第16話 あの料理を、超えるために

「楽しい──みんなで一緒に食べる──いいアイデアですね」


 賛同するコルル。そうだ、確かにおいしく作る技術も大切だしなくてはならないものだ。

 でも、これだけじゃレイノーには届かない。勝てる気がしない。


 それを、少しでも補ってレイノーよりも素晴らしい時間を提供するため、知恵を絞ることだって大事だ。


「でも、それだけじゃあレイノーを越えられるとは思えないわ。あれを超える、少なくともためを張れるものじゃないといけないわ。もっと、変えないと」


「そうよね」


 それを達成するには、相当な工夫が必要だ。最高の味を出すことはもちろん、それだけじゃくって、もっと別のものが必要だ。


「最高の味……味だけ……じゃなくって」


「味だけじゃ──」


 コルルの言葉に、頭の中でピコーンときた。

 そうよ! おいしさは──味だけじゃない。皆でいる楽しさ。雰囲気、香り──。

 技術が足りない分、別のもので補えばいいのよ!


 そして、今まで行ってきた経験を思い出して、今の自分に出来そうなことをする。それが一番だと思う。


 私ができることで、レイノーに勝てそうなこと──勝てなさそうなら補って……。


 補う……補う?? そうだ。その言葉で、いくつかのひらめきが脳裏をよぎった。



 発想そのものの転換。心から最高の空間を味わってもらうために必要なこと。これならいけるかもしれない。

 同じ技術勝負で勝つ必要なんてない。技術だけじゃない──発想そのものを変えればいいんだ。


 そして、そのアイデアを2人に話してみる。突拍子もないアイデアで、2人がどう反応するか不安だったが──。


「それ、本当にいいアイデアですね」


「ちょっと手間だけどやってみましょう」



 2人は喜んで賛同してくれた。そして、私たちはすぐに準備に取り掛かる。


 果物の中から──この辺りでとれる特殊なレモンにオレンジ、リンゴなど甘酸っぱい系の味と香りを持つ果物を取り出す。

 果物の中で食べられそうな部分はそのまま出すとして──皮や乾燥させて加工する分を出していく。そして厨房、3人で段取りについて話し合った。


「このやり方なら、いけると思います」


「わかったわ」


 このやり方にはちょっと仕掛けがいるし、あんまり大がかりすぎると周囲から言われちゃうから気を付けないと──。


 果物をいくつか取り出し、例の仕掛けを施す。待ってて、

 とある方法で香りをつける方法。その間にヒータがスターゲイジーパイの準備に取り掛かる。


 私とコルルは、味付けに使う調味料──塩や香辛料などに細工を施す。

 さっきの果物やその皮──それを使って塩をスモークにかける。香りをつけるだけでも違うはず。あまり見せたくない、秘密の調理法だ。本番でも、うまくいくといいな。


 そして、香りをつけた調味料で味付けして完成。

 スターゲイジーパイ──乗せ方や形も少しでも良くなるようにと、工夫して──。


 試しにクンクンと香りをかいでみた。いい匂いだといいな……。


「うん、いい香りじゃない。大成功よ!!」


 思わずハイタッチ。

 喜んで手をパチンとたたきあった後、3人で抱き合う。


「これなら、いけるかもしれませんね」


「そうね。勝てるかわからないけど、全力で当たりましょう」


 これで行くしかない。気が付けば夜もかなり遅くなっている。

 試食して、おいしさを確認してから場所を片付ける。もし別の奴に調理法がばれたら大変だからだ。


 そして、ようやく就寝。夜遅かったせいで、ほとんど眠ることができなかった。

 翌朝、大きなあくびをして起きた。やっぱり眠い。


「ほら、おきましょ。頑張らなきゃ──今日本番でしょ」


「そうね……」


 ヒータが目をこするながら話しかける。そうだ、今日のために夜中まで頑張ったんだもん。

 何とか起き上がって、コーヒーとパンの朝食を食べた。


 すぐに下ごしらえに入る。仕掛けが必要な料理で、客人を余計に待たせるわけにはいかないからだ。

 必要なことを終えて、集合のロビーへ移動。ちょうどカビール家の人たちが図書館の訪問を終えて宮殿に戻ってきたところだった。


 一緒にいたレイノーが、私たちと目を合わすなりにやりと笑みを浮かべた。


「逃げださなかったことだけは褒めてやるよ! さあ、まともな料理が作れるのかねぇ」


「それはこの後わかりますよ」


 挑発にのらず、冷静に言葉を返すコルル。さすがだ、

 そして、ヒータとコルルに視線を向けると2人ともコクリとうなづいた。


「じゃあ、準備行ってきます」


「言ってくるわアスキス。あなたも、しっかりもてなしなさいよ」


 2人が厨房へと移動を始めた。それを見てレイノーが話しかける。


「お前はいかなくていいのかよ」


「時間がかかるから、この人たちを野放しにするわけにはいかないでしょ」


 ウィンクをしてから、話を始めた。レイノーは用事があるらしくどこかに行ってしまう。


「砂漠の国ね? すごい興味ある、教えてくれない?」


 ナサルが私の話にのってくれた。部族の首長主体の政治体制であること、ラクダという、背中にこぶがある、独特の生き物に乗って砂漠を渡るらしい。厳しそうな環境ね。


 でも、何もない砂漠の夜空から見る月はとってもきれいだったとか──。へぇ~~とってもロマンチックね。

 さらに食文化、ゲバブや羊の肉についても話を聞いてみる。それに胡椒など保存の利かせる香辛料などを入れて召し上がるらしい。とってもおいしそう。


 出来上がるのはまだ時間がかかるので、いろいろと会話を楽しむ。

 女性や子供たちも会話に入れて、地元の文化のことや遊びのこと。そんなことをしているうちに、あっという間に時間がたってしまった。


 そして、コルルがやってきた。


「もうすぐ料理ができます」




☆   ☆   ☆


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