第6話 地獄には段階がある2

 幸い、ツリ目女子のファン達は比較的温厚というか、俺が本気でツリ目女子に興味がない事を分かってくれたらしく、ツリ目女子本人をそっと隔離して何の用だったのかを説明してくれた。

 どうやらあれは、ただでさえ評判の悪い夏毟達が、俺の事をつまらない奴とか雑魚とか吹聴しているのを何かの拍子で聞いたらしい。……そこまで目立つ場所でそういう事を言わない程度の頭はあったと思うんだが、まぁもう1年半もカツアゲは続いてるからな。多少は気も緩むか。

 なおその時ツリ目女子は夏毟達を問いただそうとしたのを、ファン達が何とか引き離して説得したらしい。まず被害者側からも話を聞くべきだと。


「莉緒様、その辺ものすごい不器用だからさ。そこが守らなきゃって思うんだけど」

「……そっか」

「で、津和的には?」

「一番ぐっとくるのは包容力があるお姉さんなんだ」

「いい人と巡り合える事を祈ってる」


 で? と聞かれた時にはかなり正直な趣味を伝える。それがツリ目女子とは掠りもしないかつ本音だと伝わったからか、一瞬浮かんだかなり本気の殺意が霧散した。こっわ。

 ただ間違いなく敵にもならないし自分からツリ目女子に近寄る事はない。俺がそういう分類になったからか、ファン達は俺の話を素直に聞いてくれた。もちろん俺も素直に答える。

 ポケットから硬そうな殻のついた尻尾がひっくり返った状態ではみ出ているから、こいつも「トイ・ダンジョン」の攻略はしているんだろう。だからこそ宝石をカツアゲされている、という話には眉をひそめていた。


「……そんなにか? 警察に行った方がいいぞ」

「ちょっと事情があってな。あんま詳しく言えないけど、まぁその、「全部」片付ける準備に時間かかってんだ」


 全部、の部分でちょっと声を潜めたら、少し考えて顔をしかめるファンの奴。どうやら「他にもいる」事は伝わったようだ。


「親には言ってないのか?」

「それは無い」

「は?」

「あぁいや、家賃とか生活費とか全部込みの1人暮らししてるからさ。色んな意味で遠いんだよ。連絡とろうとして察知されても嫌だし。……何より大人混じりなんだ。言っちゃなんだが丸め込まれやすい性格だから、どっちかっつーと知られたくない」

「あ、あー……」


 あんまりにも即答だったから驚いたみたいだったが、苦い顔で理由を並べると、納得顔になってくれた。大変だな、というのは、声を抑えた呟きだったのか考えが零れたのか。

 うん。親は頼れないし、頼る気はない。更に言うなら詰めるにあたって協力を取り付ける相手を探すのにも時間がかかった。まぁダメな奴らを吊るし上げて、警察とまともな相手にツテが出来たのは良い事だったけど。


「だからつまり、様子見を続けておいて欲しいんだ。正直今のこの話でも何がどう転ぶか分かんねーし」

「これは莉緒様を下げないとどうにもならないな……どう説得するか」

「……。お前らってどういうスタンスで居るの? トイプチ的にはタンクとかの前衛なんだろうけど」

「肉の盾兼お付きだな。近くに居られる奴は限られているし、ちょくちょく立場を巡って決闘が行われてる」


 肉の盾って自分の事を言いきるかよ……いやトイプチの事を言った、違うな。自分も含めて言い切ったな。潔い奴……。


「莉緒様は、お前を自分のギルドに誘う事で守ろうとしたんだよ。その場合問題が増える事にしかならないし、俺も正直敵に回る」

「何て恐ろしい事しようとしてくれてんだ。しかもギルドって、攻略ノルマとかあるやつじゃないのか」

「第一声で恐ろしいと言った辺りもうそれは無いし、俺も一安心だ。攻略ノルマは……まぁ、あるな。それでも社会的立ち位置を考えたら有効な手だと思う」

「精神的安寧が死ぬんだよなぁ……まぁ、じゃあ、別口で既に警察にロックオンされてるって伝えればいいんじゃないか? 準備的に多分そうなる」

「……。そうか、嘘ではないな。そうしよう」


 なるほどこれが追っかけガチ勢。こっわ。近寄らんとこ。

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