高校一年生~4月~

1.入学式へ

「イノセ! 行くぞ!」


「わ! やったな!」


「ぐはっ!」


俺は幼稚園の頃の懐かしい夢を見ていた。夢の中で俺は公園で泥団子を作り、友達のイノセと泥団子合戦という遊びをしていた。イノセは俺よりも運動神経が良く、俺へ的確に泥団子を投げてきた。そして俺達は服が泥だらけになるまで遊んだ。


「流石にこのまま帰るのはママに怒られるかな・・・」


「そうだね、武尊君。流石に身体の泥だけでも落としたいなぁ」


幼稚園の頃の俺は遊びに夢中になっており、その後のことなど考えていなかった。そのため、良く母さんに怒られていた記憶があった。


「ねぇイノセ! あそこの蛇口の水で一緒に身体を洗おうよ!」


「えっ! そ、それはちょっと・・・」


「いいから行こう!」


幼稚園の俺はイノセを引っ張って公園の隅にある水遊びする場所へと向かっていった。水遊び場に着いた俺はそのまま泥の着いた服を脱ぎ捨てて裸になった。公園で裸になるのは行けないが、幼稚園の頃ならノーカンだろう。


「ね、ねぇ武尊君。隠してよぅ・・・」


「え! なんでだよ。男同士なら問題ないだろ。お前も脱げよ!」


「ちょ、ちょっと!」


俺は嫌がるイノセを無理やり脱がした。この時、俺はテンションが上がって見落としていた。イノセのパンツがおかしいことに。


「イェーイ! スッポンポン!・・・えっ」


「み、見ないでぇ」


イノセの服を脱がして初めて気付いた。イノセは女の子だった。その後、俺達は無言で背中合わせになり、身体を洗った。


(幼稚園と保育園っていう違いがあって、公園でしか遊んでいなかったからなぁ)


俺は夢の中で思い出に浸る。その後俺はイノセと遊びづらくなったが、イノセは変わらず接してくれた。そしてイノセは小学校に上る前に引っ越してしまった。


■■


目覚ましが鳴り、俺はハッと目を覚ました。俺はすぐに身体を起こして、洗面所に向かうために部屋を出た。


(今日から高校生・・・。でも何かが急に変わることなんてないな)


鏡に写っているのはtheモブの見た目、普通の顔に、普通の髪型。身長も170cmと平均。あだ名も最上武尊からモブと言われている。まさに名が体を現していた。俺は朝食を食べるためにリビングに向かった。


「ほらっ武尊! 今日から高校生でしょ! しゃきっとしなさい!」


母親から怒られてしまった。俺はさっさと朝食を食べて部屋に戻り、ブレザーに着替えた。中学の学生服とは異なり、ちょっと大人になった気がした。


(高校かぁ。アニメとかだと恋愛イベントとかが目白押しだけど、俺はないな。それよりもアニメとかの会話出来る人いるかな)


俺は自他共に認める二次元愛好家だった。最新のアニメや漫画は必ずチェックし、今期のベスト・オブ・嫁を考えるほど好きであった。


俺は玄関に行き、家を出た。新入生は早めに登校するように言われており、保護者は後の方で来いと言われていた。俺の通う私立・晴夢はれむ大学付属晴夢学園高等学校は自転車で10分くらいのところにあり、晴夢学園の通学路に出ると俺と同じ制服を来た人がたくさん歩いていた。本当は家から徒歩5分の公立高校に行きたかったのだが、入試の時、マークシートを全て1個ずらすという所業をしたせいで落ちてしまった。


「おっす! モブ!」


「なんだ、隆明か」


俺の背中を叩いて挨拶したのは中学からの友達である小塚隆明こずかたかあきだった。俺と同じくモブらしい見た目をしている俺の友達だ。もちろんこいつも二次元愛好家だった。


「なぁ隆明、なんで晴夢学園に来たんだ? お前って確か公立のぼん高校受かっていたよな?」


「なにを言うか! せっかく元女子校の晴夢学園に受かったんだ、行くに決まっているだろう! それにハーレム法案の通りそうだし、俺はこの学園でハーレムを築いてウハウハな人生を歩むぞ!」


結局日本は一夫多妻制、通称ハーレム法が設立しそうであった。世界にはすでに一夫多妻制を導入している国もあるため、割とすんなり通った。俺はこの出来事が、神社のあの爺さんが世界を改変したせいだと考えていた。しかしそんな事は口が裂けても言えないし、信じてもらえないと思っていた。


「ていうか、お前! 三次元に浮気するのかよ!」


「お前なぁ、俺達もう高校生だぞ! 二次元もいいけど、彼女の一人や二人作って童貞捨てないとな! 俺は大人の階段を登るぞ!」


隆明は真剣な眼差しで俺にそう伝えた。隆明の言っていることも俺は分かる。普通の男子高校生ならそれを目的として学生生活を送っているものが大半だろう。俺だって出来るならそうしたい。だけど現実は難しい。彼女を作れるのはイケメンか運動部で活躍している人くらいだ。俺は無理だと思っていた。


「隆明・・・。分かった、俺はお前を応援するよ! 俺の分まで彼女を作って、楽しんでくれ! 」


俺と隆明は道で熱く握手をした。俺は隆明に自分の夢を託した。こいつになら俺は託せると思ったからだ。


「二人してなに道の真ん中で握手してんの?」


「おはよう! 武樽!」


俺と隆明が熱く手を合わせているところに水を差す声が聴こえた。振り向くとそこには美少女達がいた。肩に毛先がつかない程度のボブヘアでモデルのようにスタイルの良い女子とツインテールの髪型が良く似合うロリ風の女子、いわゆるロリ巨乳美少女がいた。


「なんだ、青依あおい美緑みのりか。俺は今、隆明に夢を託しているところなんだ。邪魔しないでもらえないか?」


「武尊、どうせくだらないことなんでしょ? それよりさっさと行かないと入学式に遅刻するよ」


「青依の言うとおりだよ。こんなところでそんな話ししていないでさっさと行かないとダメだよ!」


「へいへい」


俺に話しかけてきたボブヘアの美少女は乙花青依おとはなあおい、ロリ巨乳の美少女が柏谷美緑かしわたにみのりであった。二人と俺は小学校一年生から中学三年生まで奇跡的に同じクラスだったという奇妙な縁があった。また二人共見た目が芸能人レベルであるため男子にとても人気があった。そんな二人がなぜ俺と仲良くしてくれるのかは疑問だが、二人に嫌われないように俺は割と頑張って過ごしていた。ちなみに俺は二人を完全女子として意識している。しかしそれを感づかれれば関係が終わるので興味ないふりをしている。ただし、隆明にはバレバレだったが。


「じゃあ、私達先に行っているから」


「またね、武尊」


二人は俺に話しかけた後、隆明と俺を置いて先に晴夢高校へと向かっていった。通学路の先にはちょくちょく男子高校生がいるのだが、二人が通るとみんな見ているようだった。


(そりゃ、見るよな・・・あの二人美少女だし)


「・・・」


「どうした、隆明?」


「お前も大変だな」


「・・・そうだな」


隆明は俺の肩を叩いて同情してくれた。俺は青依と美緑を呆然と見ていた。俺は本音をいうと付き合いたい。可能なら二人と付き合いたい。でもどちらかに告白すればもう元には戻れない。俺は二人を恋愛対象として見ていない素振りをするしかなかった。


「モブはヤンキーに二人の連絡先を訊かれて殴られた時も二人を守ったもんな。俺はお前を尊敬しているぞ」


俺は中学時代よくヤンキーに絡まれて殴られたりしていた。見ず知らずの女子生徒を守ったこともあったし、あの二人の連絡先を知っているからという理由でヤンキーに殴られたときもあった。その時俺は二人に変な輩がつかないように死んでも教えなかったことがあった。


「・・・俺はアニメとか漫画とか二次元が好きだからな。三次元は捨てて二次元に生きるよ」


「そうか! やっぱり俺はお前と友達で良かったよ!」


俺と隆明はその後も談笑しながら入学式に向かった。

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