パーティ

 訓練はしていたが、対人で魔力弾きを最近はやっていなかったので少し心配をしてた。それでも感覚は鈍っていないようだ。モルドの魔法の発生は速いが、彼自身の魔力制御が甘いためか同じ魔法でも魔力量が異なる。それに対応して、その都度魔力を変えるのはいい訓練となった。


 「はっ!なめやがって、イカサマで魔法は防げてもなぁ!」


 魔力が回復したのか、再び魔法を放つモルド。防御に徹するのは止めにして、ここからは攻撃を始める。


 「……」


 放たれる魔法を全て躱し、接近。腕に魔力を集中し、攻撃を仕掛ける。


 「おらぁぁ!!」


 だが、攻撃を加えようとした瞬間、地面から岩が突き出し、モルドの身体を隠す。更に岩が変形し、棘が突きでてきたので、一旦攻撃を止めにして距離を取る。


 「近寄らせなければ、てめえは俺に勝てないんだよぉ」


 距離を取った自分に魔法が放たれるが、回避と魔力弾きを織り交ぜていく。魔法が使えない者は魔法を使える相手に勝てない。そう思われている一番の要因は攻撃範囲にある。魔法が使えず近距離戦闘しかできない者は、まず魔法を回避しながらの接近が難しい。そして接近したとしても、今のように周囲に魔法を展開された攻撃ができない。


 「まあ、そう考えるよな」


 だがその程度の事は分かっている。自分は幼い頃から、その点を補うように訓練を重ねてきたつもりだ。訓練方法を教えて、手伝ってくれた親には感謝している。


 「……」


 「馬鹿の一つ覚えか!てめぇの攻撃は効かねぇ、って言ってんだろうが!」


 自分が接近すると、モルドは再び岩の壁を展開する。だが、そんなのは関係ない。魔力を制御し、拳が壁に当たる瞬間、魔力を拳上に一気に固める。


 「はっ?――ぶべぇ!?」


 右拳で岩壁を破壊し、そのまま左拳でモルドを殴り飛ばす。己の防壁を突破されるとは微塵も思っていなかったモルドは簡単にこちらの攻撃を喰らってくれた。実に情けない。


 「自慢の壁もそんなもんか」


 「この!雑魚がぁ!!!――ぶっ!?ぐへぇ!?」


 焦ったモルドは体勢を整えずに魔法を放つ。だが制御が甘すぎる。魔法をそのままモルドの腹に向かって殴り返し、そのままの勢いで接近。弾き返された魔法を喰らい前のめりになるモルドだが、倒れきる前に横っ面に蹴りを放つ。蹴りは木製のメイスで防御されたが、そのままメイスごと蹴り飛ばし、モルドは地面を転がる。


 「……」


 「はぁ、はぁ、この畜生が!!!俺をコケにしやがって、殺してやる!!!」


 起き上がったモルドがメイスを捨て、こちらに突進してくる。武器を捨て何を血迷ったのかと思ったが、そういう事か。奴は懐から短剣を取り出し。更にこれまでと違い、先を尖らせた岩を展開し、こちらに放つ。


 「な!?止めろ、モルド!!!」

 

 模擬戦では禁止の武器に、殺傷性の高い魔法。エリックが叫び、飛び出してくる。だがもう遅い。


 「先に仕掛けたのは、そっちだからな」


 「死ねえええ!!!」


 これまで以上に集中。魔力制御を完璧にこなし、地面を踏みしめる瞬間に脚の身体強化を強め、一歩目から最高速に到達する。


 「は!?消え――がぁっ!?」


 滑り込むように一瞬で奴の懐に入り込み、腹に強烈な一撃を叩きこみ、殴り飛ばす。勢いよく地面を転がり、地面に仰向けに寝転ぶモルドだが、まだ意識が残っているが、これで終わりだ。その場で高く跳躍。そのまま地面に転がっているモルドの顔面に脚を―、


 「ひっ!?」


 一瞬は顔面に脚を振り下ろそうと思ったが、モルドの表情をみて、判断を変える。既に戦意を失っている相手に模擬戦でいたぶる趣味は自分には無い。ただ、すでに跳んでしまっている以上は仕方ないので、奴の顔面の真横に脚をそのまま振り下ろすと、地面が凹み、轟音と共に激しい土煙が立つ。


 「ほら、どうだ先輩……って気絶してるのかよ」


 土煙の中で勝利宣言をしようと思ったのだが、モルドはどうやら気を失っているようだ。数発の打撃と魔力弾き、最後に顔の横へ踵落としをしただけなのだが。とは言え自分も母親と体術の訓練をしていた時、初めの内は頻繁に気絶していた事を思い返す。


 「え、えー、それでは、模擬戦は終了です」

 

 いつの間にか気絶するモルドと自分の横に来ていたギルド職員が、模擬戦の終了を宣言する。先程までの自分を馬鹿にする声はもう聞こえない。これだけ多くの冒険者に自分の実力を認めてもらえたのなら、これからギルド内で魔力適性の件で馬鹿にされることは無いだろう。


 「あ、あのリクさん。模擬戦、お疲れさまでした……ひぇっ」


 「ああ、ありがとう」


 受付員、エリック、そして知らない男性がこちらにやって来た。ただお礼を言っただけなのだが、受付員の彼女は何だか怯えた目でこちらを見ている。気になり周りに目をやると、冒険者の反応も様々だ。受付員のように何故か震えている者、盛り上がり拍手を送る者、モルドに向かって罵声を飛ばす者もいる。


 周りを見ていると、先程からいた男性が一歩前に出た。誰なのかは知らないが、身なりから察するに重要な役職に就く人だろうか。


 「素晴らしい戦いをありがとうございます。まあ、少々やりすぎかもしれませんし、凄い殺意でしたけどね。ははは」


 「えーっと……」


 「私はこのギルドの長をやっている、リンドです。よろしく」


 「リクです、よろしくお願いします」


 偉い人とは思ったがギルド長だったのか。ただの模擬戦をギルド長が見にくることは驚きなのだが、これから帝都に暮らしていくのだから、覚えてもらって損はないだろう。


 「それじゃあ、リク。君の階級の話なんだけど」


 本来はこの模擬戦を行うはずだったエリック。もし彼との模擬戦ならこんな事にはならなかっただろうが、結果的に自分の実力を示す良い機会にはなった。とは言え、彼にも迷惑をかけてしまったので、少し申し訳ないとは思う。


 「文句無しの銀等級。魔法なんか関係なく、君の実力は本物だ」


 「凄いですよ、リクさん。最初から銀等級だなんて!」


 彼が言うには、登録時の等級審査で最高が銀等級冒険者らしく、ここから更に上の等級にあがるためには特別な手続きが必要らしい。それを聞いて、改めて金等級だった母親の凄さを実感する。


 「それでリク、君に仲間はいるのかい?」


 「今の所はいないな。探すつもりではあるんだけどな」


 今の実力ならば1人でも依頼をこなしていけるとは思うのだが、時には複数人のパーティでしか受けることのできない依頼も存在するらしく、しかもそういう依頼の方が報酬が良いらしい。だらかパーティは組んだ方が良いと知り合った冒険者達は、皆口をそろえて言っていた。


 「それじゃあ、リクが良ければなんだけど、僕とパーティを組まないか?」


 エリックの誘いは丁度いいのかもしれないが、今一度考える。彼は銀等級の冒険者で、実力はさっき戦ったモルドより高いらしい。それに加えて彼はギルドで新人に対して模擬戦を行っている辺り、帝都に関しても詳しい。悪い話ではないような気がする。


 「そうだな、それじゃあ、よろしく頼むよ」


 「本当かい!リクがパーティに入ってくれるなら心強いよ!」


 モルドとのやり取りを見ていても、エリックが悪い人間ではないのは分かっている。ここは彼の好意に甘えても問題は無いだろう。


 「今日はこの後、行かないといけない所があるんだ。だから明日からよろしく頼むよ」


 「わかった。明日の朝、ギルドに来てくれ。そこで僕の仲間を紹介するよ」


 エリックの提案を了承し、窓から外見ると、もうすぐ陽が落ちそうだ。ラヴァさんの店に行き、預けた桜楓おうかを受け取らなければ。


 「ちょっといいですか、リクさん」


 「はい、何ですか?」


 訓練場から出ようとしたらリンドさんに声をかけられた。彼は無言で自分の方を見ているのだが、なんだか見定められているようで気持ちが悪い。


 「あ、あの……何でしょうか」


 「ははは、これは失礼した。雰囲気も何だか似ているような気がしましてね。貴方は、ミズキという方を知っていますか?もしくは、レオなどはどうでしょうか?」


 「――」


 突然の名前に一瞬、頭が真っ白になりかけたが、動揺を表に出してはいけない。今の自分は、その2人とは無関係でなくてはならないのだ。不用意に答え、そこから彼らとの関係性を疑われるのはマズい。


 「聞いた事がないですね。それじゃあ、俺は」


 「そうですか、それでは」


 簡潔に答え、早々にギルドを立ち去る。過去に冒険者として異名を持っているのは知っていたが、帝都にまで知っている人がいるとは。これはこれからの帝都での生活でも、自分に関しては余り喋らない方がいいだろう。肝に銘じなければ。

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