第12話

「よし、行くか」


異空間箱アイテムボックスに必要なものは入れたし、都会に言っても恥ずかしいことはないだろう。ただ、何があってもいいように、干将/莫邪は常に常備しておく。クルーシャもこういうことを見越して、小さな武器にしたのかもしれない。


「気を付けてね。怖いことがあったら、すぐに帰ってくるのよ?後、港区に言ったら魚を獲ってきてくれる?都会の幸を食べてみたいの」


「分かってる。無茶はしないよ。後、魚に関しては任せてくれ。一本釣りしてくるよ」


『まだ勘違いしてるwww』

『可愛いなwww』


「センパイ…干将/莫邪に付与してあるスキルは」


「大丈夫。もう頭に入ってるよ。まぁ多分使わないと思うけど」


俺は挨拶はそこそこに二人を置いて家を出た。というか二人とも花嫁修業はいいのかな?さっさと好きな人の家に行った方がいいと思うんだけどなぁ。


『いやぁ、ついにこの配信に生Sランク冒険者が映るのか』

『すげえな。まだ四日目だぜ?』

『天文学的に配信が伸びてるもんな』

銀色の風シルフ様が映るなんて緊張してきたな。後、金剛姫も』


━━━


━━



『ドローンのしんじつ、はいしんのしんじつについて山口新也にはなさないこと。ダンジョンきょうかいについてもごういがとれたので、ドローンははいしんしたままにすること。ぎまいちゃんとのけいやくをまもること」


私は新さんとの集合場所に一足先についた私は銀色の風シルフ様から賜った手紙を読んだ。何があっても新さんを日本ダンジョン協会に連れて行かなければならない。


「一体、なんなのでしょうね。この、汚い文字は…」


隣で私の手紙を覗き込んだ銀蜘蛛、こと、野山が私に質問をしてきた。


ふふ、銀色の風シルフ様についての理解が足りませんね、野山は。


「これは銀色の風シルフ様なりの保険ですよ」


「保険…?どういうことですか…?」


「簡単なことです。もし、途中でこの手紙が外部に漏れてしまったら、極秘のミッションが日本中にバレてしまいます。ただでさえ、一介の冒険者を突然Sランクにしようとしているのです。例外を認めてしまった瞬間に他の冒険者からの苦情が日本ダンジョン協会に押し寄せてくるでしょう」


「…そこまでの暴動を見越しているのですね…ですが、配信を許してしまっては極秘も何もないのでは…?」


「ふふ、銀色の風シルフ様は当然そこまで見越しています。仮にSランク冒険者に登録された人間がいれば、民衆は新さんとは誰だと疑問に思うでしょう?」


「確かに…一体誰なんだとなりますね?経歴や身辺を調べたくなるものです」


Sランク冒険者は100万人に一人の逸材だ。だから、一人Sランク冒険者が出ると日本中にそのニュースが広まる。


「そうなったときに、新さんには実績がありません。あるのは村でのSランクモンスターを相手に無双している配信。もちろんそれでもいいのですが、民衆は浮世離れしすぎた新さんの無双に納得しないでしょう。だからこそ、『聖なる剣』との試験で配信を許可されたのです。確実な場で、かつ、Sランクと渡り合うことのできる逸材。そうなれば民衆も認めざるを得ないでしょうからね」


「な、なるほど…」


虚偽や縁故ではない。純粋な実力で新さんはSランクになった。それが極秘試験で配信を流す理由でしょう。もっと言えば、確実な情報の出所として配信を使うというものだと思う。テレビやラジオでは編集や出来レースなのではと疑われてしまいますからね。


もっとも、『聖なる剣』に蹂躙される未来も当然ありえます。そうなったときは、ただ、新さんが叩かれるだけです。それはそれで残酷ですが、仕方がありませんね。


それにしても、新さんはどれだけ期待されているのでしょうか。銀色の風シルフ様がここまで思いやる新人など聞いたことがありません。


「とてつもないですね…」


「そうでなければ、幼稚園生が書くような汚い文字で手紙など書く意味がありません。万が一、手紙が私に届かなかったとしても、文字が解読できないようにあえて平仮名で書いたのでしょう。この辺りの気配りは銀色の風シルフ様にしかできないことですね」


「な、なるほど…流石、としか言えないですね」


銀色の風シルフ様の行動にはすべてが意味がある。いや、意味のない行動などないかもしれない。いつもはSランク会議で寝ているかのように静かな銀色の風シルフ様が新さんの話になった瞬間にとても饒舌になった。それほどまでに新さんの実力が凄まじいということなのでしょう。


ただ、なぜ『山口新也』という文字だけはどんな書道家よりも達筆なのだろうか。それだけが謎だった。


「しかし、映像を何度見返しても、『新ちゃん』については眉唾ものです。素手でSランクの魔物を倒すなんてとてもじゃないですが、不可能だと思ってしまいます…」


野山の懸念はもっともだ。私だって、映像をすべて鵜呑みにしているわけではない。だからこその今日だ。『聖なる剣』との試験を見れば新さんの実力はすぐに分かってしまうだろう。


「あ、来たようですね」


「ふふ、時間ピッタリですね」


━━━


━━



「おっ、アレかな?」


村にはないけど、町には所々で走っているから知っている。アレは車だ。しかもめっちゃ黒い。そして、その前にスーツでびしっと立つ仕事のできそうな美人と、昨日沙雪から頂いた写真集に載っていた金剛姫さんだ。


『うわ!マジもんの金剛姫だ!』

『銀蜘蛛もいるぞ!?』

『すげぇよ新ちゃん!マジでSランクの話が現実味を帯びてきたな!』

『金色の園のSランク冒険者が並ぶなんてめったに見れないぞ!?』


俺は自転車を停めると、少しだけ小走りで二人の元に向かった。時間通りだとは思うけど、待たせているのは申し訳なかった。


そして、あちらからも俺の方に寄ってきた。


「はじめまして、Sランク冒険者の金剛姫と申します。今日はよろしくお願いします」


「よよよよよよよよよよろしくうお願いします!」


金剛姫さんから右手を出されたので、俺も右手を差し出して握手をした。とても、柔らかかった。


『めっちゃ緊張しとるなwww』

『声ブレブレじゃねぇかwww』

『新ちゃんでも緊張するんやなwww』

『大丈夫かぁ?この後に銀色の風シルフ様との面会があるんだぞ?』

『義妹ちゃ~ん?どこ行ってるんや?感想くれや~』


俺はそのまま銀蜘蛛さんという秘書の方とも握手をした。二人ともとても美人だった。


「すいません、沙雪の我儘を聞いてくださって」


俺は頭をポリポリと掻きながら、何度も頭を下げた。


「沙雪?ああ、義妹ちゃんのことですね?」プルン


「あ、ご存じでしたか。丁度この病院に入院しているのですが」


集合場所は病院だった。俺は沙雪が寝ているであろう部屋の窓を見た。


「そうですか…義妹ちゃんにはお世話になっているので一度挨拶に行きたいのですが…」プルン


「ああ、それはすいません。昨日注射百本打った後遺症でとてもぐったりしているのです」


「まぁ…それは大変ですね。回復なさると良いですね…」プルン


「ありがとうございます」


「お嬢様、そろそろ出ないと…」


「ああ、そうでした。では、そちらからお乗りください」プルン


「ああ、はい」


とはいっても車になど乗ったことがない。俺は反対側から車に乗る金剛姫さんを見て、扉の開け方を学んだ。ただ、そんなことよりも、


「デカいな…」


『シリアスな顔で何をいっとんねんwwwドローン君が優秀過ぎるわwww』

『俺らもよく頑張って耐えたwwwさっきから新ちゃんの視線が45度下やったもんwww』

『万乳引力やな』

『そういや、新ちゃんの好みって巨乳で綺麗な25歳くらいのお姉さんだったな。ホイホイしてたしwww』

『まさかとは思うけど、写真集の銀色の風シルフ様じゃなくて、金剛姫をガン見していたんじゃ…?』

『それはないやろ』


とりあえず俺と金剛姫さんが後ろに乗り、銀蜘蛛さんという方が車を運転した。とても便利でいちいち感動してしまった。


━━━


━━



「お、おおお!凄い!」


初めて東京という場所に来たが、とても凄い。それ以外に言葉が出てこなかった。


『田舎者らしくていいなwww』

『可愛いwww』

『窓に顔をくっつけてるwww』

『純粋だからおっさんでも可愛いよなwww』

『純粋すぎるが故に被害者も出てるがな』


とにかくでっけぇ、人が多い。後、画面の中で人が動いている。なんじゃこりゃあ。


「新さんは、都会は初めてですか?」プルン


「あ、はい。村で30年間生きてきたもので…」


銀蜘蛛さんが連れてきてくれたのはめっちゃでっかいビルという建物の目の前だった。あまりにもデカすぎて俺の眼はずっと一点を見つめていた。


おれはとんでもないところに来てしまったのかもしれない。


『ずッと金剛姫のおっぱいしか見てねぇじゃねぇかwww』

『都会よりも谷間かwww』

『ここまで新ちゃんが性的になるって珍しいな』

『それな。夕霧さんのナイスバディでも、クルーシャ様の媚媚にも全く反応しないのに…』

『何か基準があるのかな?』

『分からんけど、気になるな』


「なっ!?どうして貴方がここに!?」


「それにその格好は、銀色の女神アフロディー・ドレス!?なぜダンジョンでもないのにそのような恰好をしていらっしゃるのですか!?」


「ん?」


後ろで銀蜘蛛さんと金剛姫さんの声が聞こえてきたので振り返る。


「お待ちしておりました。山口新也さん、いえ、新ちゃん様の方がよろしいですか?」


ダンジョン協会の階段の上からレッドカーペットを下ってくる女性がいた。


『うえええええ!?美しすぎいいいい!?』

『うわわわあああああもう目が焼かれるぅ!』

『すげええええ!マジで銀色の風シルフ様じゃん!』

『うわ!スクショ連打や!』

『生銀色の風シルフさまあああああああ!』

『アカン、俺死んじゃうかも…』

『新ちゃん、かわってええええええ』


黒い仮面をかぶっているが、それを余りあるほどのとてつもない美女だった。美というのはこの人のためにあるのだろう。そして、銀色のドレスはまるで誰かとの結婚を暗示しているようなそんな気分にさせられた。


「緊張なさっているのですか?」


「ああ、いえ、そういうわけじゃないんですが…」


「ふふ、私たちの間に遠慮などいりませんよ」


ふふと言って俺に言ってくる。甘く美しぃ声が俺の思考にノイズをかける。ただ、不快感はない。俺は思っていることをそのまま吐き出した。


「じゃあ、お言葉に甘えて






何してるの、沙雪?」


「え?」

━━━


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