穴底を歩く日々

第1話 新生活は地獄で1

 一つまみの土があればどこにでも出現する「トイ・ダンジョン」の中にお宝がある、と知れ渡ってから、7年後。


「……はぁ」


 死ぬ気で頑張って大きな高校の入学試験に合格し、これでもかと家事をこなして楽をさせると見せかけ生活能力があるアピール兼練習を積み、合格発表の確認をしたその足で近場にバイト先を見つけ、意気揚々と一人暮らしの許可をもぎ取ったのが1年と半年ほど前。

 そこから1年、高校デビューだという意気込みは見事空回り、本日も順調にお1人様だ。何故ならイマドキノワカモノっていうのは「トイ・ダンジョン」を攻略し、そこで手に入る卵、そこから孵る手乗りサイズの生き物を連れているのが常識らしいので。

 まぁ俺も「トイ・ダンジョン」の攻略自体はしている。実家にいた時は親の目を盗んでこそこそするしか無かったが、高校に入ってからは大手を振って稼いでやる、と、こちらもこちらでかなり気合を入れていたのだが。


「今日もゴキゲンだな、ヒデ?」

「……」


 舌打ちを辛うじて耐える。帰り支度を終えて、教科書だのなんだのが満載で重たい鞄を持って立ち上がった俺の横に立っているのは、クラスメイト、ではない。自称、親友だ。

 どうやら周りには「仲の良い男友達」に見えるらしい。目ぇ腐ってんのかと思った。なお本当の意味で腐ってる奴もいる。目の輝きが違うから。


「ゴキゲンついでに、今週もくれよ。いいだろ?」

「……中抜きされたのか」

「は?」

「お前に持って行くからっつって、昨日は井野、一昨日は大山が来たし渡したぞ。知らないなら中抜きだな」


 人望ないな、と続けそうになったが、それは飲み込む。ちなみに今日は水曜日であり、これで3日連続で俺の所には「友人が遊びに来ている」事になる。まぁ正直、半年前あたりからこの調子なんだが。

 案の定、にやぁ、と自称親友であるところの夏毟は、控えめに言ってゲスい笑顔を浮かべた。


「きっと自分で欲しいって言えなかったから俺の名前を使っちゃったんだろ。俺は優しいから許してやるけど、俺は貰ってないんだよなぁ」


 だろうな。

 何せこいつら、夏毟、井野、大山がやっているのは、カツアゲだ。「トイ・ダンジョン」からは宝石が出てくる。もちろん一番奥まで探索しなきゃいけないんだが、こいつらの連れてるトイプチ……卵から孵った生き物はだらけ切ってトロくさい。探索は無理だ。

 一時はすさまじい値段がついていた宝石だが、ここまでぽんぽんと出てくると価値も下がる。だから今は、直径5㎝のダイヤモンドでも商業的価値しかないって事で、良くて数万円にしかならない。

 それでも、毎週タダで手に入るなら良い小遣いになるんだろう。ちなみに俺がこのカツアゲを断った場合、通学手段である自転車を壊される。壊された。バイト代を貯めて買った良いやつだったのに。


「なー? ヒデは優しいから恵んでくれるよなー?」


 トイプチもいない俺にタカるな。と反論したいのをこらえる。こいつら、他の奴だったが、火炎瓶を部屋に放り込んだって前科があるからな。その被害者はトイプチが火を吐けるやつだったから、自責って事になっていた。泣き寝入りだ。

 そして鞄から小さい紙袋を取り出して机に置く。夏毟は、それこそ目にもとまらぬ速さでそれを掠め取っていった。そういうとこだぞ。紙袋の底に切れ目を入れておいてやろうか。破れて中身が飛んでいくように。


「だーい好きだぜ、ヒデ! これからもよろしくな!」


 そしてそのまま、もう用は無いとばかりに走り去っていく夏毟。あぁ、口が臭かった。そんな状態で窓際の席に閉じ込められているんだから、割と地獄だ。

 ……入学して割とすぐ、親切そうな顔で近づいてきた時に、素直に「友達だ!」って喜んだ俺よ。トイプチの様子と周りの反応を見て、少しは察して欲しかった。

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