本 編

序 章

第1話 いっちょ転生すっか?(1)


「オッス、オラ神様! いっちょ転生すっか?」


 なにやら軽いノリで、目の前の人物はとんでもないことを聞いてくる。


「いや、お前っ――絶対ワクワクする方の奴だろ!」


 俺は思わず、手のスナップをかせて突っ込んでしまった。

 戦いの後半になると「元気を分けてくれ」とか言い出すに決まっている。


(俺は詳しいんだ……)


 そんな俺の反応に対して、


「おめぇ、面白れぇヤツだな」


 と自称『神様』。どちらかと言えば――


(戦闘民族のような気もするが……)


 何故なぜか気に入られたらしい。

 しかし、このままでは重力の強い場所で修行させられる可能性がある。


 俺は一旦いったん、冷静になる事にした。

 大きく息を吸って深呼吸をする――のだが、息が出来ない。


 その代わり、苦しくもなかった。

 続いて、胸の上に手を置いてみたのだが、心臓の鼓動こどうも感じない。


 どうやら、俺は死んでしまったようだ。


(段々と思い出してきた……)


 デス動画配信によって、殺されたのだ。

 そして、目の前にいる相手の言葉を信じるのなら――


(これが異世界転生というヤツか……)


 全然、ワクワクしない。だが――今、俺の目の間にる相手――自称『神様』とやらの顔を認識する事は出来なかった。


 恐らく、本物の神様なのだろう。ただ、下手なことを言うと修行をつけられてしまいそうなので、言動には気を付けた方が良さそうだ。


(まずは状況を把握はあくしないと……)


 今、俺がいるのは壁のない白い空間である。床はあるのだが、天井は見えない。

 いや、しろなため、どうにも距離感がつかめなかった。


 途轍とてつもなく広いと言われれば、そのように感じるのだが、せまいと言われれば、そんな気もする。


 何故なぜか、神様の足元にはテレビと家庭用ゲーム機が置かれていた。

 神様は腰を下ろすと「いいから、早く隣に座れよ」とでも言うように、床をパンパンとたたく。


 すると、真っ白だった床が青いカーペットへと変化した。

 そこでようやく、俺は気が付く。


(ああ、ここは生前の俺の部屋か……)


 恐らく、俺の記憶から引っ張り出してきているのだろう。

 謎の神様パワーというヤツだ。


 広く感じられた空間は、いつの間にか四畳半のせまい部屋へと変わっていた。ベッドや勉強机は置けるのだが、友達を呼ぶと窮屈きゅうくつに感じるのは相変わらずのようだ。


 同時に、神様の手には見慣みなれたゲームのコントローラがにぎられていた。

 これではまるで「テレビゲームを始めっぞ!」といった雰囲気である。


(いや、実際……)


 その通りなのだろう。流石さすがに、お菓子とジュースは用意されていない。

 のんびりと遊ぶワケではないようだ。


 どうやら、ゲーム画面で『転生先の世界ステージ』と『人物キャラ』を選らぶらしい。

 異世界転生とやらは、こんなノリなのだろうか?


 カネなら払うので――


(せめて、アバターはイラストレーターに依頼させてくれ……)


 視聴者層を想定して、外側ガワを被る必要がある。

 投げ銭は二十代が多いようなので、その層を狙うのがいいだろうか?


 いや、違った。俺は首を左右に振ると、神様とやらの横に座る。

 同接ランキングを不正に操作され、デス配信者に殺されたばかりだ。


 俺が殺されるさまは録画されていたに違いない。

 さぞかし見物だっただろう。


 次の転生先があるのなら「ネットのない世界」にした方がいいかもしれない。


「どの世界がいっかなぁ?」


 と神様。家庭用ゲーム機をいじっているので、その様子はまるでプレイするキャラクターを選んでいるかのようだ。


 真面目まじめにやれ!――とツッコミを入れてしまいそうになったが、選べるだけマシと考えた方がいいかもしれない。


(通常は問答無用で転生だろうしな……)


 しかし、ゲーム機で転生先を選ぶ気分ではない。生きていたのなら「この状況をネットで配信しよう」と考えたのかもしれないが、もうりである。


 ゲームなら隙間時間で話題作りのためにやる無料の『ソーシャルゲーム』か、プレイ時間ゼロの『ゲーム実況』で十分だ――と答えるくらいには精神メンタルが弱っている。


 転生などしても苦労するだけなので、丁重にお断りしたい所なのだが――


(こういう場合、転生する以外に選択肢はないんだろうな……)


 どうせ、もう戻る肉体はないのだろう。

 まあ、俺が死んだら保険金がりるようにはしていたので、計算通りだ。


 病気で入院している妹の手術費は用意できただろう。

 今のご時世、弱男が生きるにはハードモードである。


 通常、セーフティネットは「雇用」「公的保険」「公的扶助」の3層モデルで考えられているモノだと思うのだが、政府が増税を行うためのシステムであり、最後は生活保護しかない気がする。


 そして、そんな生活保護を受けることが出来ない者を狙ったのが、デス動画配信だ。


 本来ならデス動画配信に参加していたのは俺の友人だったのだが、そんな彼が「ハメられた!」と言って泣きついてきた。


 カネが必要だった俺はその状況を利用し、代理人として「デス動画配信に参加した」というワケだ。結局、殺されてしまったが――


(少なくとも2人の人間は助けられたので良しとしよう……)


 そんな俺の心を読んだのだろうか?


「やっぱ、LP(生命力)とかがある世界がいいのか?」


 神様に質問される。LPが0にならない限り、生き返ることが出来るのだろう。

 「閃き」や「見切り」「連携」が重要な世界のようだ。


「〈パリイ〉のスキルさえ覚えれば、でぇじょうぶだ」


 と神様は言うが、いまいち信用できない。

 それに、そんなスキルを持っていたら前衛に立たされるのは確定だろう。


 当然、魔法や精神攻撃まで〈パリイ〉できるワケではない。

 敵の物理攻撃を受け流すだけである。


 そもそも、そんなに万能なスキルだっただろうか?

 確か、その世界って――


(アリがいっぱい出て来る気が……)

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