第16話 ここは領地なのよ

 ミーシャにベンチを運転してもらい、島の中を探索していきます。

 ここには、もう少し小さいドラゴン系の魔物も出てきました。

 1mから6mくらいまで様々です。


「鑑定によると、これはアーバンドラゴンね。3mもあるのに、この島では小さく感じるわ。」

「小さくないですよ。それに、羽毛みたいなのに覆われてますし……。」

「これも二足歩行よね。」

「さっきの10mくらいのは四足でしたよ。」

「ああ、草食のブラウンドラゴンね。確かに、頭から尻尾までだと10mくらいあったのかしら。」

「あんなのを、槍の連射で倒すって……、首が千切れとんだのは見ていられませんでした……。」

「ドラゴンなんだから、もっと頑丈だと思うじゃない。」

「だからって、あんなに連射しなくても……。もう、魔法石は十分じゃないですか……。」

「そうね。100匹くらい倒したから、次はミスリルよ。ダンジョンに潜りましょうか。」

「ダ、ダンジョンへも入るんですね……。」

「当然じゃない。ミスリルだって見逃せないもの。」


 ここのダンジョンは、迷宮タイプではなく、広い空洞タイプでした。

 

「ダンジョンの中も、ドラゴン系が多いわね。」

「そうとも言えませんよ。お嬢さまがドラゴン系を狙っているだけで、獣系や虫系の魔物も多いと思います。」

「あっ、ミスリルの……こうなってくると、大岩よね。」

「これを売ったらいくらくらいなのでしょうか?」

「純度にもよるけど、10cmくらいの塊が金貨5枚だから……1万枚は軽く超えそうね。」

「もし、普通の冒険者が発見しても、持ち帰れませんよね。」

「そうね。こんな場所で、手間をかけて切り出すとしたら、相当な人数が必要でしょうし、放置されるかもしれないわね。」

「持ち帰るんですよね。」

「当然でしょ。」


 私はミスリルの大岩を倉庫に収納し、この他にも、5個の大岩を収容して帰路についた。


「今日は大漁だったわ。ミーシャにも特別ボーナスを出さなくっちゃね。」

「はぁ……。」

「あら、嬉しくなさそうね。」

「お金って……貯まっていく一方で、使う機会が少ないんですよね。」

「普通のメイドさんって、どんなことにお金を使うのかしら?」

「そうですね、着るものやアクセサリーの購入。美味しいものを食べたり……。」

「ふうん……。私はあまり興味がないけど……。」

「私も、派手な衣装やアクセサリーには興味がなくて、美味しいものは食べさせていただいていますから……。」

「じゃあ、家でも買ったら?」

「それは、昨年お嬢さまにいただきました。家族も呼んで生活しております。」

「あら、そうでしたの。じゃあ、美味しいスイーツでも……。」

「お嬢さまの考案されたスイーツを毎日のように試食させて頂いてますから、これ以上は……。」

「そう……。どうしたらミーシャに喜んでもらえるのかしら……。」


「私は、お嬢さまの専属メイドとなることを選びました。」

「うん。」

「できれば、お嫁入りの際も同行し、お嬢さまのお子様をお育てし、お嬢さまに看取られて死ぬ。それが望みでございます。」

「駄目だよ。それじゃあ、ミーシャが幸せになっていない。」

「今回のような、無謀と思えることにも同行させていただきます。」

「えっ?」

「お嬢さまとともに在る。それが私の幸せです。」


 ミーシャの覚悟を否定することなどできませんでした。

 

「お嬢さまと共に、平和で皆が笑って暮らせる世界を作るお手伝いができるなら、それで本望です。」

「うん。ありがとう。」


 価値観というのは人それぞれで違う。

 他人がそれを否定することなど、できるはずもない。

 ミーシャが望んでくれるなら、私はそれに全力で応えよう。



 ヒーズルの国にも、冒険者ギルドと商業ギルドが作られている。

 今回の獲物を、それぞれのギルドに持ち込んで、捌いてもらいます。


「じゃあ、魔法石は返却で、それ以外はこちらの買取でよろしいんですね。」

「はい。お願いします。」


 冒険者ギルドへは、ドラゴン以外の魔物を買い取ってもらいます。

 

「肉の半分と魔法石は返却で、それ以外は買取でよろしいんですね。」

「はい、お願いします。」

「これだけのドラゴン系の肉が出回れば、住民も喜ぶでしょう。」

「観光客にも提供できますし、これでまたお客さんが増えますよね。」

「間違いありませんね。これでまた、ヒーズル領は大人気になりますよ。」


 それから、バザールにある肉屋さんにもドラゴン系の魔物を提供する。

 これで、屋台の串焼きにもドラゴン肉が追加されるでしょう。



 発足して一年半のヒーズル領だけど、主要産業は順調に育っています。

 フィッシュポートの漁業は安定した漁獲量を確保し、主に領内での消費と王都への出荷で十分な収益をあげており、領事館周辺では主に魔道具の工房が立ち並び、魔導波乗りボードや魔導コンロの出荷に追われている。

 そしてバザールである。

 ここには、両国から様々な商会が出店しているのだが、商業ギルド直営の素材店なども営業しており、ここでしか入手できない海獣由来の素材なども人気なのです。

 おそらく、数日のうちに、ドラゴン由来の素材が追加され、更に賑わうことでしょう。

 まだ、大型のドラゴンは卸していませんが、あれが加わったら、両国が大騒ぎになるはずです。


 ドラゴンアイランドには、ティアランド王国ヒーズル領の看板と、土魔法で作った仮設小屋を設置してありますが、近いうちに再訪して正規の建物を設置してきましょう。

 他国に占拠されてしまったら、貴重な素材が手に入らなくなってしまいますからね。

 

 建物は、平屋建て石造りの3部屋とリビング・調理室にしました。

 領内で切り出した石材を、現地で積んでいきます。

 四隅に魔法石を埋め込み、侵入防止の結界を張っておけば、あの一番凶悪そうなレックス種も入って来られないでしょう。

 建物の正面にも、国名と所有者名として私の名を刻んでおきます。


 大型のドラゴンは、信じられない高値がつきました。

 魔法石も大きく高品質なものでしたが、皮・肉・骨など、全ての部位が高級素材と評価され、魔法石を除いた買取価格は、金貨2万枚を超えます。


「すごいですね。大型のドラゴンを一匹倒せば、一生暮らせますよ。結構贅沢に暮らしても。」

「だけど、こいつを載せて運べるだけの船をチャーターして、ポーターを雇うとなると、とんでもないお金が必要よね。」

「重力魔法で持ち上げるのはどうでしょうか。」

「陸から300km離れているのよ。最短でも一日必要だわ。」

「そうですよね。というか、そもそもレックスを倒せる人なんていませんよね。」

「ちょっと待って。ミーシャ、私だって人間よ。」

「お嬢様、ご存じですか?」

「何を?」

「3才の女の子が、レックスを前にしたらどうなるかです。」

「し、知ってるわよ。……えっと、その……。そう、どの攻撃が来るのか予測して逃げるのよ!」

「倒そうとしないだけ評価できますが、そんな冷静でいられると思います?」

「……じゃあ、とにかく逃げるのよ!」

「足が竦んで、それどころじゃないでしょうね。多分、おしっこを漏らして、その場に座り込んじゃいますわ。」

「そ、そんなの、レディとして許されないでしょ。」

「レックスを前にしてレディでいられるとしたら、それだけで勇者と称えられるでしょう。人というのはそういうものなんですよ。」

「でも、私は領主の娘よ。」

「存じておりますよ。」

「領民のことを考えなくてはいけないの。」

「ご自分の命よりも?」

「……そうよ!」



【あとがき】

 ゴジラが目の前に現れたら……。

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