第18話 奏多が送り込まれた。

ブランコを引く小学生男子が音をギコギコと出しながら漕いでいた。


近くの砂場では女の子がバケツでケーキを

作っていた。


滑り台を何度も滑る男の子もいる。


奏多は1人、ルービックキューブを片手に

公園のベンチで色を揃えていた。


時々、遊具で遊ぶお友達を覗いていた。

本音は一緒に遊びたいが、どう話しかければいいかわからなかった。間違ったらどうしようとか、無視されたらどうしようとか、あらぬ想像を描き巡らせる。


今日もきっとできないだろうとネガティブに

考える。


ふと空を見上げた。


不意に脳内にクロンズの叫ぶ声が聞こえた。


辛い思い、苦しい思いをしているクロンズの強い念が飛ばされてきた。


頭痛がする。


近くにないはずの

ラジオやテレビのノイズが響く。


もう、孤独であることの寂しさは

かき消された。

ルービックキューブをズボンのポケットに

入れて、耳を澄ました。


もう一度、クロンズの強い念を受け取ろうと、瞼を閉じて、精神を落ち着かせた。


「奏多!!

 ヌアンテを助けるんだ!!

 早く、こっちに来い!!」


真っ黒な空間に一気に飛ばされた。

虹色の二次元空間からトンネルのように

移動していく。


(な、いつも僕は自分の力で行くん

 じゃなくて、頭痛がして勝手に異次元に

 飛ばされるんだけど!!

 どういうことだろう。)


 平らなエスカレーターが目の前に

 現れた。 

 戻ることはできない。

 ずっと前へと進んでいく。 

 立ち止まることができない。

 戻ることもできない。

 進むしかない。

 空港などでよくある

 あのエスカレーターだ。

 特にキャリーバックなんて持って

 いないけども、1人で旅行にでも行く

 みたいだ。テレビで見たことあったが、

 まさか自分がここにいるんなんてと

 信じられなかった。


 脳内に入ってくるクロンズの言葉を頼りに

 とりあえずは自分が求められている

 ところに行こうと決めた。


 精神を研ぎ澄ませて瞑想させる。


 一瞬にして、クロンズがいる次元に

 送り込むことができた。


 何やら、そこではヌアンテにそっくりの

 悪魔のような姿の人とクロンズは

 傷だらけになって戦っている。

 

 奏多は、怖くなって一歩後退した。

 影に隠れていたコウモリの光宙が

 そっと静かに出てきた。


「奏多くん!! 

 こっち来て。」


 光宙は、手招きして、

 戦いの邪魔にならないように避けて、

 奏多を近づけた。


「え?なんで、こんなところにいるの?

 隠れていないでさ、

 クロンズ助けないの?」


 奏多は学校や家で全然話さないのに

 クロンズと光宙の前は普通に話せるように

 なっていた。



「え、えっとですね。

 僕の力では吹き飛ばされて即死です。

 息吹くんは危ないからと元の世界に

 戻しました。」


「ん?聞き間違いかな。

 なんで、僕呼ばれた?」


 自分自身の顔を指差した。



「それはですね……

 ちょっと私にはわかりません。」


「おい!!奏多!!

 今使える技ってなんなんだ?」

 

 クロンズは迫り来るヌアンテの姿をした

 ルシファー両手をつかみ、せめぎ合い

 ながら叫ぶ。


 天使と悪魔の力を持つルシファーには、

 息吹ではなく、奏多でないと太刀打ち

 できない。

 天使の正義と悪魔の悪には、

 耳をふさぎたくなるノイズが

 とても重要だった。


 まだまだ激しい攻防戦が繰り広げられる。


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