モーメント1 ~私、ベース、君~

藤いろ

第1話・私、ベース、君

その背には似合わないベース。

並べたら身長と同じなんじゃないの?

そんな君が愛おしい。

「あ!みーちゃん!おはよー!」

私の元に走ってくる。

ああそんな全力で走るからベースの重さに振り回されてるじゃないの。

可愛い。

「おはよう、柚花」

「みーちゃん、私に気付いてたのにずっと見てたでしょ。私分かってたから!みーちゃんがずっとこっち見てるの!」

「ごめん、私よくボーッとしちゃうから」

「もーみーちゃんは危なっかしいなー。私がいないとダメだねー」

「そうだね。あ、電車来た」

「流れるような肯定!」

柚花は小さい140cmあったかな。

電車に乗る時も力強く大股でホームと電車の隙間に落ちないようにまたぐ。

「フフッ!」

そして毎回ドヤ顔を披露する。

可愛い。

電車に乗ってる時間は15分。

私達はクラスが違うからこの時間だけが二人っきりの時間。

他愛のない会話。

正確に言うと私は聞いてるだけ、柚花の日常を。

私が見れてない時何をしているか、何を考えていたか。

小さい子のように何があって、何をしたのか。楽しそうに話す柚花。

可愛い。

本当に見た目も中身の幼い(褒め言葉)。

こんなに幼くて大丈夫なのかな。高校生なのに。

可愛い。

ラッシュの時間になってきた。私は柚花の後ろに並ぶ形の立ち位置に。

私と柚花の間にはベース。

ああベース邪魔、壊したい。

けど出来ない。

ベースは柚花の夢だから。

プロのベーシストになりたいらしい。

私には夢がない。

だから柚花がより輝いて見えるのかもしれない。

揺れる電車。柚花は吊革に届かないから倒れかける。

「うわ!」

私はベースと一緒に支える。

「大丈夫?」

「ありがとう、みーちゃん。このまま支えててよ」

「いいよ」

「一生だよ」

「いっ・・・!?」

一瞬言葉に詰まる。

「一生♡」

どうやら恋に関しては私のが幼いらしい。

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