第7話 情熱

 楓を思い出してから約一ヵ月が経っていた。私の楓熱かえでねつは全く醒めることなく、絶好調だ。毎日楓の歌を聴いていた。


 中学生の頃は、歌の詩の意味なんていちいち考えないで自然と丸暗記していたけど、よく読み込んでみるとすごく良い詩だった。


 その詩に込められた意味は、それなりに歳を重ねてきた今でこそわかるけど、若い頃の自分にはきっと理解できなかっただろうと思った。


 楓だって、人間だから未熟な部分はあったと思う。でも、感性豊かな彼はある意味で若い頃から完成されているかのような印象を感じる。あの年齢でよくここまで深く内面に深く切り込むような詩を書くことができるものかと思う。


 あの時の私が楓から離れてしまったのも、何となくわかる気がした。楓は一人でどんどん先へ先へと進んで行ってしまったから、私は追いつけなくて、理解できなくて、自然とフェイドアウトしてしまった気がした。


 楓はある意味時代の先を行き過ぎていたように思う。


 作る側は、自分の表現したいものを作ると同時に、ファンやみんなに求められている楽曲を作るということもするのだろう。


 そのようなモノ作りする人の葛藤は、一般人の私には関係のない領域だし、だからこそ私の勝手な推測にすぎないけれど、私は思った。


 どちらかと言えば、楓は皆に求められる歌を作るというより、自分の表現を追求する人だったのだろうな。


 そんな楓の自分の表現を大切にする姿勢や、一緒懸命でひたむきな姿を感じて、私はもっともっと楓が好きになった。





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