第2話 先人からの教え

「そうなんですか?」


「冒険者は基本、自分の事は自分でしなければならない、自分がどこに行くべきか、何をするべきかも自分で考えなければならない。そして自分の身を守ることも」


この老人はアクレイやルアンナが生まれる前にあった大きな戦いの際、戦士として各地を周っていたという。


それ故に知識と見聞に優れ、今は村の知恵袋として村長や村を守る兵士達からの相談も受けている。


故にアクレイもルアンナも真剣な眼差しで老人の言葉を聞いている。


「しかしなアクレイ、本を読んでばかりでもいかんよ。本に書かれていることが真とは限らない。書かれていることが古くてすでに役に立たないこともある。剣術の本を読んだからと言ってすぐに剣が使えるわけではない、分かるな」


「は、はい」


神妙な顔でうなずく二人に老人は表情を崩す。


「素直でよろしい、では授業を始めようかの」


そう言うと老人は熱心に二人に様々なことを教える。

粗末ではあるものの鎧を着込み、互いに剣や槍を使っての打ち合い。


力がなくても扱える、引き金を引くだけで矢を放つ仕組みを持ったいしゆみの扱い方や手入れの仕方。


そして文字の書き方や簡単な計算。


天頂で輝いていた太陽はいつしか傾き、空も雲も橙に染まり、世界全体が黄昏(たそがれ)ていく。


「暗くなってきたな、今日はこれまで」


「はい!ありがとうございました」


二人は老人に一礼すると鎧や武器、藁人形の片付けを済ませ、家路につく。


ふと、空を見ると太陽が周囲の山々にかかり始め、影が世界を飲み込み始めている。


そんな中、冬の麦蒔きが始まりつつある麦畑の間に伸びる道を並んで歩く二人。


「また明日ね」


「うん」


村の中心に向かって伸びるいつもの道でいつもの挨拶を交わして二人は別れ、それぞれの家へと向かう。

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