第29話 悪あがきの末路

「ふざけるな、私は死罪になどなるものか! おい国王、私が大事ならさっさと庇えよ!」

 バルド宰相は逆上してめちゃくちゃ言い出している。


「バルドよ。お前にこれ以上罪を重ねさせる訳にはいかない。諸国王らよ、どうか私も彼と共に死罪にしてほしい。ユカリを処刑場から逃したのは私だ。私だって掘り起こせば罪くらいいくらでも出てくる」


「何言ってんだよお前だけ死ねよ!」

 と、バルド宰相。


「では、投票を行おう。選択は『バルドのみ死罪』『バルドとフォーリア国王の死罪』『死罪ではない別の刑』だ。諸国王よ、手元の魔法紙に記入をしてほしい」

 ステリア国王の提案で、当事者のフォーリア国王を除いた有権者での投票が行われた。


 そして投票を自動で表す魔法紙には『バルドのみ死罪』に全票が入っており、バルド宰相の死罪が確定した。


 私も、バルド宰相が望んでもないのに召喚をされたことは同情できるけど、その後の彼の言動はとても許されるものではなく、同じ召喚者としても寄り添えそうにはなかった。



⸺⸺その時だった。


 バルド宰相が自身の唇を噛み血を床へ垂らすと、私を召喚したときのような魔法陣が光って彼の足元へと浮かび上がる。


 そして彼は一歩後ろに引いてドム王子を蹴飛ばし魔法陣の中へと押し込んだ。


「貴様何をしている! 奴を捕らえよ!」

 1人の国王がそう叫ぶが、バルドが口を開いた瞬間召喚の詠唱が始まり、それにより出現した魔力の渦のせいで彼の元に近付くことが出来なくなった。


「我、の者を生贄いけにえに、今此処ここに奈落の底にひそみし悪魔を召喚せん。いでよ、そして我が願いを聞き入れたまえ!」


「悪魔召喚だと!?」

「それは古来より禁術だぞ!」

「バルド……そんな物まで研究していたのか……!」


 魔法陣から黒いモヤがモクモクと吹き出し、ドム王子が断末魔を上げながら魔法陣の中へと引きずり込まれていく。

 そして魔法陣からこの世の生き物とは思えないような腕が伸び、バルド宰相の足をグッと掴んだ。


「おぉ、来てくれたか悪魔よ……!」

『これっぽっちの魔力でオレサマを呼び出そうとは笑えるな……その罪、その魂を持って償ってもらうぞ』


「……は? や、やめろ……やめろぉぉぉぉ!」

 バルド宰相もその魔法陣へと引きずり込むと、その腕は魔法陣をスッとひと撫でする。

 すると、魔法陣はそれに合わせてスッと消えていき、腕は床に潜り、辺りは何事もなかったかの様にしんと静まり返った。



「一体何だったんだ……」

 一人の国王がそうポツンと呟いたのを皮切りに辺りは急にざわざわと騒がしくなる。


 そのざわめきの中心では、フォーリア国王が魔法陣のあった場所を見つめて「バルド……ドム……」と悲しそうに呟いていた。


 そんなフォーリア国王へ、ステリア国王が歩み寄る。

「そなたは罪を償うため死罪にしてほしいと言っておったが、10年以上も必死に努力をして授かった我が子を目の前で失った。これ以上の苦しみがどこにあろうか。そなたはもう既に十分すぎるほどの罰を受けたのだ。ゆえに、そなたの罪に関しての話はこれで終わりにしようと思う」


 ステリア国王は、そう言ってフォーリア国王の肩をポンポンと叩いて慰めていた。

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