第2話 再訪と秘密の声

数週間が過ぎ、涼子は再び「虚無堂」を訪れる決意を固めた。前回の訪問以来、彼女の心には確かな変化があった。日常の疲れが積もり積もる中で、その暗闇と静寂の場所がなぜか心地よく思え始めていた。


会社を出た後、涼子は直感的にその道を辿った。驚くほどスムーズに、「虚無堂」の扉を見つけることができた。閉ざされた扉を前に、彼女は少しの躊躇もなく中に入った。


再びその完全な暗闇が涼子を迎え入れる。しかし今回は、美咲の案内がなくとも、彼女は自信を持って席に着くことができた。座るとすぐに、同じく肩を一回叩かれ、冷たいガラスが手に渡された。涼子は静かにその飲み物を味わった。


食事の際には、肩を二回叩かれる。暗闇の中、彼女は前回よりもはっきりと味や食感を感じ取ることができた。何を食べているのかはわからないが、それが何故か重要ではなくなっていた。


食事を終えた後、涼子はふと、部屋のどこかから小さな声が聞こえるのに気が付いた。耳を澄ますと、それは優しく、落ち着いた女性の声だった。声は、涼子に語りかけるように、ゆっくりと話し始めた。


「あなたが求めるものは、常にあなたの中にある。ただ、見つめる勇気を持つこと。」


その言葉に、涼子は心の奥深くに響く何かを感じた。彼女は自問自答を始める。自分は何を求めているのか、何に真に価値を見出しているのか。


ふと気づくと、再びその眠気に誘われ、意識が遠のいていった。目が覚めると、涼子はまたもや外のベンチに座っていた。賽銭箱が膝の上にあり、彼女は無意識のうちに硬貨を入れていた。


立ち上がり、涼子は深く呼吸をした。心が軽くなり、思考がクリアになっていくのを感じた。そして、再び「虚無堂」に足を運ぶことを心に決めた。次は、もっと深く自己と向き合うために。

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