第18話

 そして俺達は、ようやく王都に帰ってくる事が出来た。そう長旅でもなかったはずだが、随分久しぶりに感じる。


 すると、王都に着くなりレイラの希望により騎士団に行くことになった。俺も現場に居合わせた参考人として呼ばれることになるだろう、とのことだ。まあ、手間は省くに越した事は無い。


 今度はあらかじめ話が通っていたのか、グレースの下まで簡単にたどり着く事ができた。


「失礼します、三番隊所属のレイラです!」

「どうぞ、入りなさい」


 ドア越しに聞こえてくるのは確かにグレースの声。ドアを開け中に入ると、山のように書類が積み重なった机にグレースは座っていた。


「レイラ、お疲れ様。無謀な策に付き合わせて悪かったわね。敵前逃亡した騎士達には重い処分を下すことになるから、どうにか腹の虫を治めてちょうだい」

「いえ、違います。撤退命令が出ていたにも関わらず手柄のために居残ったのがわたしです」


 と、横で聞いている俺が驚くような事をレイラは口にした。グレースは「へぇ……」とペンを置き、レイラに向かい合った。


「それは、今回の醜態の全てを貴方が引き受けるということ?」

「引き受けるも何も、それが真実なのですから仕方ありません。つきましては、騎士団からの追放処分も受ける所存です」

「なるほどねぇ……スラッグ。彼女が言っている事は確かかしら?」


 話を振られても……俺はただこう言うしかない。


「モノノケにたった一人で立ち向かっていたのは確かだ。他の騎士は逃げ出して魔物と混戦状況に陥っていた」

「そう。撤退命令が出ていたなら……確かに処分を受けるべきはレイラのようね」

「待ってくれ。レイラは誰より果敢に敵に相対していた。レイラが居なきゃあの街は滅んでいたんだぞ!」

「だけれど、騎士団では命令は絶対なのよ」


 何だ、何なんだ……? 騎士団って奴は、そこまで下らない組織なのか? 味方を見捨て、責任をたった一人の英雄に押しつけて手打ちにする……?


「スラッグ、きっと大丈夫ですよ」


 苛立った心を見透かしたように、ツィーシャが微笑んで俺の背中をぽんぽんと叩いた。


「じゃあ、今この瞬間からレイラから騎士の称号を剥奪するわ。騎士団から追い出されるような貴方の居場所は、そう多くないでしょうね」

「はっ。それなのですが……わたしとしては、ゼロからやり直すつもりで、新興サークルを探すつもりであります」

「へえ、そういえば……サークル創設したいけれど人数が足りないって嘆いていた男がいたわね。スラッグ、心当たりはないかしら?」


 と、そこで俺に全員の視線が向く。ああ、そういうことか……ただそれだけのためにこんなやりとりをしなきゃならないなんて、面倒なものだな。


「そういえば、うちの人員はまだ足りてなかったな……騎士の一人でも居てくれれば、出来る事の幅も広がる。どうだ、レイラ。俺のサークルに入らないか?」

「……ええ。よろしくね、スラッグ」


 レイラはあくまでクールに、しかし口元には微笑を浮かべて俺の手を取った。


「俺はこの後、ロナさんの店に顔を出す予定だけど……一緒に来るか?」

「面倒な手続きはこっちでやっておくから、行ってもいいわよ」


 グレースもそう言って、レイラを送り出す。レイラは少し迷って、コクリと頷いた。騎士団に未練が……いや、ないわけがない。騎士団に入るってのは相当大変だと聞く。その上、あれだけの大立ち回りを見せて、果てが追放だなんて……。


「行こ。もうわたしは、ここにはいられないから」


 レイラはそう告げて踵を返す。その背後には、幾本もの後ろ髪を引こうとする手が見えた。そこへ、グレースが一言。


「レイラ。貴方だけの主を見つけたのね。騎士団に属していようが属していなかろうが、主のために剣を振るのが騎士よ。それはこれ以上無い誉れ。貴方だけの騎士道……楽しみなさいね」


 グレースはそれだけ告げると、また書類に目を落とした。そこにキラリと光るものが見えた気がしたけど……そこに突っ込むほど俺も野暮じゃない。


 そして、騎士団の施設を出ると……いつの間に用意していたのか、サークルへの入会書をレイラから受け取った。


「これからわたしは、ロレンスに仕える騎士になる。邪魔だと思ったら切り捨てて。もちろん、タダ飯食らいになるつもりはないけれど」


 そこにはレイラの詳細な情報が書かれていた。本名はレイラ・ミー・クルト。職業は『ドルイド』。種族はハーフエルフで騎士団勤めは十年ほど……って待て。


「お前、ハーフエルフなのか?」

「ええ。耳が短いから髪で隠しているけれど、母はエルフよ。それとも、純血しか認めてくれない?」

「いや……それなら、その馬鹿みたいな魔力量にも納得だ。これは一大戦力になるぞ……!」


 俺達はそのまま、ロナの店に向かって歩いた。甲冑を外したレイラは華奢な体つきをしていて、それでいてあそこまでタフなのだから魔力の大事さを身に染みて感じた。

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