明晰夢

不労つぴ

第1話

 友人のコウヘイがある日を堺に、大学に来なくなった。


 僕とコウヘイは小学校からの友人で、高校こそ違うものの大学も一緒で仲が良かった。

 大学に入ってからも、よく一緒に遊んだり、互いの家に泊まったりした。


 しかし、四年の就活シーズンが終わり始めたくらいから、あまり構内で見かけることが無くなった。メッセ―ジアプリで連絡しても、既読はつくが返事は返ってこない。電話も試したことがあるが、出てくれることはなかった。でもその時は、既読もついているし大丈夫だろうなんて悠長に考えていた。それからしばらくしてから、既読すらつかなくなった――。


 ある日、ゼミの友人からコウヘイが志望していた就職先に落ちてしまったことを聞いた。僕は小学校の頃から、コウヘイがそこに就職したいと言っていたことを知っているし、大学に入ってからも受かるために一生懸命資格勉強などを頑張っていたことも知っているため、とてもいたたまれない気持ちになった。


 これまで、迷惑になるかと控えていたが、僕はコウヘイの家に訪れることにした。

 コウヘイを家から連れ出して、街の方にでも行って美味しいものでも食べてカラオケにでも行こう。そしたら、コウヘイも少しは元気になってくれるかもしれない。


 僕はゼミの終わりにコウヘイの家を訪れた。コウヘイの住むアパートは大学のさらに上の方にあり、そこに行くには沢山の階段を登らなくてはならなかった。日頃運動不足の僕はコウヘイの家にたどり着く頃にはヘトヘトになっていた。

 ――明日から毎日ウォーキングしよう。そんな明日にはすっかり忘れているであろう常套句を独り言として呟きながら、コウヘイの部屋の前までたどり着いた。


 チャイムを鳴らす。

 ――反応がない。


「おーい、コウヘイ。僕だよ」


 そう言いながらドアをノックしてみるが返事が返ってくる気配がない。

 今日は不在なのだろうか。


 試しにドアノブを回してみると、すんなり空いた。

 どうやら鍵がかかっていなかったようだ。


 鍵の閉め忘れだろうか。

 いや、コウヘイは用心深い性格だ。たまたまかもしれないが、それでも彼に限って鍵を閉め忘れるなんてことは想像しにくい。


 ――まさか、コウヘイは何か事件に巻き込まれたんじゃないだろうか。

 嫌な予感が頭をよぎる。

 縁起でもないその考えを振り切り、確認のためコウヘイの部屋に入ってみることにした。


「コウヘイ、入るからねー」


 一応、一言断りを入れて、コウヘイの部屋に入る。

 部屋は片付いており、いつものコウヘイの部屋と変わりなかった。

 リビングに入るも、コウヘイはいなかった。部屋は相変わらず片付いていたが、以前と違ってどこか生活感がないと言うか寂しい感じになっているように感じられた。


 僕は机の上をちらりと見る。

 机の上にはパンフレットのようなものと何かのチラシの裏に書かれた走り書きが置かれていた。

 まず、走り書きを手にとって読んで見る。


「やり直したい」


 走り書きには強く書きなぐったような筆跡でこのように書かれていた。

 走り書きの筆跡は乱れていたが、見覚えがあった。おそらく、コウヘイが書いたものだろう。


 走り書きを机に戻し、次にパンフレットを手にしようとしたところ――。


「あんまり、人様のモノにベタベタ触るのは感心しないなぁ」

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