第003話 先生、教える

「さあ、着いた」

 

 加護かごが双子を連れてきたのは、ボロボロの木造一軒家だった。築五十年以上は経っているように見える。

 

「ここのどこが学校なんだよ?」

 

「姉さん、怖いよう……」

 

 マヤは目を見開いて疑い、マオは地縛霊でも出そうなボロ家の雰囲気に尻込みしていた。


 

「とりあえず入学までまだ一ヶ月くらいあるからね、それまでにここで君達には特別授業を受けてもらいます」

 

 玄関の引き戸をガタガタと軋ませて開けながら加護は双子を中に招き入れる。

 

「その前にいいかげん名乗れば?教師のくせになってないよ!」

 

 マヤの言い分は当然だ。ここまで加護は双子を無理やりタクシーに押し込めて連れてきた。車内では運転手とお喋りばかりして何の説明もしていない。

 

「おっと、ごめん。僕の名前は加護シュウマ。四月から君達が通う軍立クルセイド学園茅花つばな分校のタルククラスの担任です」

 

 担任です、のあたりで白い歯を煌めかせたのは加護なりのユーモアだったが、マヤもマオもポカンとしていた。

 

「……」

 

「?」

 

「どうした?二人して固まって」

 

 加護が聞くと、双子はシンクロして首を傾げる。

 

「意味わかんない」

 

「くる……?たる……?」

 

 軍立クルセイド学園、茅花分校、タルククラス。

 加護の言葉の半分以上が見知らぬ言葉だったので、マヤもマオも理解が出来なかった。

 

「ふむ。確かにそうだね。じゃあ最初の授業を始めよう、荷物を部屋に置いて来なさい」

 

 加護はマイペースを崩さずに双子に言うと、マヤは焦って目を見張る。

 

「ちょっと待って。まさかこのボロ家で寝泊まりすんの?」

 

「ボロ家だなんて。素敵なマンスリーマンションじゃない!」

 

 加護はまた白い歯を煌めかせたが、とうとうマオが泣き出した。

 

「うわー!詐欺だあ!詐欺師なんだあ!助けてシスター!」

 

「はい、落ち着いて!」

 

 めいめいに騒ぎ出すので収集をつけようと加護が両手をパンと打ち鳴らすと、双子はビクッと一瞬固まった。

 

「!」

 

「ひぐっ!」

 

 強制的に黙らされたマヤとマオに加護はにっこり笑って言った。

 

「僕のピースはね、サイレント・レイク静かにしなさいサイドって言うの。落ち着いたかな?」

 

「じょ、冗談じゃない!力が抜けてく、気持ち悪いっ!」

 

「こ、ここ、こわこわこわ……」

 

 マヤもマオも自身に起こる異変に素直に恐怖していた。

 孤児院での振る舞いを見ても、こいつらには決定的な力の差を見せる必要があるとふんでいた加護はあえて乱暴な措置をとったのだった。

 

「自分達以外のピースには初めて会ったろう?君達だけが特別ではないんだよ、だから人を見下すくせは今日中に直しなさい」

 

「ピ、ピピ、ピースって何ですか?」

 

 震えながらマオが聞くと、加護はゆっくりとした口調で説明する。

 

「簡単に言うと僕や君達のような人とは違う不思議な力を持つ者のことだ。一般的には適正と読んでいるね」

 

「あ……シスターが言ってた……」

 

「適性が確認された者は軍に召集されることが法律で定められている。だから君達はここにいるんだ」

 

「きょ、拒否権は?人権は?」

 

 微かな希望に縋りつこうとするマオの心をへし折るのは少々可哀想だが、加護には事実は事実として教える義務がある。

 

「ない。適性が確認された時点でピースは国の所有になる」

 

「お、横暴だ!非人道的だ!」

 

「……それだけ世界は逼迫した状況にある。まあ、その辺りは四月になってから学園でみっちり教えます」

 

 少しやり過ぎたかなと、すっかり怯えているマオを見て加護は思った。しかしその隣でマヤの方は頬を紅潮させていた。

 

「ねえねえ!あたし達にもそういうカッコイイ名前の力があんの?」

 

 なるほど、姉は楽観主義。慎重で小狡さのある弟とはバランスが取れているのかもしれない。

 加護は少し考えを巡らせた後、マオの不安も緩和させようとまた明るい声音で答えた。

 

「うん、そうだね。初見の見立てではマヤちゃんには腕力(仮)、マオくんは増幅(仮)ってとこかな」

 

「腕力、かっこかりぃ!?」

 

「ぞ、増幅(仮)!?」

 

「全然かっこよくないんだけど……」

 

 正式な適正能力の登録を済ませるまでは、加護にはこのような言い方しかできなかった。

 

「ま、そこも入学してからのお楽しみだ」

 

「じゃあ、今からは何すんの?」

 

 明らかに興味をなくしたマヤに、加護はまたゆっくりと説明する。

 

「君達は半年前に孤児院に来たばかりで、記憶喪失のために小学校に編入できなかった。四月から入るタルククラスは中学一年生相当。よって、入学までに小学校卒業レベルの学力をつけてもらいます」

 

「べ、勉強っ!?」

 

 たじろいだマヤを他所に、マオは真面目な顔で手を上げて言った。

 

「僕は相対性理論わかります!」

 

「嘘つかないの」

 

「ちっ!」

 

 だいぶ本性を出すようになってきたな、と加護は満足げに笑った。

 

「さー!張り切って、レッツ、スタディ!」







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 プロローグ3話をお読みいただきありがとうございました!

 これ以降は1話ずつまったり更新していきます。

 キャラクターや妖精が沢山出ますので、今後も読んでいただけたら嬉しいです。

 応援や評価も是非よろしくお願いします!

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