第10話 襲撃


「それではこちらの家の周りを中心に木の柵を作って立てていきますね」


「うん! よろしくね、ルーベル」


 簡単な朝食をとってから、ルーベルには家の周りに木の柵を立ててもらう。本当は畑や井戸やトイレなんかを囲む大きな柵を作りたかったけれど、木材の量の都合と今回用意してきた木材を縛るための縄の都合上、それほど大きな柵は作ることができないから、まずは家の周りを囲うように柵を立てる。


 少し落ち着いたら近くの村か街へ行って、必要な物を購入してくる予定だ。元々はまずこの開拓地を見てから、近くにある村や街へ行って開拓に必要な物を購入する予定だったんだけれど、開拓者スキルのおかげでいきなり開拓を始めることができたからね。


 いろいろと検証したいこともあるから、そのために必要な物はどこかで買わないといけない。


「さて、それじゃあ僕たちは新しく畑を広げていこう」


「承知しました、レオル様」


「頑張ろうね、レオルお兄ちゃん!」


 ルーベルが木の柵を組み立ててくれる間に僕たちは畑の拡張をおこなう。


「ゲットーはのんびりとしていてね」


「ブルル」


 畑はすでに耕された状態で出てきたから、今ゲットーにできることはないけれど、野菜を収穫し終わったら畑を耕すのを手伝ってもらおうと思っている。


「新しい畑をひとつ追加して、とりあえず全種類の野菜を植えてみよう。それと、今回は種を全部植えないで一部残しておこうね」


「承知しました」


「うん!」


 昨日はひとつの畑にエンドウ豆の種を植えていった。だいたい畑の3分の2くらいを使用していて、残りの畑だけじゃ他の野菜を育てられないからもうひとつ畑を設置した。そして種を3種類ポイントと交換したから、残りのポイントは50Pになっている。


 ひとつ気になったことがあって、昨日植えたエンドウ豆の種はそのすべてが発芽して順調に育っているんだよね。ウインドウの説明通りに種を一粒ずつ少し離して畑に植えてみたらうまく育ってくれている。


 だけど、確か前世の知識だとこういった野菜を育てる時には種を数粒ずつ植えて、そこから発芽したものの中からさらに成長が遅いものを間引いていった結果、残ったものを育てていったはずだ。


 今回新しくポイントと交換した他の野菜も育て方の説明を見ると、種を一粒ずつ植えていく感じだった。エンドウ豆がそういう野菜なのか知らないけれど、もし他の野菜の種も全部発芽して育ったら、それも開拓者スキルの力なのかもしれない。




「……よし、これで他の野菜も植え終わったね。それじゃあ、次はこの木の棒をエンドウ豆の畑に埋めていこう」


「うん!」


「承知しました」


 無事に新しい野菜の種を畑に植え終えた。5Pで交換した作物の種は結構な量があるから、今回の種は一部を残してある。


 さっき出した木の資材でエンドウ豆用の支柱を作る。木の棒は1センチメートルくらいの細い棒で、これを別の木の棒と交差するように斜めに地面へ差していって、上の部分を縄で結んでいく。こうすればより多くつるが絡んでいきやすいというセシルのアイディアだ。


「それじゃあ、あとはこっちに検証用の種を植えてみてと……」


 エンドウ豆用の支柱を作るのはセシルとミーシャに任せておいて、僕はいくつか別の検証をしてみることにする。


 まずは明らかに成長が早いこの野菜の種を畑ではなく、隣の不毛の大地を耕して井戸の水を与えた場所に各野菜の種を5粒ずつ植えてみた。こうすることで、これらの野菜の異常に早い成長の原因が分かるはずだ。


 もしも畑と同じ速度で成長したなら、この急成長する原因は開拓者スキルで出した種のおかげだということになる。だけど、もしもうまく成長しないようなら、開拓者スキルで出した畑のおかげということになる。


 あとはこちらの世界の野菜の種をこの畑に植えてどう成長するのかと、この種をここ以外の場所で植えてどう成長するのかも検証してみたいこところかな。




「レオル様、敵襲です!」


「えっ!?」


 4人で分かれて作業をしていたところ、突然ルーベルが大きな声を上げた。そしてみんなが僕の周りに集まってくる。ゲットーはセシルがこちらに連れてきてくれた。


「あちらから複数の魔物が接近してきます。……数5、いや6! ブラックウルフの群れのようです」


 ルーベルの視線の先には土煙を上げながら複数の魔物がいて、こちらに近付いてくる。この辺りは何もなくて視界が開けているとはいえ、よくあの距離で気付いてくれた。


「レオル様はお下がりください!」


 セシルが両手に大きなナイフを逆手で持って構える。ルーベルもすでに自身の武器であるレイピアを構えている。


 僕も自分の武器であるショートソードを引き抜く。ルーベルに剣を習っていたとはいえ、みんなと違って実際に魔物を相手にする実戦は初めてだ。


 ……正直に言ってかなり怖い。


「ミーシャ、頼むぞ」


「うん、任せて! ファイヤーランス!」


 ルーベルがミーシャに指示を出す。ミーシャはその小さな両手を目の前に突き出し、魔法名を詠唱した。するとミーシャの目の前に複数の炎の槍が現れた。


「いっけええええ!」


 ミーシャが声を上げると、炎の槍はものすごい速度でブラックウルフたちを襲う。そして、その炎の槍のいくつかはブラックウルフへ命中した。


「「グルウウウ!」」


「はっ!」


「しっ!」


 そしてミーシャの魔法が撃ち漏らした2頭のブラックウルフはルーベルとセシルの手によって、一撃で地に伏した。


 ……剣を構えた僕の出番はなく、一瞬で決着がついてしまった。

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