マイルドヤンキーな先輩たちから由緒あるダンジョン攻略クランの総長を押し付けられた俺が七代目として頑張るようです~頼れる仲間たちと現代ダンジョン攻略クランでプロを目指す~

原原

1章:七代目山童と銀髪の魔術師

第1話:踏破未踏の六代目山童

名もないダンジョンの最深部で対峙するのは、隊列を組む五人の年若い男たちと一匹の怪物。大広間の中心を境に向かい合い、戦闘が始まる前特有の緊張感が場を支配する。


カチャリ、カチャリ、と金属音。互いに交わす言葉もなく、己の武器を抜いて挨拶とした。相手をこれから殺すという意思表示である。言葉ではなく、実行を持って意思を表現する。暴力的な挨拶が終われば、あとはどちらかが地面に転がっているだけ。


男たちは、それぞれに違う武器を持ち、洗練された動きで盾を構えた者が一歩前へと踏み出した。前衛から後衛まで瞬時に隊列が組み立てられ、歴戦の風格があった。


対峙するは、異様であり、威容たる佇まいの怪物。身に鎧着込みたる、大剣持ちしグレーターミノタウロス。直立二足歩行で立つ牛の魔物であり、体躯は直立でおよそ四メートルを超えている。一般的な個体を超えた大きさと強さから、グレーターを冠し、威圧感がその身からあふれ出ていた。戦う前の興奮を抑えきれないと全身を震わせ、大剣をゆらゆらと動かしている。


「――!」


唐突に異形から放たれた吼えは空気を裂き、空間がビリビリと震えた。そして二本の角は沈み、筋肉の軋みが音に変わって両足が跳ねる。跳躍。巨躯は人間たちを両断せんと先手を取った。轟音、風を斬りながら大剣が振りかぶりの弧を描く。


「はっさ、やっけー早いな!」

自分の倍以上の体躯を持つ魔物の振るう一撃を先頭に立った男が盾で受け止める。金属の衝突は爆発音。振動は空気を破壊するかと思わんばかりに響く。しかし、男の卓越した技術は見事に勢いを殺しきり、怪物の体勢を崩すことに成功した。


「おー、じゅんにナイス~! 射るわ」

隊列のもっとも後方、弓を構えた男が瞬時に三射を放つ。どれもがグレーターミノタウロスの肉体に突き刺さり、内一本は右の眼球を射抜いた。それでも強靭な生命力を誇る怪物は、絶命せず。苦痛と怒りに満ちた雄叫びをあげて、戦意を示す。


「よし、でーじ死なす! サポートよろしく!」

盾を持つ男の後ろから、雷のごとく飛び出す男はグレーターミノタウロスの後方に回り込みながら、刀を抜く。刀身に刻まれた文字が光り、ダンジョンの魔力が吸い込まれる。青白く光る刃が空気を軋ませた。


「あんまさい、『動くなよ』」

刀を持つ男の声に反応するように、杖を構えた男が魔力を解き放つ。言葉をキーに魔力は鎖となり、魔物の肉体を縛る。


「はいナイスぅー、よし死ねぇっ!」

魔力を帯びた刃は見えぬほどの速度で振り下ろされた。風を斬る鋭い音は、肉を切る鈍い音に。苦しみの悲鳴がけたたましく上がる。この一瞬で行われた攻防、男たちの連携は魔物の生命を刈り取るのに十分であった。


――ただし、それが普通の個体であるのなら。しかし、最深部の守護者たるグレーターミノタウロスは死にきれずに拘束を破り、身体が千切れながらも抵抗を続ける。暴れる勢いそのままに、後方にいる刀持ちを殺そうと後ろ蹴りを放とうとさえした。


「あー、それは一等ダメっす。許可できないっす」

気の抜けた声とともに、再び鎖の拘束が動きを止めた。合わせて、斬撃が両足首を刈り取る。体勢を一瞬で崩したところに、喉への突きが通り抜けた。


隊列で出方をうかがっていた最後の男――もっとも若き少年が、勝負を決定づけた。守護者はだらりと力なく血だまりに沈み、やがて光となって消えた。あとに残るのは、報酬たるグレーターミノタウロスの魔石、ダンジョン踏破の宝箱、勝利の歓声だった。


この日、ダンジョン攻略チーム「山童」はまた一つ高難度ダンジョンの踏破に成功した。日々ダンジョンに潜る中で、高難度踏破は収益や経験の大きな糧となる。喜びが緊迫した空気を弛緩させ、最後に活躍した少年を他の四名が次々に荒っぽく歓迎した。


「俺らぁ山童はー!」

「踏破未踏ー!」


誰もまだ踏破したことのないダンジョンを攻略するクランの新たな戦歴がここに刻まれ――そして、これがこのパーティーの最後となるダンジョン踏破だった。


この時点で、これを知らないのはただ一人。今はただ、何も知らずにバシバシと肩を叩かれながら、最年少の少年であるイットーは笑っていた。



「お疲れ! じゃあ今日はでーじ飲もうか!」

ダンジョン攻略クラン「六代目山童(やまわらべ)」リーダーである"でーじ"先輩の音頭でそれぞれ、俺たちは手元の飲み物に口をつけた。独特の風味が鼻を抜け、喉を生きて帰れて良かったという安堵とともに濃密な炭酸が突き抜ける。ああ、やっぱりルートビアは最高。"めっちゃ"美味い。神様が作り出した飲み物としか言いようがない。仕事終わり、バーガーショップでの打ち上げが好きな理由だ。これが飲み放題なんてたまらないね。


「それにしても良い儲けになった。じゅんに、この金額はデカい」

クランの金庫番である"じゅんに"先輩は、ミノタウロスの魔石売却額に喜び笑顔。イケメンすぎて、男の俺でも見惚れてしまう。"本当に"良い稼ぎであったし、買いたかったものを考えると胸も躍るものだ。


「あんまさかったけど、許せる」

オレンジジュースを飲みつつ、”あんまさい”先輩も笑う。効率の良い狩りだったという気持ちがあふれていた。多分、これでしばらくはダンジョン潜らなくて良いなと考えていそうだ。"あんまさい"先輩は、"面倒"が嫌いで良く"あんまさい"と方言で面倒くさがる。


「しかし、あの一撃は腕吹き飛ぶかと思って焦ったさ、やっけーだった」

盾を持って、クランのタンクを務める"やっけー"先輩は豪快に笑う。あの一撃は非常に”厄介”で、おそらく先輩以外だったら死んでいたかもしれない。あえて受けて剣の軌道をコントロールし、有利なポジションを作れる技量は今日も素晴らしかった。


居並ぶ先輩たちは、俺より全員3つ上。18才と若い。訳あって沖縄に流れ着いた俺は、それまでにもさまざまなクランを見てきたが、俺を除く全員がこの若さでこれだけ出来るクランは見たことがなかった。


クラン"山童"は、代替わりしながら続く沖縄のローカルクランだが、この六代目はおそらく歴代屈指のメンバーが揃っているのではないかと思う。卓越した連携に、個々も高水準のステータスやスキル持ち、これまで一緒に潜ったダンジョン攻略も全てスムーズという他なかった。


縁も所縁もなかったが、訳あって3年ほど前に俺はこのクランに入った。ローカルクランは、基本的に地元のものや同じ一族に属していないと入れないことが多いが、本当に運が良かったのだ。


俺はまだまだ新参者だが、正直なところかなり腕の立つ先輩たちのお陰でなんとかやっていけている。足手まといにならないようにしつつ、クランに貢献出来たら良いな…と思うばかりだ。


「そーいえば、イットー。でーじありがとうな。最後のアシスト助かったよ」

ルートビアを飲みながら今後のことを考えている俺に、"でーじ"先輩がお褒めの言葉をくれた。素直に嬉しい。ミノタウロスが意外と丈夫そうだったので不測に備えていて良かった。


「じゅんにな。あの足首への二連撃とか俺全然見えなかった。あれはどうやってやったんだ? というか威力もやばかったな」

「あんまさくならないように、バインドも並行してやりながらというのは凄し。近接しながらの拘束は、かなりハイレベル」

「後輩の成長速度がやっけー。追い抜かれたかもしれん。先輩の威厳がなくなるさー」


他の先輩方も、それぞれ褒めてくれる。優しいし、嬉しい。でもまだまだだと思っているので、あまり持ち上げすぎないでほしい。本当に嬉しいけど、油断をするとやっぱりダンジョンでは早死にしてしまうので。調子に乗らないように自制しなくてはいけない。


「あの場で一等ダメなこと考えていたら、最下層ボス特有の生命力が事故要因になるかと思ったからっすね。備えていたら役に立って良かったっす」


と言ったところで、先輩方からは拍手をいただき、一部からは肩を叩かれた。結構痛い。でも、実力者に認めてもらうのは良い気分になる。ルートビアはますます美味しく感じるし、お代わりもガンガンいけそうだ。


ああ、このクランに骨を埋める覚悟でやっていきたいな。仕組みとして代替わりがあるからずっとは難しいだろうが、どこかで区切るにしてもできるだけ長く頑張ろう。


「俺、このクラン入って良かったっす。これからも頑張るっす」


自然にそんな言葉がこぼれるほど、自分はすっかりこの山童というクランが気に入ってしまっていた。それを聞いて笑顔になる先輩たちも尊敬しているし、大好きだ。これからも一緒に頑張っていきたい。


でーじ先輩は俺の言葉を聞いて、深く頷いてくれた。底抜けに明るい笑顔も浮かべて……


「やっぱりイットーはでーじ頼れるし、クランへの愛も最高だな。じゃ、今回の攻略で六代目山童は解散で、明日からはイットーが七代目山童な! これ幹部の決定事項だからよろしくな!」


は~? 何言ってるんだこの人。でーじバカか?

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