第17話 衝撃の告白

「そういえば、クレアさんはどうして、一人でダンジョン探索をしてたんですか?」


 アリスは治癒魔法でクレアの脚を癒しながら、疑問に思っていたことを訊く。


「それは……強くなるためだよ」


「強くなるためですか?」


「そう。ボクはいずれこの国の王になるからね。国民を守るために父上みたいな強い王にならなくちゃダメなんだ」


「――え……えええええええええええええ!?」


 クレアからの衝撃の告白に、アリスは仰天する。


「ど、どうしたのアリス!? そんなに変なこと言った!?」


 急に大声を出したアリスにクレアは驚いた顔をする。


「――そうじゃありません! この国の王になるってどういうことですか!?」


「あれ? ギャンツさんから聞いてなかったの? ボクはこの国の王女だよ」


「――初耳です……」


 アリスもレンもギャンツからは知人としか聞いていなかった。なるほど、冒険者に依頼が出せない事情とはこれだったのか。

 確かに、王女の捜索依頼なんて冒険者ギルドに出したら大騒ぎになるだろう。


 それにドラウグル王の子供は確か一人。つまりクレアは唯一、王位を継承する事ができる人物だ。

 

 本来そんな人物が行方不明となったら国が軍隊を動かし全力で捜索する。

 そうなっていないということは、この話はギャンツしか知らないのだろう。一体なにを考えているのか。


「それにしても、王女が王宮に何日も帰っていないのに、まったく問題になっていないのはどういうわけですか?」


「ボクは昔から王宮を抜け出しては何日も帰らず、そこら辺で遊び呆けていたからね。数日留守にしたくらいじゃ問題にはならないよ」


 アリスはクレアの言葉に頭を抱える。同じ王女という立場なのに環境が違うだけでこうも変わるものか。

 いや、アリス自身も普通の王女とは違う環境だったが、それでも一人で王宮を抜け出したりしたら色んな意味で大問題になっていただろう。


「……だとしても、護衛も付けずにこんなところに一人で来るのはダメですよ! いくらクレアさんが強くても、王になる前に死んでしまったら本末転倒でしょう!」


「ご、ごめん」


 アリスが咎めると、クレアはしゅんとうなだれた。


「ギャンツさんもギャンツさんです! 一国の王女がダンジョンで遭難したかもしれないという状況で、私たちのような素人を捜索にあてるなど信じられません!」


「あはははは……ギャンツさんは昔から適当だからね。ボクに『修行なら蛇魔じゃまの迷宮に行ったらどうだ』って勧めてきたのもギャンツさんだし……」


 クレアの口から今回の騒動の原因となった人物が判明する。まさかギャンツ本人が王女一人でダンジョン探索に行かせたとは。これにはアリスも開いた口が塞がらない。


「……ここから無事に帰れたらレン様に一発殴ってもらいましょうか」


「……顔が怖いよアリス」


 怯えるクレアを他所に、アリスはそう決意するのであった。




~~~




 治癒魔法で怪我を治した二人は、レンを探すためダンジョンを歩く。


「エターナルマップだっけ? すごいねそれ。ボクが苦労してマッピングした第三階層が丸裸だよ」


 アリスがエターナルマップで位置を確認しているとクレアが横から覗き込んでくる。


「ギャンツさんからの借り物です。

 とても希少なものらしいですよ。

 ダンジョン未経験の私たちがクレアさんを探しにこれたのも、これのお陰です」


 これが無かったらここまで来ることは出来なかった。それほどまでにダンジョンは複雑に入り組んでいる。

 

「へーえ、そんな物を貸してくれるなんて、ギャンツさんもいいとこあるじゃん」


 まるで良いところがほとんど無いかの様な言い草だ。

 いや、アリス自身最初からギャンツに良い印象を抱いていなかったし、クレアの話を聞いて更にイメージが悪くなったので、元からそう評されるような人物なのかもしれない。


「――あれ? ここはさっきアリスは悪魔大蛇デビルバイパーに襲われてた場所だよね……?」


 クレアがエターナルマップを指さし、アリスに尋ねる。


「そうですよ。何かおかしな部分がありましたか?」


「これ見て」


 クレアは自分の荷物から地図を取り出す。そこには第三階層と思われる地形が描かれていた。クレアがマッピングしたものだろう。


「アリスが居た空洞はボクもマッピングしてたんだけど、エターナルマップに描かれてるようなこんな大きな通路は無かったよ」


 クレアに指摘されアリスも確認すると、確かにエターナルマップに描かれている通路が、クレアの描いた地図には無い。


「……ああ、これは悪魔大蛇デビルバイパーがダンジョンの壁を破壊してできた通路ですね。エターナルマップは今のダンジョンの地形がリアルタイムで表示されるので、悪魔大蛇デビルバイパーが作った道も描かれる様です」


「そういうことか。それなら納得だよ。

 ……ん? 待てよ、てことはエターナルマップを見れば今の悪魔大蛇デビルバイパーの居場所が分るんじゃない?」


「どういうことですか?」


悪魔大蛇デビルバイパーは元々第四階層の魔物だから、この階層の通路は狭すぎて壁を壊さないと移動ができないんだよ。実際にそこ以外にも、幾つかボクが描いた地図には無い通路がある。多分これ全部がそうだよ」


「つまり、エターナルマップで新しく通路が描かれれば、そこに悪魔大蛇デビルバイパーが居るという事ですね」


 確かにクレアの言う通り、悪魔大蛇デビルバイパーがダンジョンの壁を破壊して移動しているのなら、リアルタイムで地形が確認できるエターナルマップを見れば、位置を特定することも可能かもしれない。


「あ、でも既に破壊された通路を悪魔大蛇デビルバイパーが通ってたら分らないか」


「……いえ、それは悪魔大蛇デビルバイパーが通れる大きさの通路を避ければ問題ないと思います」

 

 クレアはアリスの解決策を聞き「その手があったか」と手を叩く。


「ただし時間との勝負になります」


 幸いエターナルマップを見ると、悪魔大蛇デビルバイパーに破壊されてできた通路はそれほど多くはない。

 全体の十分の一ほどだ。しかし、これが第三階層全域に及び始めたら悪魔大蛇デビルバイパーの居場所を予測するのは困難だろう。


「それでも、悪魔大蛇デビルバイパーを避けられるならレンの捜索が大分楽になるよ!」


「そうですね。後はエターナルマップで魔物部屋モンスターハウスだと思わしき場所に目星をつけて、片っ端から探していくだけです」


 この階層の規模を考えるとそれが一番大変なのだが、アリスはあえて簡単かの様に言うことで自分自身を鼓舞する。


「あ、それならボクがこの階層をマッピングした時に何か所かそれっぽい場所を見つけたよ」


「――本当ですか!?」


 クレアからの思いがけない言葉にアリスは驚く。どうやら既にクレアは魔物部屋モンスターハウスに関して心当たりがある様だ。


「中を確認したわけじゃないから確証はないけどね」

 

「それでも、何も手掛かりが無いのとは大違いです!」


 クレアのお陰で、絶望的だったレンとの再会が現実味を帯びてくる。


「じゃあ、早速ここから一番近い場所を見に行こうか!」


「はい! 案内よろしくお願いします!」

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