第4話 外れ者への施し

翌日、


日が昇る間は父親が管理する村の焼き窯でポネを焼く仕事の手伝いをしていたアクレイだったが、作業が一段落したため、焼窯の近くの丘に向かうと、大きな石を椅子代わりにして座り、長老から借りた獣革紙の本を腰で巻いた前掛けの上で開き、熱心に読んでいた。


その近くを流れる「エトアピ」オシュ


ふとその川の上流に目を向けると、そこにはごとごとと不気味な音を立てて川縁で回る水車が据えられた小屋が見える。


絶え間なく回る水車にかつてアクレイは疑問をもち、父親に訪ねたことがある。


だが、父親は小麦を粉にするための場所と答えるだけでそれ以上のことは教えてはくれなかった。


代わりに答えてくれたのが長老であった。


彼は小さな模型を作り、アクレイに水車の原理を教えた。


その上でさらに、長老は彼に村人が忌避する理由についても教えてくれた。


「それは水車小屋の人間が小麦粉を盗んでいるんじゃないかっておもっていたからだよ」


「どうして?」


「麦を粉にするとき、どうしても目方が減るからのう、それをいいことに番人が量をごまかしているのではないか?そう疑うものがいるということさ」


「もうすれば疑いが晴れるのでしょう?」


「どうすればいいと思うね」


「教会で誓いを立てればよいのでは?」


いかにもな答えに長老は微笑む。


「そうだな、それでもいいかもしれん。しかし、儂は違う方法を取ったよ」


長老が取った方法、それは目方の計り方を教え、小屋の番人が不正をしていないことを村人に分からせたという。


しかし、それでも小麦を砕く課程で無駄となるものは出る。


だがその事を責めてはならないのだという。


それは弱いもの、貧しい者に対する施し。


「我々は常に天におわす全能の主への感謝を忘れてはならない」


長老の説明を聞いたアクレイはそう父親に言われていたのを思い出した。


そうしたことがありはしたものの、依然として水車小屋の番人に対する偏見は村人の間に根強く残っている。


水車を使わなければ小麦を粉にするのは難しい。しかし、今までの偏見を完全にぬぐうこともできない。


それが現状であった。

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