第7話

 俺達は、ついに帝都に着いた。目の前に広がる景色はまさに絶景。


「おお! ここが帝国か……生まれ故郷の街も嫌いじゃないけど、この段違いの広さはすごいな……」

「大陸の三分の一を占めていますからね。まさに大帝国です。あらゆる種族と文化を認めてるから、自然と人は集まり、人は人を呼び……大きくなるのもなっとくです」


 煉瓦で組まれた歩道がどこまでも続き、そこに所狭しと並ぶ背の高い建物。奥に見える王城は雲まで届くんじゃないかと思うほどだ。


 歩いている人達を見ても、獣耳が生えていたり尻尾がついていたり、皮膚が鱗だったり……大陸中の種族が集まっているんじゃないか?


「じゃーな、スラッグとツィーシャ! お前さんらの武運を祈ってるぞ!」

「絶対うちの酒場に来てね! たっぷりサービスするからさ!」


 馬車内ですっかり仲良くなってしまった連中に別れを告げて、俺とツィーシャはまた二人きりになった。


「さて、これからどうするかな……」

「冒険者になるんじゃないのですか? 武芸に秀でた職業の人はそうなるのが大半だと思いますけど」

「そうは言ってもなあ……俺、魔力がないだろ。ていうか無くなっただろ。まあ大した魔力じゃなかったけど……あらゆる強さの基準が魔力で決まる所あるからな。強い職業は例外なく魔力量も尋常じゃないし……」


 『サムライ』という職業は間違いなく強い。未知の化物……怪士にも対応できるほどに。だが、その斬新さ故に理解は得られないだろう。旧文明の職業だろうに新しいというのは妙な話だけど……。


「んー、フリーの傭兵でもやるかな。冒険者のランクなんか関係無く実績主義だし。あー、でもそれだと最初の一人が見つからねーか」

「それなら、私が代わりに人を集めましょうか? 一応、これでもランクは高い職業ですから……」

「それも考えたんだけどな……何か、ヒモみたいじゃないか? 流石にそれはな……」


 俺だって男だ。それなりのプライドって奴がある。そんなものは下らないから捨ててしまえという声もあるが……ギリギリまでは持っていたいものだよな。


「ま、お互い、幼馴染みの縁とはいえ将来を妨害してちゃ話にならない。俺の事は気にしないで、成り上がってくれよ。そういう約束だったろ?」

「そんな約束……」

「馬車内でダストが言ってた。『お前さんらはきっと成り上がる』ってな。期待をかけられたら応えるのが基本だ。多分、俺が行く道じゃツィーシャは成り上がれない。だからちゃんと、自分の道を探してくれ」


 俺の言葉を聞いて……ツィーシャはどこか寂しそうに、だけど嬉しそうに唇を上下させていた。


「うん……私も色々と動いてみます。多分、私の才能を活かせるのはこれだってものがあるはずですから。なら、スラッグは何をするんですか?」

「まあ、種は撒いてあるから……結果待ちかな。怪士という脅威を帝国がどう見るか……俺の力をどこまで性格にあのイオリが話してるかって……色々不安な部分はあるけど。ま、最初から俺の出る幕なんてここ以外には無かったって話さ」

「それって……あの封鎖を解除した事ですか?」

「ああ。騎士団が出張ってくるなら俺がわざわざあの場面で出て行くメリットは無かった。後でこっそり討伐しちまえば良かった話だしな。あんな人目に付く場所で力を見せるのは危ない。幸いにも馬車内や兵士に悪い奴が居なくてよかったけど……俺の職業は今の文明では珍しいっぽいし、いくらでも付け入られる隙があった」


 しかし、俺の目算が確かなら……きっと、俺の天職は勝手に現れてくれる。


「それじゃ、酒場で軽く腹ごしらえでもしておくか。とりあえずってもらった用心棒代もあるし」

「そうですね。流石に少しくたびれました……ゆっくり休める場所が欲しいです」

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