因が分かった。あの少女に松葉杖を投げつけられたのだ。




「痛いじゃないか!松葉杖投げるなんて何考えてんだ!?」




「何よ!無視するあなたが悪いんじゃない!」




「だからって松葉杖投げるか、普通!?」




一ノ瀬は声を荒げて抗議した。


死ぬ時ぐらい静かにして欲しいものだ、と一ノ瀬は思い少し怒りながら



「止めようとしてんなら無駄だぞ。」



と、一ノ瀬はそう言って立ち上がった。


だが少女は一歩も引くつもりはないようで



「別に止めようとしてるんじゃないわよ、死にたいなら勝手にどうぞ! ただ今日は諦めて、今日はわたしの誕生日なの。自分の誕生日に目の前で死なれるのは気分が悪いでしょう?もしどうしても死にたいなら別の日か別の場所でお願いできるかしら。」



と言い放った。 


一ノ瀬は唖然とした。


一ノ瀬の経験上こんな身勝手な奴は初めてだ、普段はなかなか感情を表に出さないタイプだがこの時ばかりはあんぐりと口を開けてしまった。



「人の自殺を止めるならもっとこう……あるだろ!命を大切にしろとか、希望を捨てるなとか!」



「あら、止め方に文句を言うなんて……もしかして誰かに止めて欲しかったの?」



「そんなわけあるか!この身勝手女!」



「身勝手の定義は人それぞれだけど……、少なくとも病院の屋上から飛び降りようとしているあなたのほうが身勝手だと思うわよ?ただでさえあの災害のせいで病院が忙しいっていうのに余計な死体を一つ増やすんだから。」



「ぐっ、それはそうだけど……。」



痛いところを突かれた、と一ノ瀬は思った。


一ノ瀬の境遇を考えれば周りのことを考える余裕がなくなるのも仕方がないとは言え、少女の言葉は正論であることに変わりはない。


いっそのこと自分の境遇を全て吐露してやろうかとも思ったが、それを彼女に言ったところで



「同情してほしいの?別に余計な仕事が増えることには変わりないと思うけど?」



と冷たく返されそうな気もする。さすがにそれは癪なので一ノ瀬は何も言わなかった。



「何も言わないってことは納得してもらえたってことでいいかしら。」



彼女は冷たく言い放つ。


一ノ瀬は心底イラっとしたがここで言い争って病院の職員が駆け付けたら面倒だ。


幸い彼女は自殺そのものを止めようとはしてない、ならまた明日ここに来て死ねばいいだけの話。


別に今日にこだわる理由はない。



「もういい、明日は邪魔するなよ。」



一ノ瀬はそう言い彼女を置いて屋上から立ち去ろうとした。しかし……



「待ちなさいよ。」



背中から声をかけられた。



「松葉杖……取りなさいよ。」



「はぁ!?」



「あなたのせいで松葉杖投げちゃったのよ?拾ってくれてもいいじゃない!」



あまりにも勝手な言い分に、一ノ瀬は怒りを通り越して逆に感心してしまった。


どういう環境で育てばこうなるのだ。



「そっちが勝手に投げたんだろ。そんくらい自分で取れよ。」



「取れるわけないでしょ、どうしてわたしが杖をついて歩いていると思っているの?足に怪我してるの!」



やっぱり身勝手女じゃないか。


そう思いながら一ノ瀬は松葉杖の落ちているところまで歩く。


このまま放置してやろうかとも思ったが下手に放っておいて別の人を呼ばれると厄介だ。


最悪、病院の関係者にことの顛末を知られ屋上を封鎖されるかもしれない。



「ほら、これでいいか?」



拾った松葉杖を押し付けるように彼女に渡した。


彼女が松葉杖を取ったその時、月明かりが差した。


きっとひどく憎たらしい顔をしているのだろうと思っていた一ノ瀬の予想は裏切られた。


月光に照らされた彼女は思いのほか可愛らしく見えた。



「ありがとう、優しいところもあるじゃない。」



と少女は言ったが、一ノ瀬は何も言わずにその場を去った。


翌日の夜、一ノ瀬はもう一度病室を抜け出し屋上に向かっていた。


昨日がイレギュラーだったのだ。この病院の屋上は碌に掃除もされておらず人がいる方が珍しい、深夜なら尚更だ。


今日は誰にも邪魔されず死ねるはず、そう思い一ノ瀬は昨日と同様に屋上に続く階段を上り屋上に出たのだが……



「遅いじゃない、どれだけ待たせるつもり?」



そこには昨日の少女が立っていた。


一ノ瀬は目を疑った、そして頭を抱えた。


どうしてここに少女がいるのだろうか。


少女の発した言葉から察するに一ノ瀬を待っていたようだが……もちろん待ち合わせなんてした覚えはない。



「お前、なんで今日もいるんだ?」



と一ノ瀬は尋ねた。



「わたしがいたら問題でもあるの?別に屋上はあなただけの場所じゃ……」



言い返そうとした彼女の言葉は途中で止まった。そして少しため息をついて言葉を続けた。



「ごめんなさい。わたし昔からこうなの、売り言葉に買い言葉というか……悪い癖ね。今日はあなたに謝らないことがあってここで待っていたの。」



「謝らないといけないこと?」



一ノ瀬は少女の意外な言葉に驚いた。


この少女の辞書は、謝罪に関するページが欠落していると思っていたがどうやらそうではないようだ。


少女が話し出す。



「昨日の夜、あなたが屋上から出ていったあと私も直ぐに部屋に帰ったの。それで時計を見たらもう深夜の1時だったの。」



「何が言いたいんだ?」



「えっと、もう!だから昨日はもうわたしの誕生日じゃなかったのよ!」



少女はこれ以上言わせるな、察してくれとでも言いたげだが何が言いたいのか一ノ瀬には全くわからなかった。


困惑する一ノ瀬を見てこのままでは言いたいことが伝わらないと思ったのか、少女は早口で説明を始めた。



「誕生日ってどんな我儘を言っても許される日じゃない?だから私は昨日ちょっと強引に飛び降りを止めたのだけれども、でもあの時は既に日付が変わっていてもう誕生日じゃなかったの。それなのに私ったら我儘なこと言って迷惑かけちゃったから……謝りたかったの!」



少女は少し顔を赤くしてそう言った。


何やら昨日の自分の行いを恥じているようだがやはりよくわからない。



「別に誕生日ってどんな我儘でも許される日ではないぞ?たぶんそれお前ん家だけで適用されるルールじゃないのか?」



と一ノ瀬は言った。すると少女は混乱したような表情で



「え?え!?」



と声を漏らしますます顔を赤くした。



まるで中学一年生までサンタを信じていたことを友人にからかわれた時の自分のようだと一ノ瀬は思った。


自分が常識だと思っていたことが覆された時のリアクションは意外とみんな似たようなものなのかもしれない。



「じゃあ、二重の意味でごめんなさい。本当に迷惑をかけてしまったわね。」



困惑しつつも少女は謝った。


一ノ瀬は正直なところもう全然怒ってはいなかった。これから死のうと考えているのだ、怒る気力などない。



「いいよ、もう邪魔するなよ。」



と言い少女の横を素通りしてフェンスをよじ登り乗り越える。


屋上の端っこ、つま先がはみ出るくらいギリギリまで端っこに立つ。


ヒューヒューと強い風が吹く中、真下を見下ろすが夜ということもあって何も見えない。


ただただ真っ暗で静かな空間が一ノ瀬をいまかいまかと待ち受ける様にに広がっている。


ここから一歩踏み出せば全てが終わる。


目が覚めた時からずっと一ノ瀬にまとわりつく絶望に終止符を打てる。一ノ瀬は目を瞑り、呼吸を整え、覚悟を決め、最後の一歩を踏み出……



「ちょっと待ちなさい。」



邪魔が入る。



「なんだよ、邪魔するなって言っただろう。」



この期に及んでまだ何かあるのかと思いながら一ノ瀬はうんざりした顔で振り返る。


少女はフェンス越しにすぐ後ろにまで来ていた。


少女は



「このまま迷惑をかけたまま死なせるわけにはいかないわ。私に責任を取らせて。」



と、真剣な目つきでそう言った。


どういうことだ?と一ノ瀬は疑問を抱いたが、その疑問について尋ねる余裕は直ぐになくなった。


少女はフェンスの隙間から松葉杖を突き出し一ノ瀬の背中を小突きだした。



「ちょ!? 何すんだ、落ちるだろ!」



一ノ瀬は反射的にフェンスを掴んだ。少女は構わず小突き続ける。



「何って、あなたを突き落とすのよ。本来ならあなたは昨日、飛び降りて死んでいたはずなの。でも私の我儘のせいで死に損なった。そのせいで一度でも精神的に苦しいはずの自殺を二度もさせてしまう羽目になったわ。」



「それはそうだけど今その話関係あるか!?」



とフェンスの隙間から繰り出される松葉杖をよけながら一ノ瀬は言う。



「大ありよ、二度も辛い覚悟を強いるつもりはないわ。私が背中を押してあげる、あなたは目を閉じて立っているだけでいい。それが私なりの責任の取り方っ、だからっ、何でよけるのよ!じっとしてて。」



「待て待て待て!自分のっ、自分のタイミングがあるからっ!それ辞めろ!」



一ノ瀬は必死になってフェンスにしがみつく。死にたかった一ノ瀬と死んで欲しくない少女と言う昨日までの構図はすっかり逆転していた。



「君たち何を騒いでいるんだ!今何時だと……って危ないぞそんなところで!」



結局騒ぎを聞きつけた警備員が一ノ瀬と少女を取り押さえ一ノ瀬の自殺はこの日も失敗に終わった。



当然この話は病院関係者にも広まり当日のうちに屋上は完全に封鎖され一ノ瀬には監視がつくことになった。



「お前のせいだからな、てか何で俺の病室にお前が来てるんだ。てかどうやって知ったんだ。」



翌日、一ノ瀬の病室には少女がいた。少女は一ノ瀬のベットの横の椅子に腰かけながら



「先生に聞いたら教えてくれたの。まさか私の病室の向かい側だとは思わなかったからびっくりしたけどね。冷静に考えてあなたに凄い迷惑をかけたからもう一度謝りたくて……本当にごめんなさい。」



と言い深々と頭を下げた。


一ノ瀬は



「……別にいいよ、俺だって冷静じゃなかったしな。意識不明で運ばれてきた俺をお医者さんや看護師さんが頑張って助けてくれたのに、その人たちが働いている場所で死のうなんて流石に酷いよな。」



と優しい口調で言った。


これは間違いなく一ノ瀬の本心だった。


昨日、屋上で警備員さんに見つかったあと担当の医者と話して気づいたのだ。


一昨日よりも昨日の方が、昨日よりも今の方が目の下のくまが濃くなっている。


休みなく運び込まれる大災害の被災者の命を寝る間も惜しんで助けている。


それなのに必死に救った自分が救った命が自殺を図ったのだ、一ノ瀬は自分の行動がどれだけ周りに精神的負荷を与えていたのか自覚した。


周りをみる余裕のなかった一ノ瀬だったが、疲れ切った医者の顔を見てからは少しだけ冷静さを取り戻していた。


一ノ瀬は少女に



「逆に止めてくれてありがとな。」



と言った。すると少女は



「感謝されるようなことなんて何もしてないわ。」



と言う。

一ノ瀬はなんと返せばいいかわからず病室に沈黙が流れる。


用が済んだというのになかなか病室から出ていこうとしない少女に何か話題を振るべきか、というか何で出ていかないんだ?と一ノ瀬は疑問に思い。



「えーっと、まだ何か俺に用があるのか?」



と尋ねた。すると少女は小さな声で、少し早口で、



「実はここに来た理由は謝るためだけじゃなくて……久々に人と話した感じがしてちょっと嬉しかったから来ちゃったの。最近は病院の先生とか看護師さんとしか話せてなかったから敬語のないやり取りも久しぶりで……やっぱり迷惑かしら?」



と言った。上目遣いの彼女に一ノ瀬は少しだけドキッとしたが、彼女の"久々"という言葉が引っかかった。



「久々にって、もしかしてお前も災害で家族が……?」



「ええ、行方不明らしいわ。"も"ってことはあなたもなの?」



「……ああ、もう既に死んだらしい。」



再び病室に沈黙が流れる。


やはり家族を失ったことによる心の傷は大きく一ノ瀬は暗い気持ちになった。


先に沈黙に耐えられなくなったのは少女の方だった。



「なんだか嫌なこと話させちゃったみたいね、ごめんなさい。やっぱり部屋に戻るわね。」



松葉杖をついて立ち上がる。そのまま病室を後にしようとする彼女に一ノ瀬は



「たまに……たまになら話に来てもいいぞ。」



と言った。その言葉を聞いた彼女は驚いたような表情で振り向き一ノ瀬の顔を見つめた。そして……



「顔真っ赤だよ、もしかしてあなたも寂しかったの?」



と言い笑った。完全に図星だった一ノ瀬は焦って



「いや、ちがっ!お前が話したいって言ったんだろ!? あれだよ、この病院を退院するまでやることなくて暇だからというか……」



と、取り繕おうとしたが無駄だった。



明らかに動揺している一ノ瀬を見て少女は肩を震わせながら笑って



「わかったわよ、じゃあまた明日来るわね。」



と言った。そして去り際にこう言った。



「そう言えば自己紹介がまだだったね。わたしは綾瀬 三日月。あなたは?」



「俺は……一ノ瀬 宗真。よろしくな。」



「宗真君か、よろしくね!」



彼女の笑顔は余りにも綺麗で、一ノ瀬はつい窓の外に目をやった。


一ノ瀬は久々に太陽と目が合った気がした。


この日を境に一ノ瀬と三日月はよく話すようになった。



第一印象こそ三日月のことをうっとおしいと思っていた一ノ瀬だが、お見舞いに来る家族も友人も既に死んでいる一ノ瀬にとっては三日月が唯一の気の置けない話し相手になっていた。


同じ境遇で同い年ということもあり、雪が解けて春になるように、二人は直ぐに打ち解けて何でも話し合えるような仲になっていた。


それから半年ほどの月日が経ち一ノ瀬は完全に怪我を治し退院することになった。


退院後はダンジョンによって生活基盤を失った人を対象にしたの支援を受け何とか生活をしていくことが出来た。


仮設された高校に通いながら、一ノ瀬は未だに入院している三日月の話し相手になるために病院に通った。


病院で話す内容は他愛のない、傍から見ればどうでもいい内容の話ばかりだったがとても楽しかった。


いつも直ぐに時間が過ぎていき、よく看護士に面会時刻の終了を告げられたものだ。


気付けば一ノ瀬が自殺を図ったあの夜からちょうど三年が経ちっていた。


一ノ瀬は今日もいつもと変わらずに三日月の病室に来ていた。



「誕生日おめでとう。ケーキは駄目だって先生が言ってたからお花買ってきたぞ。あと三日月が読んでる小説の新刊が出てたからそれもある。」



一ノ瀬は得意げにプレゼントを鞄から取り出した。三日月は嬉しそうに花と本を受け取って



「ありがとう!今年はちゃんと誕生日を覚えててくれたのね、嬉しいわ。」



と言った。


去年、三日月の誕生日を忘れていた件はまだ時効ではないらしい。


一ノ瀬は



「う、去年はすまんかった。」



と言って謝った。それを見て三日月は笑って



「ふふ、別に怒ってないわよ。本当に嬉しいから嬉しいって言ったの。」



と言った。その様子を見て一ノ瀬は安心して



「そうか、それなら良かった。」



と言った。


三日月は性格を一言で表すなら素直、彼女が怒っていると言った時は本当に怒っているし、嬉しいと言ったのならばその時は本当に喜んでいるのだ。



「今日が誕生日ってことは宗真君と屋上で会ってからも丁度三年かぁ。時間が流れるのって本当に速いわね。」



三日月は窓の外を眺めながらそう言った。今日の天気は今にも雨が降り出しそうな曇だった。



「もうそんなに経つのか、確かに速いな。」



一ノ瀬は買ってきた花を病院の花瓶に移しながらそう言った。



「ねぇ宗真君、今日は……今日は宗真君に言わなきゃいけないことがあって、聞いてくれるかしら?」



珍しく真剣な彼女の表情に、何故か少し嫌な予感がした。



「言わなきゃいけないこと?」



「うん、ただこの話を聞く前に一つだけ、絶対に約束して欲しい。何があっても三年前みたいに落ち込まないって。」



三年前、つまりは自殺を図ったあの日のことだ。一ノ瀬はますま嫌な予感がしたが



「何の話をするつもりかわからないけど……わかった、約束する。」



と言って聞く覚悟を決めた。



こんなに真剣な顔で話を聞いて欲しいと三日月が言うのだ、聞かないわけにはいかない。



三日月は「ありがとう、あんまり驚かないでね。」と前置きを挟んで話を始めた。



「私……あと半年くらいしか生きられないらしいの。」





あとがき—————————————————


くそ長い一話をここまで読んでくれてありがとうございます。


毎日夜の0時に更新する予定ですので見に来てくれると嬉しいです!




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