雲や氷は流れても。夢や希望には、流されない。ピリオドを打つその日まで。

 ころん、と手のひらに乗せたビー玉を曇り空にかざせば、透き通ったその中身もぼんやりと白くなるように。その白んだ風景の正体は、実は曇り空ではなく流氷だった。空に流氷が! なんてことではもちろんなく冒頭の部分から私なりのイメージです。
 そんな大気圏流氷に乗っかるナギサペンギンたち。まさにユートピアともいえる快適な生活ぶりを垣間見ながら、議論は雲は生きているのかについて。
 雲という、見慣れつつも未知な部分が多い存在について自論を展開するペンタロウ。なるほど……雲も呼吸していて、互いを捕食しあっている。つまり、雲を掴むような話ならぬ、雲を食むような話というわけですね(違
 空の底とはいわば、深淵にも近いものがあるのでしょうね。深淵を覗くものはまた深淵から覗かれているとは言いますが、そこ(底)にあるのはまさに「深」い空の「淵」。
 確かにペンタロウの説を推すならば、すべからく生命が息吹いていても不思議ではない。ただ、それを知るということはすなわち空の底へ落ちていくことと同義で、どれだけのリスクがあるかは未知であり……好奇心は猫を殺すというものの、あるいはペンギンんすら殺してしまうかもしれません……。それでも、未知へと漕ぎ出す(泳ぎ出す)ペンタロウ。読み進めるだけの私には、ただただ無事を祈ることしかできないのがなんとも悔やまれます。
 まるで道案内をしているかのような雷跡を追いかけるペンタロウ。高飛び込みよろしく気圏を突き破らんとするも、無念にも弾かれ……審査員もいない孤独な飛び込みはまるでノーコンテンスとのように、終わりを告げて。
 戻るべき流氷は遥か遠く。漂うペンタロウの目の前に現れた塔。タロットカードにおいて、「タワー(塔)」のカードは急展開や激変等の意味を持ち、ライダー版のタロットカードならば、まさに雷が塔に落ちるイラストが描かれ……もしや、雷跡はこれをイメージされていたのでしょうか……?
 っと話を(塔だけに)トウッと戻しまして。派遣された調査隊の調査の結果、絶妙なバランスの元、絶妙な量子状態の元作られた塔ということが判明し。結論から言えば、ペンギンたちにとって直接的な被害をもたらすことはないということで決着したかに見えたものの……長老の一喝!
 流氷はやがて塔とぶつかることになり、量子的に干渉をすればペンギンたちの命は量子糸のように消えていく……。
 何とか流氷の進行を食い止めようと、碇を落として流氷を制止させる作戦が決行。確かに、ルノルマンカードでも碇(錨)のカードは安心、安定、ゴールが見える等を意味する。つまり……これは、勝ち確!
 そんな中、コペルニッケの漏らしたことはどこか悲しげで。二人で行動を共にしていたものの、目を向ける先がだんだんとずれていき……疎外感を感じるようになったペンタロウ。そりゃいくらペンギンが(馬が)合うといっても、興味を持つことはそれぞれ違うのは当たり前の話で。ただ没頭しすぎてしまうあまり、本来の目的すら見失ってしまったのでは、多少なりともペンタロウに同情したい気持ちになりますね……。仮に声をかけていたとしても「忙しいから」と言って一蹴されそうです。
 ならばと、共通の話題、スペースサメハンターで盛り上がるのは良い舵の切り方とでも言いましょうか。こういう掛け合いを見ていると、「あぁ、やっぱり二羽は仲良しなんだなぁ」としみじみ思いますね。
 そろそろ作業も終わり……かけたその時! コペルニッケが……!!
 九死に一生を得た、コペルニッケは素朴な疑問を投げかけて……否、地上にぽつりと落として。しかし、それに答えてくれる地上の存在などいはしないのですが。だからこそ、自分が「答え」になりに行くというのは、とても理にかなっている……いや、夢に叶って(叶って)いると言いますか。
 塔に思いを馳せるように足しげく通うようになったペンタロウの、未知との邂逅。飛行士ペンギン。その飛行士ペンギンが地上から持ってきた土産話はまさかの、スペースサメハンターの結末。ウルトラC級にもたらされた重大なその情報に雷が走る!
 さらに飛行士ペンギンは、地上のありとあらゆる生命の存在を証明した。それは、まるで空想や夢物語といった幻に過ぎない、雲を掴む……否、雲を食むような物語が現実となった瞬間であり、その歴史的な瞬間に立ち会えていることを私は一読者としてすごく新鮮に受け止めています。
 そしてさらに、コペルニッケの提唱する説まで現実のものとなり。夢が現実になり、地に足がつく。いや、流氷でしょうか。そんな当たり前の感覚が新鮮な衝撃として伝わる程度には、驚きを隠せないペンタロウだったことでしょう。
 ペンタロウの求める答えがそこにある。百聞は一見に如かず。この機を逃してはいついけるともわからないチャンス。しかし……この現実もまた無慈悲なもので。
 ペンタロウやコペルニッケが、その「現実」という「事実」を目の当たりにするのはいったいいつになるのかわからないけれど。彼らが驚くのか、感動して泣くのか。はたまた、別の表情か。そんな夢のような想像を膨らませながら、今回のレビューは〆とさせていただきます。