第16話 新たな敵との戦い

砂鉄の塊でできたモンスター『アイロン』を

倒したあと、すべて灰色の異空間の端っこに

見たことのある小さな姿を目撃した。


ブツブツと何かつぶやいている。


妖精なのか。いや人間なのか。


それにしてはものすごく小さい。

手のひらにかざしたら、

すっぽりおさまりそうなサイズの生き物が

そこにはあった。


屈んでいた体を起こしてこちらを見る。


みんなが驚愕した。


「「息吹!?」」


 クロンズとヌナンテは声を重ねて言う。

 息吹本人は息をのむ。


 その小さな生き物とは、

 息吹がそのまま小さくなった人間だった。

 服装も背格好もすべて同じ。

 違うところといえば、目の色。

 生きた人間じゃない目をしていた。


《僕の真似しないで…。》

 

 ミニマム偽物息吹は小声で

 ブツブツと言う。


 微宙は怖くなって、

 ヌアンテの後ろに隠れる。

 光宙は、クロンズの肩に乗って

 休んでいた。

 息吹は自分の小さい姿を見て、

 なんでここにいるのか信じられなかった。


「ま、真似しないでって言われても

 僕は僕だけど…。」


《そうやって、

 人のせいにする癖やめた方いいよ。》


「え…。」


《ほら、そうやって、

 現実から逃げようとする》


「息吹!まともに受け取るな!!

 飲み込まれるぞ。」


「え? 

 でも待って、僕あいつの言ってること

 ものすごく腹立つんだけど!!

 戦っていい?」


《うわ、暴力で解決しようとしてる。

 ダメなやつ!》


「ムッキーー」


「落ち着け、息吹。 

 あれは、鏡なんだ。

 自分自身を投影してるモンスター

 『ミニミラー』だ」


 クロンズは、息吹の後ろにまわり、

 興奮する体をおさえた。


「いや、本当、まじで

 腹立つから、離して!!

 やっちめないと!!

 むかつくんだよ!!」


「だから、だめだって。やめろ。」

 息吹をおさえるクロンズの横で

 光宙はバサバサと飛ぶ。

 

 その頃のヌアンテと微宙は、

 手鏡を見て、自分の顔をのぞいては

 髪型と今日の化粧はばっちりか

 確認していた。



《そうやって、

 暴力で解決すればいいって思ってる。

 ずるいんだよ。

 自分の気持ち言わないで拳で戦うんだ。

 そんなの卑怯なのに…》


「あーーーー!!」


 口で勝てないとわかると

 すぐに手を出すのは息吹の傾向だ。

 クロンズは必死で息吹をとめる。


「落ち着け。あれは小さい息吹なんだ。

 気にするな。同じ土俵にあげるな。」


《わぁーん。やだよぉ。

 僕、いじめられるよぉ。

 助けてよー!

 僕、何もしていないのに

 そこにいる人みんないじめるよぉ。》


 急に態度が変わった

 ミニミラーのモンスターを見て

 息吹がイライラを通り越して

 恥ずかしくなる。

 嘘をついて自己防衛している。

 大していじめられてなくても発言する。

 何かしているくせに何もしてないと

 嘘をつく。


 クロンズは相手の様子を伺いながら、

 息吹の体をおさえてじっと耐えた。


「そうよ、やっちまいな。

 そんなやついらないわよ。

 いじわるなこと言うし!」

 

 ヌアンテは手鏡を小さなバックに

 入れて言う。

 

「本当にいやなところばかりだ。

 怒ってるし、泣いてるし、

 友達にいじわる言って、笑っているんだ。

 そんな自分見たくない!」


 息吹は今見たミニミラーの様子以外に

 自分の嫌いな部分を吐き出した。

 言われる前に言ったのだ。


 ネガティブばかりで楽しい要素がない。


 息吹はミニミラーに手をふりあげて、

 思いっきりふりおろす。

 おさえていたはずの息吹の体は

 手だけは届いた。


 クロンズは息吹の後ろから前に

 たちはばかる。


「だめだ!!

 否定しちゃだめなんだ。

 どんな人間にも泣きたい時あるし、

 怒りたい時もある。

 手が出ることだってある。

 でも、全部を否定したら、

 息吹は人間ではいられなくなるんだ。

 それじゃぁ、もう、人形だよ。

 ただ、ただ、笑っているだけの人形。

 本当でそれでいいのか!?

 なぁ、息吹!!!!」


 クロンズは悪魔の格好で

 感情的に叫んだ。


「笑っていたら、みんな喜ぶんだ。

 いいだろ、それで。

 泣いたり、怒ったり、

 まるで赤ちゃんみたいじゃないか!!

 僕、もう1年生なんだよ??」


 クロンズは、息吹の両肩に手を触れた。


「ずっと笑っていることって

 誰もできないんだよ。

 生きていれば、必ず嫌なことってあるし、

 悲しいことだってある。

 そういうことがあってから笑うのが

 幸せを感じられるんだ。

 赤ちゃん?

 赤ちゃんでいることがなんでいけない?

 みんな生まれたら赤ちゃんなんだぞ?」


「だって、

 ママが赤ちゃんになるんだぞって

 言うから!!

 泣いちゃいけないし、

 怒っちゃいけないって

 言うんだもん!!!」


 息吹は話しながら、

 大粒の涙が流れ始める。

 無意識に出てくる涙だった。


「やだ、なんで、涙が出るんだ。

 僕は今、泣きたくないんだ!!」


 そう言いつつも、涙は流れで続ける。


《泣き虫、泣き虫! 弱虫、息吹ぃーー》


 ミニミラーは、息吹をバカにした。

 それに大して、解放された息吹は

 ミニミラーに立ち向かおうとした。


「あ!待て、息吹!

 行くんじゃない!!

 ちょ、ヌナンテ、早くとめろって。」


「は? 

 なんで、とめるの?

 いいじゃない。

 ネガティブなんてないほうが

 ずっと笑ってるほうが

 いいに決まってるわ。」


 ヌアンテの思考がおかしい。

 クロンズは眉をひそめた。


「お、お前、何言ってんだよ。」


 真っ白い翼を生やしていたヌアンテは

 空中に飛んだ。

 微宙は、変な気を感じ取ったのか、

 たくさん針を逆立てて、

 自分の体を守った。

 

「クロンズ、

 あんたはもう悪魔じゃないわ。」


 ヌアンテの様子がおかしい。

 息吹は、ミニミラーと取っ組み合いの

 喧嘩が始まった。

 

 キラリとヌアンテの瞳が紫に光出した。


「クロンズ、ヌアンテの様子が

 おかしいぞ!!」

 光宙は、クロンズのさらに上を

 逃げるように飛び立った。


「おい、まさか…。」


 クロンズの全身に鳥肌が立った。

 想像も絶するような異様な気が

 あたりを立ち込めていた。



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