14・シルバー級にならないといけないのか!?

第37話 コゲタの身の振り方

 若き冒険者たちを救い出し、無事に帰還させた俺とバンキン。

 ギルドの覚えは大変良くなり、ギルマスじきじきにお褒めの言葉をもらった。

 まあ腹の足しにはならんがね。


 あ、報酬が少ない代わりに、中くらいの食堂の食事券をもらったのだった。

 腹の足しにはなった。


 コゲタを連れて行ったら、外の席を案内された。

 テラス席というやつで、犬同伴はこっちなのな。

 で、僕の食券でコゲタの分の骨付き肉まで出してくれたから、良い食堂だと思う。


「コゲタ、漬物も食べなさい」


「におい強い、きらい」


「好き嫌いはいけません」


「きゅーん」


 まあ漬物は辛かろうということで、炒めた野菜などを別料金で出してもらった。


「お客さんの従者? 大事にしてるねえ」


「犬は大事にすることにしてるんですよ」


 むしゃむしゃと肉と野菜を食べるコゲタ。

 パンなども与えると、もりもり食べた。

 よーしよし。


 食べきって、皿をペロペロ舐めているな。

 犬だ。


 僕もさっさとパンとスープとソーセージなどを食べきった。

 いやあ……美味い。


「ご主人。コゲタ、たくさん食べた」


「おっおっ、美味かったか。それは良かった」


 腹ごしらえを済ませたら、コゲタが居着くことができる場所を探さねばならない。

 どうしたもんかな。

 コボルドは共生可能な種族だが、文化とか知力とか的に人間社会に溶け込む……とはいかない。


 やれて肉体労働だな。

 かなり賢い犬くらいに考えておいた方がいい。


 そうなると、労働者が必要なのは商業地区だろうか。

 コゲタを連れ、下町を抜けていく。

 コボルドが仕事をしていそうなところは……。


「ああ、料理の配達を頼んでるよ。配達先のにおいを覚えたら必ずそこまで行くし、こぼれないタイプの料理なら安心だし、足は速いし」


 料理配達業か!

 いきなり訪れたところが適職だったな……。

 コボルドがキライという人以外には好評なサービスらしい。


 問題は……。


「給料は出してねえなあ。三食食べさせて屋根のあるところで寝かせればそれでいいだろ?」


「まあ、生きていくうえではそうだが……。そこに未来はないなあ」


 僕はちょっと考えてしまった。

 コゲタは基本的に判断を僕に任せるつもりらしく、後ろで大人しくしている。

 舌を出して、ハッハッハッハッ、と体温を逃がしている。


 犬だ。

 ちなみに犬種としては、コゲタは柴犬に近いんじゃないか?

 色々なタイプの犬が混じっているので、雑種だとは思うが。


 よし、ここは見送ろう。

 天職だが、利益率が高くないらしくコボルドのご飯代までしか出せないようだ。


 次だ次。


「ああ、コボルド? 警備の仕事についてもらってるよ。夜に巡回して何かあったら大声で鳴いてもらうんだ。その声で大体気がつくから、他の警備員が駆けつける」


「ほうほう。そしてそのコボルドは?」


「侵入者を勇敢に追いかけたりして、たまに返り討ちにあって殉職するなあ」


「ダメだダメだ」


 確かに天職なんだが、死ぬのはいかんだろう。

 うーん、ままならぬ。


「ご主人、こまっている」


「ああ、僕は困っている。いや、僕は犬に対して過保護なのかも知れない……」


 生前も、犬が死ぬ映画は見てられなかったからな。

 結局、コゲタを連れて帰ってきてしまう僕なのだった。


 冒険者ギルドまでやって来て、いつものギルド酒場でケーキを食べる。

 リップルは当たり前みたいな顔をして同席しており、もう一つの席にコゲタがちょこんと腰掛けている。

 僕とリップルがケーキを食べる様を、コゲタが目を丸くしてじーっと眺めている。


 犬にケーキはよくないからね。

 マスターからナッツ類をもらい、これを食べさせるとしよう。

 コゲタがカリカリとナッツをかじり始めた。


「いっそ君が養ったらいいじゃないか」


「それはそうなんだが、そうなると僕はカッパー級の収入では苦しくなる……。シルバー級に上がらねば」


「上がればいいじゃないか」


「ぐわあああああ負わねばならぬ責任がぐわあああああ」


「そのコボルドを養うのも責任を負うことでは?」


「言われてみれば……」


 僕は今、リップルに説得されつつあるぞ。

 ちょっと腑に落ちないが、だが説得内容そのものは納得しかない。


「……仕方ない。コゲタを養うためにシルバー級になるか……」


 僕は背もたれに体重をかけながら呟いた。

 すると、なんかギルドがザワッとする。


「えっ、ついにナザルがシルバー級に!?」「やっと実力相応だな……」「やれるのにカッパー級でダラダラしてるのはギルドの損失だったもんな」


 なんだなんだ!?

 僕がシルバー級になる程度のことで、何をざわついているんだ。


「ナザルさん、ようやく決心してくれたんですね! ギルドに記録されているあなたの働きからして、シルバー級になっていないとおかしい状態まで来ていましたから!」


 おさげの受付嬢!


「本部の質問をごまかすのも限界が来ていたんです。さあ、さっさとシルバー級に上がってください! 試験? 形式上はありますけどもうシルバー級に上げる処理進めちゃいますね。そのギルドカードを差し出してください。明日にはシルバー級のカードに書き換わってますから」


「あっあっ、はめられた気分だ!! リップルに受付嬢、君たち、仕組んでいたな!?」


「ははは、私はナザルの実力を高く買っているとも……。実力者はちゃんと上に行っておかないと、新人の肩身が狭いだろう……?」


 安楽椅子冒険者が悪い笑みを浮かべた。

 く、くっそー。


 コゲタは一人、状況が理解できず、自分の鼻をぺろりと舐めたりしているのだった。

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