第18話 仲間と遠島恵理子


俺は遠島を見る。

遠島は俯きながら涙を浮かべていた。

彼女も根本は女性だ。

だから何だって話だが。

だけど彼女は必死に罪を償おうとしている。


それは果てない大地を歩いていた彼女がようやっと見つけたものだ。

罪を必死に償っている彼女。

俺は...彼女を応援する必要性があるだろう。

そう思える。


「...私はもう裏切りをしない」

「...」

「あの毒親から解放されて私は...私の脳みそは正常にバラバラだったけど正常に戻りつつある」

「...金銭面も全てをはく奪されていたしな」

「そう。...私は全てがおかしかった」

「...」

「これからは人に迷惑を掛けず。まっとうに生きたい」


俺はそういう決断をした遠島を見る。

遠島は涙を拭いながら顔を上げた。

その姿を見ながら居ると美里が「ねえ。遠島」と声を発した。

俺は美里を見る。


「...何。坂本美里」

「私、貴方を恵理子って呼んでいい?」

「...は?!」

「貴方もその本名呼ぶの止めて。...それしんどいでしょ?」

「...じゃあ私は貴方を何で呼べば」

「普通に美里って呼びなよ」


すると遠島は「...」と数秒間考えてから「分かった」と返事をした。

それから息を吸い込んでから「美里」と言う。

美里は「うん」と笑みを浮かべた。

そして「じゃあ恵理子で」とニコニコした。


「...でもこれは何だか違和感が...」

「そりゃそうでしょう。私だって違和感があるんだから」

「...」

「...慣れるまで辛抱だよ」


そしてニコッとする美里。

俺はその顔を見ながら「なあ。遠島」と尋ねる。

すると遠島はビクッとしながら「な、何」と返事をする。

そんな顔に「俺もお前を昔みたいに呼んで良いか」と聞く。

恵理子は「...い、良いけど。何で?」と俺達を見比べる。


「...私はそんなに良い人じゃ無い」

「お前は良い人じゃ無いのかもしれないけど。だけど俺はそうは思わない」


それから俺はインターフォンが鳴る音を聞く。

そして立ち上がって玄関を開ける。

雄一と春香が居た。


「...ちょ、ちょっと待って。何をしているの?貴方?」

「...見ての通り。俺の友人を呼んだ。...っていうか来るのがまあ俺達だけとは一言も言ってない」

「...そんなの...」

「俺は...今のお前ならって思う」


そして玄関から上がる雄一と春香。

2人はおずおずになっている恵理子を見る。

その顔に複雑な面持ちをしていたがやがて笑みを浮かべる。


「遅れた。すまない」

「ぱーてぃーだよ!!!!!」


恵理子は唖然としながら俺を見てくる。

「だけど私は」という感じで呟きながら、だ。

するとその中でいきなり春香が恵理子の手を握る。

「遠島さん。ぱーてぃーしても良い?」と笑顔で言う。


「べ、別に構わないけど...でも私の家でやっても楽しくないでしょ」

「私は丁度この家がベストだって思う」

「俺もそう思うぜ」


そして恵理子を見る俺達。

恵理子は唖然としていたがやがて涙を浮かべた。

それから号泣し始める。

「そうか。これが...人との繋がりを構築する事か」と言いながら。


「...恵理子。...お前は全てを失ってきた。だからこそ今度は失ったものを構築するんだ。お前の手と俺達の手で」

「私、遠島さんと友人になりたい」

「どうせここまで来たんなら俺も親友になりたい」

「...」


恵理子は号泣したままハンカチで目元を拭く。

それから「...はい」と返事をした。

そして笑顔になる。

俺はそんな顔を見ながら柔和になりつつ「良かった」と呟いた。


「...こんな私で良かったら」


すると玄関辺りからごそっと音がした。

俺は「?」を浮かべて玄関の辺りに向かう。

玄関が開いてから誰かが飛び出して行く。

誰だ?


「...なあ。恵理子。...誰か飛び出して行った...」


恵理子は「え?」と反応する。

そうしていると恵理子のスマホに通知が来た様だ。

それから恵理子はそれを見てカァッと顔が赤くなる。

え?、と思いながら居ると恵理子はスマホを「な、何でもない」と閉じてしまった。


「恵理子?どうしたの?」

「何でもない。美里」

「そういえば美里達って遠島さんを恵理子って呼んでいるんだね」

「そうだな」

「じゃあ私も恵理子ちゃんって呼んでいい?」

「...も、もう勝手に呼んでちょうだい」


恵理子は幸せそうな笑みを浮かべる。

俺はその顔を見ながら潤っていく大地を感じる。

潤いに満ち満ちていた。

彼女の顔も。

彼女の心も。


「...で?恵理子。マジに何だったんだ?あれ」

「仕事から帰って来たお姉ちゃんだけど」

「...ああ。そうなのか」

「バタバタ出て行ったのは友人関係の事。(楽しそうね。お友達が来ていて。私の出番は無さそうだし外に出て来るわ)だそう」

「ハハハ。そういう事か。でもお姉さんも呼んだら良いじゃないか」

「そうね」


恵理子は許可を貰って玄関に行って電話を掛ける。

そして2分ぐらいで帰って来た。

「「私も参加して良いなら直ぐ帰る」だそう」と言いながらだ。

俺達は顔を見合わせて「そうか」と返事をした。


「...じゃあ準備すっか」

「そうだな。雄一」

「あ。私こっち片付ける」

「じゃあ私はこっち」


そんな会話をしながら俺達は汚れている箇所を掃除した。

それからお姉さんの帰りを待つ。

3分ぐらいで恵理子のお姉さんはやって来た。

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