第14話 傲慢

私が愚かなのか。

世界が愚かなのか分からないが。

私は疲れていたようだ。


気が付かないうち多く疲れが溜まっていた様だ。

そう姉に言われた。

私はお姉ちゃんを見ながら目の前の温かい食事を食べる。


「...こんなの久々かもしれない。本当に暖かい」

「そうだね。あのクソ親の元じゃ何も食えなかったでしょう」

「...お姉ちゃん」

「...何?恵理子」

「私は愚かかな」

「...生きる為に汚い事をするのは当たり前の事だし。私も汚い真似もした。靴を舐めた。...それは...私が生きる為にどうしても必要だった。世の中裕福な人達ばかりじゃない。だからこそ貴方は愚かじゃないとはっきり言える」


そう言いながらお姉ちゃんは箸を休める。

私はその言葉に涙が浮かんだ。

それから歯を食いしばる。

涙が溢れた。


「...私は...何も認められず。...何も...お金を取られてばっかだった」

「...うん」

「人生が無駄って思えた。...その中で初めて私は暖かさを感じた」

「...そうなんだね」

「私は屑だって思う。...浮気までしてね。ようやっと分かった気がする。全て失ってから愚かだなぁ私」

「...浮気したんだね」

「した。...売春行為もした。...アハハ...アハハ...」


そして涙が大粒の結晶となり落ちる。

するとお姉ちゃんが抱きしめた。

それから頭を撫でてくる。


「落ち着いて。今は落ち着いて。何も考えず。生きよう」

「...彼にも。...彼女にも反省をしなくてはならない」

「...それは今は置いておきましょう。...私は貴方が死ぬ姿を見たくはないから」

「お姉ちゃん...」

「私は貴方を尊敬する。あのクソ一家で耐えたのを」

「...うん」


するとお姉ちゃんはお金を渡してくる。

それは1万円だった。

私は「?」を浮かべてお姉ちゃんを見る。

お姉ちゃんは「それで遊んで来なさい」と笑顔になる。


「だけど私はこれ汚いものに使うかも」

「私の妹。信頼している。貴方はもう大丈夫。...あ。何なら土曜日にショッピングモールに行く?」

「...そうだね。...うん」

「おけおけ。じゃあ...映画でも観ようか」

「...勉強しないと」

「そんなもんどうでも良いよ。...今のあなたに必要なのはお休みだよ」


そして手を広げて後ろに倒れるお姉ちゃん。

汚らしく起き上がってからあぐらをかく。

それから私を見てくる。

私は少年の様なその顔に苦笑しながら「お姉ちゃんらしいね。昔から変わってない」と言った。


「私は変わらずだよ。行儀も悪いしね」

「...そっか」

「うん。...これからは一緒に住もうね」

「...分かった」


私は財布に1万円を直す。

それから財布を胸に当ててそのまま横に置いた。

私は...大丈夫だろうか。

だけど大丈夫だよね。

そう思いながら私は...隆一の事を考えた。



メッセージが来た。

そこにはこう書かれている。

(今まで御免なさい)という感じでだ。

それは...アイツ。

つまり遠島からだった。


(お前がした事は絶対に消せない)

(そうだね)

(消せないが...だけどそれで終わらせるわけにはいかない)

(うん)

(だからこそお前には頑張ってもらいたい。更生も...何もかもを)

(うん。分かっている)


遠島は何か大切なものに気が付いた様だ。

俺はその姿を見ながら顎に手を添える。

それから「ふむ」と納得してから背伸びをした。

スマホを投げてからそのままリビングに向かって行き飲み物を飲む。


「...アイツが変わるんなら。俺も変わらないとな」


そう思いながら俺は飲み物の波面を見る。

そしてそれを飲み干してからそのまま部屋に戻った。

それからメッセージを見る。

遠島からはメッセージが無い。


「アイツなりに反省している、か」


考えながら俺は外を見る。

そしてテレビを点けた。

アニメでも観るか。

そう思いながらアドマンプライムを開いてアニメを観始めた。


そのアニメは今のような状況に似たつまり浮気の話だ。

こういう系を今観るものでは無いと思うけど。

好きな声優さんが出ている。

だからこそ拝見している。


そして俺は2時間アニメを観てからそのまま勉強を始めた。

で。

その日はそのまま寝てしまった。

でそのまま翌日になり母さんに起こされて学校にバタバタ登校した。

するとそんな途中の事だった。



「お前...」

「...隆一」


何故か信号機の近く。

目の前にアイツが。

いや。

俺の高校の制服を着た遠島が居た。

かなりビビりながら「どうした」と聞く。


「...転入する。...私は貴方の学校に」

「またどうして」

「...私は邪魔する訳じゃない。だから安心はしてほしいけど。私が貴方の学校に転入するのは親の都合と私の都合。そして私が世界をもっと大きく見たいって思ったから」

「...そうか」


そして俺は信号待ちを同じ様にする。

すると1分経って歩き出した時。

遠島が「隆一」と呟いた。

俺は「何だ」と聞くと。


「...私は貴方と坂本に最低な真似をしたと思うから。...謝るだけじゃ無理だと思う」

「...そうだな」

「この私の中のシーソーゲームをひっくり返したい。...だから傲慢で申し訳無いけど私を見ていてほしい」

「シーソーゲームってのは」

「...悪も正義もどっちも厭わないシーソーゲームを」

「つまり天秤みたいなものか」

「そう。それをひっくり返したい」

「...」


そして「じゃあ」と去って行く遠島。

俺はその背中に「お前がそう言うなら見ていてやる」と声を強く発する。

背中が一瞬止まる。

そしてまた動き出した。


「...やれやれ」


後頭部に手を添えながらそんな事を呟きながら俺は空を見上げる。

すると背後から「さーくん」と声がした。

俺は「...美里」と言う。


「...見ていたのか」

「そうだね。...どうなるか見ていた」

「聞いての通りだ。...アイツは...まあ変わろうとしているんじゃないのか」

「...まだ信用出来無いけどね。...だけど彼女の思いは何となく分かった」

「...」

「さーくんはどう思うの」

「アイツに任せる。どう転ぼうともアイツは悪人にも善人にでもどっちにでもなれるしな」


そう言いながら俺は遠島の居た方角を見る。

そして美里を見た。

「行くか」と声を掛ける。

美里は「うん」と頷いてくれた。

それから俺達は高校に歩いて通学した。

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