第18話 大地魔法VSカレー魔法(2)


 早速、次のポイントで魔方陣の使用許可を求めたのだが、案の定、戦いになってしまう。更に今回の相手はオロールの親戚らしい。


 名を『アルチュール・タウルス・テッラム』といった。

 猫用のペットフードみたいな名前だが、熊のような大男である。


 しろな学園の制服が、きたえらえた先輩の筋肉によって、ピチピチなのが気になる。イケメンマッチョというヤツだ。


 魔法での戦闘なら問題ないが――


(殴り合いは、勘弁して欲しい所だな……)


 親戚という事で「オロールだけでも魔方陣を使わせてあげて欲しい」と提案したのだが、そうはいかないようだ。


(まあ、それはそうだろう……)


 学園の規則を守る――という事であれば仕方がない。

 親戚だからといって、贔屓ひいきするワケにはいかないのだろう。


 最初はそう思い、俺は納得しかけたのだが、


「この学園に来たからには、ワタシは彼女の兄としてわなければならない!」


 妹につく悪い虫め、成敗してくれる!――と何故なぜか俺が怒られてしまった。


「なるほど」


 とはオロール。そこは否定する所だと思うのだが、彼女は納得する。

 確認のため、俺は「仲が良いのか?」とオロールへ耳打ちすると、


「いいえ、一年に一度、おじい様のお屋敷で顔を合わせる程度です」


 そんな返答をもらった。

 よく兄貴面あにきづらできるな――とは思ったが、口に出すのはめる。


 ようはシチュエーションが大切なのだろう。

 それにオロールの親から、彼女の事を頼まれている可能性もある。


 安易に否定すると面倒なことになりそうだ。

 一応、オロールとは、そういう関係ではない事を説明しようとしたのだが、


「まさか、お兄様がわたくしたちの愛の障害になろうとは……」


 そう言って、オロールは俺の腕へ、自分の腕をガッチリとからめてくる。

 意外に力が強い――と感心している場合ではない。彼女の態度に、


ゆるせ! 最愛の妹である、お前を守るためだ!」


 などとアルチュール先輩は悩ましそうに首を左右に振った。

 一年に一度しか会わないような親戚なのに、本当の兄妹のような会話を始める。


何処どこかに台本でもあるのだろうか?)


 完全に2人の茶番へ巻き込まれた形だ。魔人族はどういうワケか、このような演出が好きだったりする。アルチュール先輩は、


「カリオ・ヴァニタス・スタティム!」


 2人の関係を認めて欲しければ、このワタシを倒すことだな!――と言いはなつ。

 ノリノリだ。自分のキャラの設定にいしれているらしい。


 フッ!――と息をらし、えつに入っているようだ。

 一方で「構わないので、倒してしまってください♡」と楽しそうにオロール。


 そう言われてしまっては、アルチュール先輩の立つ瀬がない。


(やれやれだな……)


 まあ、どの道、魔方陣を使わせてもらうためには、先輩に勝利する必要がある。

 負けたら負けたでエレノア嬢に文句を言われそうだ。


 納得をしたワケではないが、俺は魔方陣の中へと入る。


「カリオ・ヴァニタス・スタティムです」


 改めて自己紹介をした後「『カレー魔法』を使います」と言って〈カレーボール〉を出現させる。アルチュール先輩は一瞬、反応に困ったようだが、


「ワタシはアルチュール・タウルス・テッラムだ。『大地魔法』を使う」


 そう言って、地面から岩を出現させた。

 同時にそれを自分の身体からだへとまとわせる。


 頭部までおおかくし、これではまるでよろいだ。

 この場合、岩を相手に魔法を使うようなモノだろう。


 完全に防御タイプらしい。


(いや『大地魔法』と言っていたな……)


 本来なら大樹を召喚したり、地震を引き起こしたりするのだろう。

 ここは街中という事で、本来の能力をおさえているのかもしれない。


 でなければ、街の建物が倒壊する危険性がある。エレノア嬢の時は失敗してしまったが、あまり怒らせないようにした方が良さそうだ。


「ご主人、頑張るです! わん♪」

「目です! 目をねらってください!」


 いつも通りのラッシーとパール。

 あまり相手を刺激しないで欲しいのだが――


(それとカレーで目をねらうのは反則だろう……)


「なぁに、すぐに終わらせてやる」


 とアルチュール先輩。予想はしていたが、ストレートに魔法で出現させた岩を飛ばしてくる。それもかなりの大きさだ。


 けるのも大変なので、俺は〈カレーボール〉を岩へと当てる。


「これで場外か……」


 呆気あっけなかったな――とアルチュール先輩。

 その言動から、いつもは、この一撃で決着がつくのだろう。


 確かに対抗手段がなければ、岩でペシャンコにされるか、魔方陣の外へとはじき飛ばされるのが関の山だ。しかし、俺にはカレーがある!


 アルチュール先輩も様子がおかしい事に気が付いたようだ。


「ば、バカなっ! 動かせないだと⁉」


 自分が飛ばした岩を操作しようとしたのだろうが、すでにその制御は俺がカレーによってうばっている。俺は岩を『丼ぶり』へと変換させた。


 ますますって「分からない」といった表情をするアルチュール先輩へ、


「カレーが乗っていれば、それは食器です」


 俺は説明する。『カレー魔法』により、カレーが付着した魔法は食器へと変換することが可能なのだ。理屈としては「『煉獄魔法』の時と同じ」といっていい。


 つまり『大地魔法』の上位に『カレー魔法』は存在する。

 この世界の大地は、カレーを乗せるために存在するのだ。


「では、今度はこちらから行かせてもらいます!」


 そう言って、俺は『丼ぶり』から『カレーうどん』を飛ばす。

 カレーで相手の目をつぶすのは、人として間違った行為こういだ。


 しかし『カレーうどん』が飛んでしまうのは仕方のない事だった。

 これまでも多くの人類が『カレーうどん』の被害にってる。


 そして、今日も1人『カレーうどん』の犠牲になってしまった。


「ギャーッ、目がぁ!」


 直撃した『カレーうどん』。同時に、汁が目に入ったようだ。

 鎧のようにまとわせた岩があだになったらしい。


 これでは付着した『カレーうどん』の汁をぬぐうことは出来ない。

 加えて、彼は真っ白な学園の制服を着ていた。


 『カレーうどん』の標的として、これ以上、狙いやすい相手はいない。


(彼に本気を出されると厄介だな……)


 俺は素早く接近戦へと持ち込む。

 身体からだが大きく、岩で重たくなった分、素早い動きは不可能なようだ。


 視界をうばわれ『カレーうどん』の熱さで苦しむアルチュール先輩のふところへともぐり込むと、俺はまとってる岩へとれた。


 次の瞬間には――岩のよろいは――大きな『丼ぶり』へと姿を変える。

 後はそのまま角度をつけて転がし、中にいる先輩ごと魔方陣の外へと放り出す。


「これがカリオ様の奥義『カレーめん殺拳』!」

すごいです! わん♡ 美味おいしそうです! わん♡」


 やはり、いつも通りのパールとラッシー。


「勝手に変な名前をつけてないでくれ!」


 あと、アルチュール先輩を早く冷やせ!――俺はそう言って、2人を注意する。

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