C1-3 はじめての尋問
「起きたわよ、姉さん」
目の前には冷たい空気を纏う赤い短髪の少女と、姉さんと呼ばれる金髪の女性が立っていた。前者は十五、六歳ほどで背丈は160cmほど、後者は二十歳ほどの見た目で背丈は170cm近くある。綿でできた、異国の服装。胸や膝、肘など要所要所に金属の装甲が付けられている。
進は最初、二人がコスプレ衣装を着ている思ったが、不要な装飾を取り除いたそれは明らかに戦うためのものだと感じられる。加えて、ところどころに黒ずんだ血痕が付着し、誰かと争った歴史を感じる。
「寝起きのところ悪いんだけどさ、ちょっと色々聞かせてもらおうか」
金髪の女性が話し出す。彼女は雑誌のモデルになってもおかしくないくらいの美貌をスタイルを兼ね備えている。赤髪のスレンダーな少女の幼い顔も、女優になれるくらい整っている。つまり、目の前にいるのは美女二人だが、喜んでいられる余裕はない。冷たい冷たい眼光と言葉。今から始まるのは尋問や拷問の類だと推測できるからだ。
「だ、誰だあんたたち!? 」
進の言葉を聞いて二人は沈黙した。考えている、というよりも驚いている様子だ。目が丸く見開き、二人で顔を合わせる。お互いに、聞き間違いではないと確認するために。
「何言ってるのこいつ?」
「え?」
「さっきから何言ってるかわかんないんだけど、何の言語を話しているの?」
「!?」
進は少し間を置いて理解した。目の前の二人の言葉を進は理解できるが、こちらが話すことを相手が理解していない。意思の一方通行という、奇妙な現象が発生している。いや、そもそも明らかに二人は外国人の顔立ちだ。それなのに何故言葉が通じる? 相手がこちらの母国語を習得しているとしか考えられないが、それならなぜこちらの言葉を聞き取ることができないのか。
「もしかして」
金髪の女性は腰に構えていたホルダーから札を取り出し、何かの文字を紙に書き出した。そして、進の胸に向かってトランプのカードのように投げつけた。札は胸元に着地する。不可解な行為に進は戸惑うが、縛りつけられた体ではただ見ることしかできない。
「さて、これでどうだい」
不自由な体の首を上げ、なんとか進は投げられたものを確認した。それは本の栞のような大きさの札だ。硬質の紙に見たこともない文字が書かれている。ペンライトのように、文字からほんのりと緑色の光が発せられる。そこから砂糖菓子のような甘い匂いがする。
「何だこれ、札? これに何の意味が?」
「お、何を言ってるか分かるようになったね」
「え・・・・・・姉さん、まさかこいつ」
赤髪の少女は驚愕の表情を浮かべる。決して喜んでいるわけではなく、常識を知らない大人を見るかのような蔑んだものだ。
「意志伝達の魔法が使えないみたいだね。だからそれで補った」
「嘘でしょ? そんな人間いるの?」
「私も初めて見たよ」
ーー意志伝達・・・・・・魔法?
二人の言葉は聞き取れても、意味がまったく理解できない。魔法とは何だ? なにかの隠語か? 馬鹿にされているのは言葉や表情から理解できる。しかし、状況が把握できない進にとって、今は怒りよりも不気味さの方が大きい。冷や汗を流し、黙って相手の出方を見る以外なかった。前を見るために慣れない姿勢で上げた首が痛む。
「さて、話が通じるようになったところで・・・・・・」
「っ!」
つい数秒までの柔和な表情とは一変、金髪の女性は今にも殺しそうな目で進を見つめる。ちょうど獲物を狩る猫のように、黒い瞳が楕円型に鋭く縦長くなっている。返答を誤ると死ぬ。そんな緊張感が狭い小屋の中に張り詰めていた。
「あんた、さっき一緒にいた男との関係は?」
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