第11話 教室での出来事

特別学級に今日だけ登校してみようと

いうことになった奏多は、

母に連れられて、担任の先生とともに

一般教室から荷物を移動された。


勝手にやるだろうと、奏多はずっとランドセルと黄色い帽子をかぶったまま、

手にはいつものルービックキューブを

同じ色に揃えていた。


黙々と作業するため、先生がその行動が

不思議だったらしい。

手に負えない生徒とレッテルを

はられている。


ただ、単にパズルを解いているだけだ。


聞きたくもないつまらない先生の話を聞くより断然時間潰しにもなるし、

頭の回転もよくなるんだ。

そう言ったのは母なんだ



ーー回想ーー


「奏多ぁ、先生の話って、

 つまらないわよね。

 淡々と難しいこと言っててさ。

 一年生にあんなこと言っても 

 誰も聴かないって…。ねぇ?」


 パンケーキのおやつを食べている時に

 ボソッと言っていた。

 先生の話は聞かなくてもいいって

 言っていたのは母の方だ。


「勉強は私が教えるから、

 先生の話は右から左でも

 全然構わないよ?」


「……。」

 メープルシロップがたっぷりかかった

 パンケーキが美味しかった。

 食べたながら、母の話も聞いている。


ーー回想終了ーー


 きちんと聞いていた。

 母は、そう言った。

 なのに、先生は、

 奏多の行動を許さないって。

 母親の話は嘘だと否定するのかと

 怒りが込み上げる。

 

「本当に奏多くん、

 ずっとルービックキューブを解いてて、

 先生の話を全然聞かないんですよ。」


 母は、冷や汗をかく。


「はぁ、そうなんですかぁ。

 すいません、よく聞くように

 言い聞かせていたんですけどね。」


 母の言葉に驚愕する奏多。

 大人ってずるい。

 どうして、子供の前と先生の前で

 話が違うんだ。

 本音と建前あるでしょうとか

 後付けで言われてもわかるはずがない。

 母は、奏多の頭を触れて、お辞儀させた。


「とりあえず、みんなと一緒に

 授業をしますとなかなか

 進められないので、

 嫉妬が強くてイジメに発展しかねないので

 こちらの教室に試しに受けてみて

 もし、ダメなら戻すので

 よろしいでしょうか?」


「……それって、まるでうちの子が

 頭のおかしいってことを

 言いたいんですか?」


「いえ、そうではないんです。

 ずっとパズルばかりでは

 勉強になりませんでしょう?

 えー、そのぉ…

 あ、校長先生!!ちょうど良かった。

 説明してくださらない?」


 モンスターペアレントでも思っているのか

 担任の先生は、真剣に受け止めては

 くれない。

 校長先生が見かねて、職員室から

 そっと来てくれていた。


「あー、すいません。

 遅くなりまして…。

 大沢奏多くんのお母様ですね。

 木村先生、教室に戻って良いですよ。」


「あ、ありがとうございます。

 それでは失礼しますね。

 よろしくお願いします。」


 ご高齢のはずなのに、保護者対応が

 苦手な木村先生はそそくさと教室に

 戻って行った。


「さて、ゆっくり話しましょう。

 中へどうぞ。」

 

 校長先生は、特別教室の

 すみれ組に2人を誘導した。

 さっきまで怒りがおさまらなかった奏多の

 母は、優しい声で話しかけてくれる校長の

 言葉に安堵した。


 奏多がずっとパズルを解いていても

 ニコッと笑顔で対応してくれる。

 よく理解してくれていた校長先生だ。

 

 積もり積もった話を奏多の母は

 校長先生に吐き出した。


 母が話す間に奏多のパズルは

 全面色が揃っていた。


「奏多くん、すごいなぁ!

 全部、色揃えたの?

 早いね。

 先生、そのパズルなかなか解けなくて

 勉強中なんだ。

 今、攻略本出てるもんね。」


 奏多は自分のしていることは

 間違ってないんだと安心して、

 目をキラキラさせて、

 ルービックキューブの解き方を

 ペラペラと話し始めた。

 母は全然ついていけてなかったが、

 校長先生は真面目に相槌をしながら

 真剣に聞いていた。


 普段、全然会話をしない奏多が

 すごくおしゃべりなのを見て、

 母は目を丸くして驚いていた。


「か、奏多!!

 どうして、そうやって、

 校長先生に話せて、

 お母さんに話せないの?!

 どうして、ずっと黙ってるの!!!」


 話してる姿に母は校長先生に嫉妬した。

 毎日、あの手この手で話しかけて

 頷くことしかしなかった奏多が

 流暢に話している。

 母親として悔しかった。

 ヒステリックな声に奏多は両耳をふさいで

 部屋の中をウロウロと動き回った。


 きーんという音がまた頭の方まで響く。


「お母さん、落ち着いて。

 大丈夫ですよ!」


「だって、校長先生!!」


 また大きな高い声に頭痛がする。

 奏多はバタンと横に倒れた。

 母は、倒れた奏多の体を揺さぶった。


 この空間にすぐにでも逃げ出しかったが、

 母から逃げ出すのは不可能だと 

 感じていた。


 叫ぶ母の声が遠くなった。


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