第14話 首都ジーケン

 

 馬車は、首都ジーケンに到着した。

 初めての大都市だ。

 

 右も左も生まれて初めて見るものだらけだった。石造の建物が建ち並び、石畳の大通りには馬車が行き交っている。


 また、空には魔法の灯りが浮いている。この街では魔法が身近であるようだった。


 それにしても賑やかだ。


 わたしは、ここに世界中の人が集まっているのではないかと思った。


 大通りをずっと行った先にお城が見える。


 お城といっても、王宮だけがある訳ではない。大学のような研究施設や兵舎、また有力な貴族の邸宅などもある。


 まずは、宿泊場所へ案内してくれるらしい。セドルさんについていくと、皆が手を振ってくれる。


 肩をすくめたくなったが、セドルさんが皆に好かれていることがよく伝わってきた。


 きっとわたしに見せたように、誰に対しても分け隔てなく接しているのだろう。


 セドルさんについて行くと、城門の先に大きな建物が見えた。ここはユリウス魔法大学というらしい。


 石造り三階建の建物で、切り立った峠のような円錐形の屋根をしている。数十部屋はありそうな大規模な学校にみえた。

 

 これが魔法大学かぁ。

 そのうちわたしも通うのかな。


 村の学校にも通えてないわたしには、夢みたいな話しかもだけど……。

 

 でも、本当は。

 皆んなで登校したり、ランチしてる子をみると、楽しそうだなぁと思う。


 だけれど……。


 セドルさんが質問してくる。


 「そういえば、ソフィアさんは学校にはいかないの? もし、家の事情なら、奨学金制度もあるし……」


 ……だけれど、わたしは素直になれない。


 「わたし、友達とかいらないし」


 「そうなんだ。まぁ、ソフィアさんは学校で習わなくても優秀そうだもんね」


 セドルさんは歩きながら、わたしに背を見せたまま続ける。


 「あ、でも、僕、ソフィアさんのこと友達だと思ってるよ。 迷惑だったかな? 絶交する?」


 そういう意味じゃないのに。

 「え、そんなことは……」


 セドルさんは、足を止めた。

 そして、こちらを向くとニカッと笑う。


 「んじゃあ、ソフィアさんからのOKもらったし、ボクら友達ね! あっ。歳が違うか。んじゃあ、呼び方は、おにーさまでもいいよ?」


 たまには付き合ってあげるか。

 「いやです。……お兄さま」


 耳が熱い。わたしの顔、真っ赤になってるのかな。

 セドルさんは、少しだけ意外そうな顔をした後、目を細めニコニコした。


 

 それからしばらく行ったところでセドルさんは、再び足を止めた。


 えっ。


 ここって。

 王宮じゃないか!!


 ドアが開くと、ぴしっと整列した兵士たちがお出迎えしてくれる。

 「お帰りなさいませ。セドリック王子!!」


 セドルさんはゆっくりと右をあげて、その中を歩いていく。

 わたしは、借りてきた猫のようにビクビクしながら、その後をついていく。


 セドルさんが話しかけてくる。


 「ごめんね、うちは沢山部屋があいてるからさ。ここに泊まってもらった方が色々と楽だと思って」


 いまさら拒めないよ。

 王宮をイヤだといって、他の宿を手配するのは失礼すぎる。


 なんとか、波風を立てずに一泊をうまくやり過ごすしかない。


 「だ、大丈夫ですよ。一日だけですし……」


 通された部屋は立派なものだった。一部屋で、私の家より大きいのではないか。

 ベッドには天蓋がかかっていて、どこかの御伽話に出てくるお姫様にでもなった気がした。

 

 明日まで自由にしてよいとのことだったけれど、ここでは心がくつろげないよ。


 わたしは、急いで魔法の本を引っ張り出した。

 そして、数ページをパラパラめくって、一息つく。


 すると、ドアがノックされた。


 セドルさんかな?

 わたしは、いつものように「はーい!」と叫びドアを開けた。


 そこには、艶やかな薄い紫色の、いかにも高そうなドレスを纏った貴婦人が立っていた。


 「どなたですか?」


 わたしはネコみみフードの端をギュッと握りながら答えを待つ。


 すると女性は、粒の揃った穏やかな声で言った。


 「わたしは、マリアーヌ•フォン•と言います。ロコ村の魔法使いさん。あなたに一つお願いがあるの」

 

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