魔石繋ぐ異世界滞留者たちの闘い 〜過去に世界を救い、今の世界を蝕む異世界人は、闘ってでも異世界に留まり続ける〜

@unoe_daiki

プロローグ これが闘いの始まり


 あの日。

 危機に瀕した世界に現れた正体不明の『異世界人』と呼ばれる者が現れた日。


 世界は危機から救われ、大きく発展した。


 だが、あれから数十年。

 世界は新たな問題を抱えた。


『異世界人が多すぎる! 何人召喚されれば良いんだ!』


 あろうことか新たな問題は異世界人だった。


『世界の救済からはや数十年。あの者の先祖のみならず、続々と姿を現し、今やこの地のものよりも数が多くなりつつある。早急に対処せねばならない』


『といっても、奴らは世界の救済として呼ばれ現れた存在。理由なく殺さんとするならば、奴らもまた群れを成して対抗する。そのなかでも我らがもたらした希少な恩恵と異常な覚醒とて牙を向けば、我々の脅威になりえよう』

 

 その地その世界を監視する神様たちとって、異世界人は手の施しようのない問題。

 我が身を脅かすとなれば、下手に手出しは出来ず、神々は頭を抱えるしかない。


『というか、異なる神は? 呼んだんじゃなかったっけ? 他の奴らもちらほらいないし』


『本当だよ! なんでいないかな異なる神は! この問題のそれもこれも全部――』


『こっちの所為だって言いたいわけぇ?』


 なにもない真っ白な空間。

 歪みや朧げな色彩、ひび割れを仮の姿としてここに集う神々は感じ取る。


 遅れてやってきた存在の、その威圧感を。


『いやいやぁ、そんな無責任なこと言わないでくれよぉ。異世界人の招来、それを望んだのは君たちじゃないかぁ?』


『だ、だけどさ……いくらなんでも多過ぎだっての』


『定期的に寄越せって横暴言っておきながら、今度は増やし過ぎだぁ? いい加減身勝手すんのもやめてくんねぇか? こっちだってようやっと抑えが効かねぇ人の急増問題を、あんたらとのやりとりで少しづつ解決できると思ったってのに!』


『し、しかたねぇだろ……!? こっちの世界は魔物と人間が相容れねぇようになってるんだ! 先代たちの仕組みでなぁ! だから、悪意や害意を持った人間やら魔族やらも自ずと出てくる! だから英雄が必要なんだよ! けど、平穏な今は必要ないの! 持ってくるなとは言わないからさ、返す方法とか考えてくれよ!』


『返す方法ねぇ……あんたらが恩寵だかなんだかで言って、強くしておいてなに言ってんだかぁ……』


 話し合いは難航。

 片方は現状の打開を望んでおり、片方は現状の変化を拒んでいる。


 だが、両者とも問題を抱えていることは確かだ。


『新しい世界を創ろうにも管理者がいるだろう……使者はまだ十二分に育っているものはいない。いたとて、最近のものは準じるものばかりで、世界を担おうなどとは思わんだろう』


『……んー、別に管理者なんていらないんじゃないかな? 負けたやつは異世界から強制追放ってことで、その世界に飛ばせばいいでしょ?』


『え? いやいやいやいや、待て待て待て待て……! 強制追放ってどういうこと!? 追放した人間たちは!?』


『まぁまぁ、順を追って説明するからそれで決めてよぉ。こっちとしてはこの方法が一番適していると思うからさぁ』


 こうして、長らくの時間をかけて説明と質疑応答を重ね、提案は可決。


 異世界の神の言葉により、爆増する人間たちの問題も一時的に解決した。


 新たな戦いを容認して。


 * * *


「ふぅ。全く……今度はなんだっていうんだよ」


 昼時、橙色の髪を少年は行き交う人々を眺めながらため息をついた。


 せっかくの休日を冒険者ギルドからの招集で時間を食われるのだ。ため息もつきたくなる。


 本来なら、他の冒険者とご飯を食べに行ったり、擬似蹴球サッカーや木刀による決闘を楽しんでいたのに。

 

 要件もなんとなくはわかっていて、だからこそ、落胆せざるを得ない。


「……元いた世界に帰らない? って誰が喜ぶんだよ。リア充とか陽キャならともかく、中高大とボッチだった俺がそんな要求呑むわけねぇだろうが」


 機嫌が悪いことを表情や態度に示して歩く商店街。

 少しでも気を紛らわそうと遠回りをする少年を、呼び止める者がいた。


「あ、おーい! マヒル! こんな所でなにやってるんだよ!」


「げっ、アサヒかよ……わかるだろ? 招集を受けてギルドの方へ向かってんだよ」


「完全に遠回りだろう? この道は……まぁ、いいや。お前に一緒に行くよ」


 ここでやってきたのは赤髪で前髪を逆立てた少年アサヒ。

 派手な髪型や筋肉質な体型からは考えられない低姿勢。


 加えて、アサヒは冒険団のリーダー。

 ことあるごとに指示したり嗜めたり、俺の問題に首を出してくる。嫌気が刺すぐらい推しと良しだ。


 ときには悩んでいるときには相談に乗ってくれたり、慰めたりしてくれるけれど。

 

「けっ、自分が不真面目にサボりたかっただけじゃねぇの?」


「……そりゃそうだよ。もしかしたら、もう2度とここにはいられないのかもしれないし……」


「……」


 いつもならこんな軽い冗談なら流してくれるのに、今日だけは空気が重い。


 それもこれも全部、この異世界に呼び寄せた神様の所為だ。


 自らに呼んで置きながら、多すぎたからここから去れだなんてとんでもない暴挙だ。


 こっちは、元いた世界では得られなかった日々を掴んで楽しくやっていたというのに。


 ゲームや漫画で見たような魔物を討伐し、人に感謝とお金を貰って、順風満帆な日々を送っていた。


 呼び寄せられた際に頼まれた災厄とやらにも、進んで立ち向かおうとも思えてきたってのに。

 

「……着いたな」


「あぁ……」


 神様の恨みつらみを心の中で募らせていたマヒルは、仲間のアサヒの言葉で気づく。


 来たくもなかったギルド場の入り口に。


 顔を顰めて向き合うも埒があかないとマヒルが扉を開く。


「――行くぞ!」


「……あっ」


 なにが来ようと構わない。一言言ってやらねぇと気が済まないとマヒルは思っていた。


 だが、胸にあった怒りは一瞬で消え去る。


「なん、だ……ここ?」


 見慣れない場所。というより、なにもない場所だった。


 いつもの暖かい雰囲気どころか、扉の先には色なに一つ色がなかった。

 透明とも捉えられる白一色の回廊が果てなく先へと続いていたのだ。


『ようこそ。そのまま道なりに進んでください』


 無機質な声だ。

 またしても顔を見合わせて、深くため息をつくマヒルは歩み出して、アサヒが続く。


 途方もない長い道のり。

 しかし、不思議と不快感はなかった。


 むしろ、立ち止まるほうが恐ろしくも感じた。


 だが、道中で驚くことが一つあった。


「――な、なぁ……なんか、身体が変じゃねぇか?」


「う、うん……なんというか、気だるくなった感じ。ベットがあればそのまま眠ってしまいたくなるぐらいに」


 だが、それ以上も以下でもなく、立ち止まってもなんの変化もない。

 彼らは進み続けた。終わりの見えない道を、その先にある目的地に向かって。


 ――そして、彼らは出会う。


「……ッ! ヒグレッ!? ヨヅキッ!?」


「その声は……マヒル!?」


 間違いない。見間違えるわけがない。


 濃い紫髪のおさげで小柄な少女、ヨヅキ。

 白茶色の髪を腰まで伸ばし、艶めかしい少女、ヒグレ。


 対極的な2人を見間違えるわけがない。

 馴染みある、パーティーメンバーだ。

 

 昨日も楽しく魔物狩りとその打ち上げをした面々というのに、浮かない顔を浮かべていた。


 やはり誰1人として、この異世界を去りたくはないようだ。


「な、なぁ……」


 不条理への嘆きを共有しようと口を開くも、


『ようこそ。異世界の人間たちよ』


 空から降って聞こえた声に皆が視線を上へ向く。


『お前たちはどうしてもこの世界に留まるというのか?』


「当たり前だ! お前たちに呼び出されて、ようやく馴染めたっていうのに、今度は何年過ぎたかもわからない場所へ戻れって身勝手がすぎるぞ!」


「そーだそーだ! 神様風情が! 私たち人間にもどこにいるかを決める権利はあるぞ!」


『わかった。だが、貴様たち異世界人が問題になっているのも事実。だからこそ、示せ。お前たちがここに残りたいという意志を。お前たちがいるべき存在であるということを』


「なにを……させるつもりだ……!?」


『戦いだ。命も大切な人も奪わない。だが、お前たちが残る権利を賭けた戦いに勝て。さすれば、しばらくは留めてやろう』


 突然の宣言。

 問いただしたいことは山ほどあるが、尋ねたところでなにも始まらないし、解決しない。


 戦って、勝つ。

 確かな言葉だけに彼らは意思を宿す。


『ここにいる者たちが居場所を守る闘いをともにする人界第4組だ。数にして、5人。力を合わせて勝ち残ってくれたまえ』


「5人……?」


 マヒルはここで首を傾げる。

 仲間は自分を含めて合計5人だ。改めて数えても、4人しか――、


「あ、あの……」


 いた。冒険のパーティーにはいない、背丈の小さな黒髪の少年が。


『5人いることが必要不可欠なんでな。数合わせにその少年をよこした。あと君たちのなかにはいない恩恵持ちだ。頼りになるぞ』


「は、はぁ……君、名前は?」


「ユウです。よろしくお願いします」


 それがこの冒険者、後に人界第4と呼ばれる集団を引っ張ってゆく少年の名前だ。

 後に彼はこの闘いにおいて、『人界の勇者』と呼ばれるようになる。


 それは後の話で、それほど遠くない話だ。

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