第11話 プリンの代償(1)


美味おいしいですね」「はいです♡ わん♪」


 オロールとラッシーが俺の目の前で幸せそうに会話をしている。

 今、2人が食べているのはケーキではない。


 正確には『プリン・ア・ラ・モード』だ。先程、俺も知ったのだが、この魔王国では「初代魔王が生み出したスウィーツ」とされているらしい。


 『プリン・ア・ラ・モード』の発祥は戦後の横浜だったハズなので『初代魔王日本人説』はますますって濃厚となった。


 ちなみに日本でいう『ショートケーキ』(苺の乗ったスポンジケーキ)は流行はやっていないようだ。期待していたので残念である。


 また「チーズはワインと一緒に食べる物」という発想のようで『チーズケーキ』もない。


 折角せっかくなので『ショートケーキ』と『チーズケーキ』も流行はやらせておいて欲しいモノである。初代魔王にも困ったモノだ。


 それでも俺はなつかしいと思い『プリン・ア・ラ・モード』を注文したのだが、この季節だけの限定品のようだ。そして「限定品」という言葉に、女性は弱いらしい。


 2人とも、最初は「どのケーキにしようか」と迷っていたようだが『プリン・ア・ラ・モード』に決めた。


 ついでに付け加えるのであれば、美少女と小動物が食べていると美味おいしそうに見えるようだ。あっという間に売り切れとなってしまう。


 俺は自分の右手を見詰みつめ――


(『カレー魔法』よりも『ケーキ魔法』の方が良かったかな……)


 そんな事を考える――いや、そうではない。学園都市という事で「読書をしながら紅茶やコーヒーが楽しめる」そんな落ち着いた雰囲気のお店のようだ。


 観光客向けか――と思っていたのだが、客層は学生や研究者が多いらしい。

 人間族との戦争の傷跡は今もなお、残っている地域もある。


 だが、こうして「紅茶やコーヒーが手に入る」という事は、人々の暮らしが落ちついている証拠しょうこなのだろう。


 砂糖が庶民の手に入るようになったのは、素直に嬉しい事だ。このまま、まったりしていてもいいのだが、レクリエーションとやらには真面目まじめに参加した方がいい。


 サボっているワケではなく、休憩を兼ねて街の様子を観察する事にしたのだ。


(使った魔力を回復させる必要もあるしな……)


 オロールとラッシーは、初めて食べる『プリン・ア・ラ・モード』に満足したようだ。俺もある程度、情報を入手することが出来た。


 当然だが、魔王学園へ入学希望の生徒は俺たちの他にもる。

 多くの者が真新しい制服を着て従者と共に行動しているため、すぐに分かった。


 情報というのは、彼らの会話を盗み聞きしたワケではない。

 街の人々が彼らの姿を見て、色々とうわさ話をしていた。


 人の口に戸は立てられぬ――というヤツである。


(最初の攻略対象は決まったな……)


 どうやら、土属性の魔法の使い手が、この近くでポイントを守っているらしい。

 勝負の内容は一定時間、魔法陣の中に留まればいいようだ。


 門にた担当者からスタンプラリーのカードのようなモノを受け取っている。

 これを持ったまま、学園が指定した魔法陣の中に留まる。


(そのルールだけは共通らしいな……)


 簡単なルールではあるが、未だに成功した人物は数える程らしい。

 学園が選んだ実力者たちが守っているのだろう。


 相手は一人で複数の生徒を相手にしている。

 そう考えると魔力を消耗し、弱っているであろう夕刻に挑戦するのも一つの手だ。


 ただ、その遣り方だと――


(すべてのポイントを回り切れないか……)


 新入生同士で徒党を組み、学園が用意した実力者である上級生へ挑むのが、一つのセオリーのようだ。


 だが、カレー魔法の使い手と仲間になってくれる新入生は皆無だろう。

 取りえず、オロールの従者にもケーキを買って帰る事にした。


 パールに指示を出す。

 それから、出発の準備をするようにオロールとラッシーをうながした。


 オロールがラッシーの口の周りをく。


「ありがとうございますです! わん♪」


 とラッシー。2人が仲良くなって、俺としてはなによりである。

 すぐにパールは戻ってきたのだが、その後ろには何故なぜか、魔王学園の生徒とおぼしき女生徒がひかえていた。


 どうやら、また面倒事のようだ。

 彼女たちは頭を下げると、


不躾ぶしつけで申し訳ありませんが、魔法で『プリンを用意することが出来る』とお聞きしました」


 もしよければゆずっていただけませんか?――そんなお願いをされる。

 身形みなりからいっても、上位貴族の付き人のようだ。


 パールの事だから「ここで恩を売っておいた方がいい」と思ったのだろう。詳しく話を聞くと、彼女たちが仕えている貴族が、ここのプリンを所望しているらしい。


 確かに、プリンを無性に食べたくなる――


(そんな時があるよな……)


 原因はオロールとラッシーにもある。彼女たちが、あまりにも美味しそうに食べるモノだから、注文が殺到して在庫が無くなってしまったのは明白だ。


 当然、プリンは新しく作る必要があるので時間が掛かるだろう。別にカレー魔法で出してもいいのだが、香辛料の効いた『スパイスプリン』は研究中である。


(そもそもカレーじゃないからな……)


 頑張った所で、上手うまく創れるかは分からない。

 また、彼女たちの主人が食べたいと思っているプリンとは異なるだろう。

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