第23話 ただいま

⸺⸺王家の別荘の孤島⸺⸺


 私たちはユカリを連れて、真っ直ぐにこの孤島へと戻ってきた。

 気付けばこの孤島を出てから丸1日が経っていて、陽が高く登っていた。


 ユカリの中のもう一人の人格の人は、確かに“みんな元に戻していく”と言った。


 それなら……オスカーも!


 私は潜水艇を飛び出すと、一目散に別荘の城へと向かった。

 閉めてきたはずの窓が開いていることに気付き、そこからバターの良い香りが漂っていた。

 この匂いは!


 そう思っていると、入り口の扉が開きピンクのエプロンを付けたオスカーが顔を出した。


「オスカー!」

「エマ!」


 飛びついた私をオスカーはキツく抱きとめてくれる。


「オスカー……オスカー……!」

 自然と涙が溢れてくる。

「エマ……おかえり」

 オスカーも泣いているようだった。

「ただいま、オスカー……」


「兄さん……」

「オスカー……」

「あっ……えっと……」

 ユカリを連れたエドとノエルも合流する。


「皆……おかえり。そろそろ帰ってくると思って、クッキーを焼いていたんだ。入ってくれ」

 オスカーは涙を拭ってそう言うと、私をひょいっと抱き上げてダイニングへと向かった。


「エマ、少しだけ待っていてくれ」

 オスカーはダイニングのイスへ私を下ろすと、エドの影に隠れておどおど入ってきたユカリへと向かい合う。


「ひっ……あの……あたし……」

「あの時は、酷いことを言ってすまなかった」

 オスカーはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「あの……ユカリもごめんなさい……」

「もう、いいんだ。さぁ、仲直りのクッキーを食べよう」

「うん……!」


 それぞれ席につき、私だけなぜかオスカーの膝の上へと座らされる。

 そしてオスカーはこう言った。

「皆、すまん。感謝の言葉を述べる前に、30秒だけ時間がほしい。目をつぶるか後ろを向くかして、絶対こっちは見ないでくれ」


「なんじゃそら……」

 ノエルはそう言いながらも後ろを向く。


 エドとユカリも目を瞑ると、オスカーは私を向かい合わせにして、噛み付くようにキスをしてきた。

 角度を変えて、何度も何度も噛み付いてくる。

 そんな彼の激しさに、彼もずっと我慢してたんだなと思った。


「はいもう30秒です、おしまいー」

 エドはそう言って容赦なく目を開ける。すると、その声に反応してかユカリも目を開け、あーっと指を指した。

「エマ、ちゅーしてるー!」


「いやお前ら気持ちは分かるけど後にしろって」

 振り向いたノエルはそう呆れ意味に言うと、クッキーを1枚口へ放り込んだ。

 

「はぁ……後にするか……」


 オスカーのその一言でようやく解放された私は、皆が振り向いてもしばらくキスをやめなかったオスカーのせいで恥ずかしくて前を向くことができなかった。

 そのためうつむいたまま隣のイスへズレて座る。

 そんな私を見てノエルもエドもくすくすと笑っていた。


 改めて、オスカーが口を開く。

「このエマの筆跡での、俺を治す方法を探しに森へ行ってくるというメモを見て、彼女の所へ行ったんだなと思った。それで俺が戻れたということは、上手くいったんだなということも推測出来た。そういうことで、間違いないか?」


 私たちは3人はうんとうなずく。


「本当にありがとう。迷惑をかけた」

 オスカーはそう言って頭を下げた。


「兄さん、やめてください。僕の方こそ、悪ふざけが過ぎました。ごめんなさい」

 エドもそう言って頭を下げる。


「まぁまぁ、他にもオスカーへの朗報も沢山あんだよ。謝ってばっかいねぇでそっちの話しようぜ?」

 と、ノエル。


「朗報?」


 ここで私たちは、森でユカリから聞いた一部始終を要約して彼へと伝えた。



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