第三話 “ロック鳥”

 岩と砂しかない岩石地帯。〈レフ火山〉周辺はずっとこの景色が続く。

 先頭を歩くヴァンスは汗一つかいていないが、他のメンバー……特にルースとセレナの紅二点は汗で服を濡らしていた。


「おいおい、だらしないぞお前ら」

「うっさい……あたし、熱だけはダメなのよ……」


 アドルは「あぁ、そうか」と納得する。


「魔法にも強い剛鉄とはいえ、熱だけは耐性ないんだっけか」

「あの筋肉バカは……竜だから耐性付いてるだろうけど、剛鉄であるあたしや……あとスライムであるルースは溶けちゃうのよ」

「わたし、暑いの別に平気だったのに……〈粘弾液魔喰らいスライムイーター〉になったせいで、あっついの、むりぃ……」


 アドルは「大変そうだな」と呟いて目を逸らし、隣で涼し気に歩くフィルメンの方を向いた。


「お前は平気そうだな。別に耐性があるわけじゃないだろ?」

「適度に風を発生させて涼んでますから。それに……」


 フィルメンはジト―ッと女性陣を見て、小声でアドルに呟く。


「……物は考えようです。見てくださいアドル君、汗で服が透けて透け透けですよ」

「お、お前なぁ……パーティメンバーが苦しんでいる時に、なんてことを考えるんだ!」

 

――と言いつつアドルはチラッと視線を女性陣に戻す。


 ルースとセレナは村でトップツーの美人だ。ルースは白い肌と金色の長髪、柔らかい体つきで妙な抱擁感があり静かな色気がある。

 逆にセレナは黒髪ポニーテールで筋肉質、しかしそれが逆に女性らしい部分を強調する。露出度の高い恰好とキツい目つきが村の変態たちを誘惑するのだ。


 その二人の頬は暑さから赤く染まり、汗で服は透けて下着がうっすらと見える。

 アドルは思わず鼻の下を伸ばした。


「同志よ。お前らも気づいたか」

「当然です」

「こりゃ、不可抗力だよな……」


 瞬間、地面から生えた白銀の剛鉄が男衆の股間をそれぞれ突き上げた。


『いぎっ!!?』


 会心の一撃、いや痛恨の一撃と言うべきか。男たちは股間を抑えてその場に崩れ落ちた。

 地面に右拳を当て、剛鉄を発生させたセレナは糞を見る目で男衆を見下ろす。


「気色悪い視線向けないでくれるかしら……! ただでさえ暑さでイライラしてるんだからさぁ!」

「それにしても、居ないね。〈ロック鳥〉……」

「信号弾も上がってないからまだどのチームも見つけてないみたいね……本当に居るのかしら」


 ピク、とヴァンスは鼻を揺らした。


「立てお前ら! 血の匂いがする!!!」


 竜の優れた嗅覚。

 ヴァンスは近くに血の匂いを嗅ぎ取ったものの、正確な位置を掴めずにいた。


「どこだヴァンス、どこから来る!」


「空じゃない……こいつは――地面だ!!!」


 フィルメンは地面に手のひらを向けた。


「“旋風陣ヴァトル”!!!」


 地面が炸裂し、巨大な鳥が飛び出た。

 ヴァンスは竜の翼で空へ回避し、他はフィルメンが強引に風魔法で散らして攻撃を躱した。


「鳥の癖に地面に隠れるとはな……!」


 〈ロック鳥〉、大きさは約10メートル。赤い瞳と茶色い毛並み、毛の一本一本が逆立っており異質な威圧感を放っている。


 ヴァンスは腕と口元も竜に変化させ、ロック鳥と空中で真っ向から睨み合う。


「自信が無いのか? 空中戦によぉ!!!」


 剥き出しの巨牙。

 背中から生えた大翼。

 半人半竜となり、ヴァンスは〈ロック鳥〉に襲い掛かる。

 

『ガァアアアアッ!!!』


 ぶつかり合う竜と巨鳥。


「“加重旋風陣ヴァトル・スパデック”!!!」


 フィルメンはロック鳥の上から風で負荷を掛けるがロック鳥は動きを鈍らせるだけで高度を落とすことは無かった。


「駄目です! 空から落とすことはできません!」

「それじゃあたしたちが絡めないじゃない!」


 いくら竜の力を扱えるヴァンスでも空中戦はロック鳥に分がある様子だ。

 飛行能力そのものに差は無いように見える。問題は経験の差、その人生の全てで翼を扱った生物と精々数年しか翼を扱っていない生物とでは経験値が大きく異なる。空中戦の行方を左右させたのは空への“慣れ”だった。


「くそったれ……!」

『ググググググ――――ガァアアアアアアアアアッッ!!!!!!』


――“まずい”


 押され気味のヴァンスを見てアドルは剣を抜き、走り出した。


「ちょ、アドル!!?」

「アドル君!?」


「セレナ! 剛鉄で足場を作ってくれ! フィルメンは風魔法でオレの剣の切れ味を強化するんだ!」


 化物の戦いに人間アドルは介入する。





 ――――――――――

【あとがき】

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