18

 いた。みつけた。

 黒猫は図書館の出口のところにいた。そこにいて霰がくるのをまってくれているようだった。でも、霰と目と目があうとそれを合図にして黒猫はまた全速力で走り出してしまった。

 霰はすぐに黒猫を追いかける。

「霰。ちょっとまってよ!」

 後ろから樹お兄ちゃんが自転車に乗って霰を追いかけようとしている。でも荷物をかごにいれたり、霰がすっぽかした荷物をもったり、急いで二人分の帰り支度をしたりしているので、なにも持たずに走っている霰とは少し距離が離れている。

 黒猫は道路のところにいる。

 その歩道のところを走っている。

 世界は綺麗な夕焼け色に染まっている。

 もうとても暖かくなったので寒くはない。(走るとちょっとだけ、汗をかくくらいだった)

 霰は走る。

 周囲に人はいない。車も走ってはいない。

 走っているのは黒猫と霰だけだった。

 うしろを少しだけ振り返ると、ちょうど樹お兄ちゃんが自転車で図書館の出口を曲がって、黒猫と霰のいる道路のところに出てきたところだった。(お兄ちゃんは霰を追いかけるつもりようだった)

 霰は前を向く。

 そこには一匹の幽霊の黒猫がいる。

 残念でした。私は運動音痴の(運動が大嫌いと飾はいって、いつもだらだらとしていた)飾とは違って走ることには自信があるんだよ。絶対に逃がさない。

 そう思いながら全速力で走っていた霰はすこししてふといつもとは違う違和感に気が付いた。

 いくらなんでも(もともと図書館の近くは人通りも走っている車の数も少ないのだけど)誰もいないなんてことあるのだろうか? 車が一台も道路を通らないなんてことがあるのだろうか? 

 霰は黒猫を追いかけながら、周囲をみて、人や車に十分注意をしながら走っている。(お休みの日にお兄ちゃんを無理やり連れだして一緒にタイムを計りながら、ランニングをしたりするのだけど、そのときのようにしていた)

 後ろを振り向くとそこにはちゃんと樹お兄ちゃんがいる。霰は大好きなお兄ちゃんの姿をみて、ほっとした。

 それから前を見て、考える。もしかしたら私は(あるいは私たちは)もういつの間にかいつもの世界ではなくて、ちょっとだけ『変な世界』にまよいこんでしまっているのかもしれないと思った。

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