プロクリシィ・ディバイン ~魔術師は人ではなく、人もまた魔術師ではない。~

狂酔 文架

序章 緋月のマーニ

プロローグ 人になれぬヒト。

『本日で太陽消失から2か月が経ちました。以前としてウラノスの《サテライト》群には機構の変動など、影響は見えません。』


『ですが、やはり問題は地球でしょうね…、《ウィザード》達が魔法でなんとかしているようですが、いつまでこの限界状態が持つかもわからないですし…』


『いやいや、それよりね、私たちはこの太陽消失によりさらに活発化した魔法しようによる宇宙への魔力漏出を危惧すべきだと…』


 静かなコックピットの中、無重力に浮かされ小型のラジオがぷかぷかと浮かぶ、聞こえるのは男3人のニュース番組。

 が、それが進むと、この機体に乗る搭乗者ダイバーはそれを少し嫌気の指した顔で切る。


 少し乱暴な手つきで目の前のコックピットを操作すると、液晶に文字が浮かぶ。



〈if you need to release the save mode,just hit your panel again……〉

〈started the imaginary system. Welcome to the magical world……〉

〈You are now a wizard.〉


 一人の青年の目前にある液晶に、映し出された文字、それを少し嫌悪するような眼で眺めながら青年は言葉を吐く。


「俺は、俺たちは、人間だ。」


 強く握られたアームハンドルが軋む。

 そんなことは気にせず、怒りをぶつけるように青年は強く握り続ける。

 自らを人と呼びながら、そうでないことを理解し、それに葛藤するように、青年ジグルゼ・ジークフリートは、ただ強く、ハンドルを握りしめ、自らが駆る機体を乗りこなす。


 これは一人の少年と、一匹の竜の、人と《ウィザード》の、すれ違いの物語。


                *


 絶え間なく広がっているはずの宇宙、そのどこかで、青年は自らを戦いの中に押しむ。

 《対虚獣用魔法戦闘兵器ステア》、青年はそう呼ばれる黒い人型の機体に乗り込み、虚獣と呼ばれる人類の敵から”人間”を守っていた。


「《空間魔法 魔法監獄マジック・プリズン

  攻撃魔法 無差別攻撃ディスクリミネーション》」


 その一言ともに、少年の周囲に魔力で作られた監獄が完成する。

 捕まるわ獣、身体を黒く染め、異形を成す獣、名を虚獣。


 その敵たちを魔法の監獄に閉じ込め、青年は次の一手を機体からあふれされる。

無差別の名の通りに現れたのは、炎、水、土、風、生半可に形を成したがそれらが、勢いをもって虚獣の体を引き裂く。数秒で一帯の小さな虚獣はいなくなる。


『さすがマホウツカイだね、これで僕らも気兼ねなく出撃できる。』


『よし、ファーフナー隊、出撃だ』


 通信に鳴り響く二人の男の声、それと同時に、虚獣の一掃された宇宙に9機の《ステア》が降り立つ。


「ファフニールさん、ステージ1殲滅、完了しました」

 

『よくやった、ではこれより残党の殲滅に移る。ステージ2以上と想定しとけ、ジグルゼも魔法を試したいなら一発だけにしとけよ』

 

 厳格な声、が、どこか調子よさそうに言葉を放つ通信の主は、ファーフナー・ファフニール、ファーフナー隊の隊長である。


 その隊長が、ジグルゼに魔法使用の許可を出すと、ジグルゼは機体のスラスターを一気に吹かし、次の獣のもとへと飛んでいく。


 「魔法展開します!!離れてください!!

 《空間魔法 鏡獄ミラー・プリズン

 雷魔法 轟雷ロア・サンダー


 ジグルゼの放つ一言ともに、自らの敵を穿つべく展開された魔法陣から雷撃が放たれる。

 それと同時に展開された次なる監獄が作り出される。

 さきほどのモノよりは小さく、獣1体を封じ込めるそれは、文字のごとく監獄の中で放たれた轟雷を反射させる。


 虚獣の体にあたり、反射し、当たり、貫く。それを繰り返し煙を発しながらその成果を上げる、はずだった。


「やったか!?」

 

 自分が放った雷撃に目を輝かせていると、簡単にその輝きは崩される。

 放った雷撃の中、少しの間煙で見えなくなっていた敵の姿がまたあらわになる。


 黒い肉体に、青い血管、むき出しのそれは明らかに回復したということをジグルゼに悟らせる。


「二次状態…《ビースト》か、やっぱり実用には鏡の持続時間…か」


 ジグルゼが自らの魔法の問題点を考えていると、こちらを見つけた獣が口を大きく開けてジグルゼの方をにらみつける。


 むき出しの歯、明らかに食事ではなく壊すためにつくられたそれを大きく開け、ジグルゼが放った魔法を真似るように獣は魔法を構成させる。


『これで何回目だぁジグルゼ、ったく世話がわけるっつーの』



 通信越しにファフニールが少し煽りながら、そういって獣から放たれようとする方向を銃で打ち抜くと、すぐに別の獣へと向かう。


 煽られたジグルゼは自らの強さを見せつけるように腰についていた剣を手に握り、魔法を自らに纏わせる。

 

 ファフニールが撃った弾丸で少しよろけた虚獣が次の攻撃を始める前に、ジグルゼは機体を走らせる。


「魔法展開

 《魔術装甲・青》

 《魔剣装甲・雷》」


 その一言ともに、

 ジグルゼのの乗り込む黒色の機体は青く輝き、握られた剣は雷を纏う。


「これが”人間”の力だぁぁぁぁ!!」


 自らが相手取る獣、虚獣と呼ばれる彼らに、それが聞こえているのかはわからない。が、少年は自らに言い聞かせるように、そう強く叫びながら、背中と腰のスラスターを最大出力で加速させる。


 1秒もかからぬ間に、100メートル以上離れていた距離を詰め、その勢いを殺さぬまま、ジグルゼは握った剣で虚獣の体を切り裂く。


『よくやった!!こっちも片付く、先に船に戻っておけ』


 黒い機体を青い返り血で染めながら、ジグルゼはファフニールの通信を聞くと、少し嬉しそうに後ろに構える船に戻っていった。



「にしても、お前はそんなに魔法で戦いたいか?ジグルゼ」

 

 ジグルゼ、ファフニール、それ以外にも数多の人間が乗り込み、虚獣と戦う機体が並ぶ格納庫の中、さっきまでの通信とは違い、優しい雰囲気でファフニールがジグルゼに問いかける。


「やっぱり、俺たち《ウィザード》が人間として認められるには、俺たちだけが使える魔法を見せつけるべきだと思うんです」


「”人間”か…ジグルゼ、俺たちはやっぱり、どこまで行っても《ウィザード》だ、”人間”じゃない。200年、俺たちが生まれる前から、それはもう決まってることなんだ」


 ”人間”じゃない、少し悔しそうにファフニールがそういうと、ジグルゼは拳を強く握りしめ、言葉を放つ。


「でも、俺たちも”人間”じゃないですか!!、外見だって!!心だって!!なのに何が違うんですか!!」


 ”人間”、ジグルゼがそれに固執する理由は、200年前にさかのぼる。

 

 200年前、地球で起きた魔力災害と呼ばれる膨大な魔力爆発事故、これにより、”人間”二つに分かれた。


 魔力に適応し、魔力を扱えるようになったもの、《ウィザード》、魔力に適応できず、魔力を扱えないもの《人間》。


 同時期に行われていた人口居住用衛星 《サテライト》移住計画のこともあり、”人間”の生き残りは多かった。が、しかし地球に残されたままだった”人間”は、あまりにも悲惨な状態だった。


 魔力に適応できず、魔力に犯され自我を失い、魔人と化した者、魔力に膨大で乱雑な情報に耐え切れず、消滅した者、魔力に犯された世界に殺された者。地球は魔力に犯され、《ウィザード》はその生き残りだった。

 

 そうなれば、《ウィザード》という存在が何も知らない《サテライト》の”人間”からすれば、魔人と変わらない存在となることは、そう難しくなかった。

 

 そこに上乗せされるようにある事実は、《サテライト》と地球の格差である。

《サテライト》、第二の地球として地球の山などを削って作られたその完璧な世界は、当然移住に膨大な費用が掛かる。ならば、地球と《サテライト》の間に格差が生まれ、貧乏人が《ウィザード》になっても、金持ちの《サテライト》は、ただ排他するだけなのである。


 そんな、排他の歴史の中、洗浄で戦う青年は魔力を使い、”人間”を守ることで、”人間”になりたい、そうして認められたい。そういう幻想をいだくのも、仕方ないことなのである。

 が、現実はそこまで簡単ではない。


「200年前、俺たちの祖先は、”人間”じゃなくなった。その時点で俺たちはもうどうしようもなく《ウィザード》なんだ、魔力がなければ生きていけず、魔力の中でしか自我を保てないそれが《ウィザード》で」


 寂しそうにファフニールは言葉を続ける。


「魔力があれば生きていけず、魔力があれば自我を保てないこれが”人間”だ、生き方どころか生きる環境まで違うんだ、俺たちが人間になるにはもう、遅すぎるんだ」


 そういって言葉を吐くファフニール自身も、自らが吐く事実に悔しそうに拳を握りしめる。

 200年間途絶えることなく作られた《ウィザード》が排他される世界は、そう簡単に覆るものじゃない、その事実を《ウィザード》として実感するジグルゼも、ファフニールの悔しそうな表情に、勢いを失っていた。


「でも、俺たちにはこいつがある。《対虚獣用魔法戦闘兵器ステア》、こいつらは俺たち《ウィザード》にしか乗り込めねぇ、要するに、俺たちにしか!!”人間”は守れねぇ」


「こいつを乗りこなしてよ、”人間”を守りまくって俺たちは、虐げられる《ウィザード》から、認められて、誇れる《ウィザード》になるんだ。今だって少しずつ、その兆しは見えてる。だからよ、ジグルゼ、俺たちは《ウィザード》だ。それを誇ろうぜ、せめて俺たちだけでも」

 

 《ウィザード》が人を守り、人は《ウィザード》に守られる。虚獣住み着くこの世界で、対抗する力をもたぬ”人間”と対抗する力を持つ《ウィザード》でくみ上げられた世界の形は変わらないとジグルゼは思っていた。


 そんな世界の形、一度空いてしまった溝は、些細な出来事で大きく引き裂かれ、世界など簡単に歪むことを、ジグルゼはまだ知らなかった。少なくとも、”人間”に触れるまでは。


 


 


 




 





 


 



 


 


 

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