第50話 俺の悪運はまだ尽きていなさそうだ



 ふと、最近この町にドラゴノイドの新人冒険者が現れ、そいつがかつて冒険者ランクAであったアーシャという冒険者にそっくりだという話を思い出したのだが、それが例え本当に冒険者ランクAのアーシャであろうがブレットを倒す事は出来ないだろうし、そもそもそいつがこの組織を潰しに来るメリットが無い以上、わざわざ危険を冒してまでこの組織を潰しに来るなどあり得ないだろう。


 どの角度から考えても大丈夫だという答えが出るのだが、それでも嫌な予感が消える事は無く、むしろそれは徐々に俺の中で大きくなっていく。


 状況からみればあり得ないとは思うのだが、悩んだ末俺は自分の直観を信じてここから逃げる事を選ぶ。


 何も無ければそれでいい。後日また戻ってくればいい話である。


 今ここで逃げる事には何もデメリットは無く、唯一あるとするのならば『やや面倒くさい』という事くらいであるのならば、逃げる選択肢を取った方が賢明であろう。


 この世界、自分は力があるからと慢心した者から消えていった。


 仲間の裏切りや、弱点を調べ尽くされたり、力があるからと言って万能であると勘違いしてはいけないと、死んでいった者達を見てつくづく思う。


 この世界で生きる為には臆病過ぎる程が丁度いい。


 そう思い俺は何処からくるのか分からない嫌な予感を信じてこの場所から去ろうとしたその時、部屋の扉がノックも無しに開かれるではないか。


「ほう、私が来ても驚かないんだな?」

「あぁ、薄々その様な気がしてな、今からここを離れようとしていたところだ。しかし、驚いていないというと嘘になるな。来るかもしれないと身構えてはいたのだが、まさか本当にお前のような奴が来るとは思っておらず、ただ単に俺の杞憂だと思っていたからな、そういう意味では俺の予感もバカにならないなと少しばかり驚いているよ」


 そこには、先程『もし来るならばコイツであろう』と想像していた人物が目の前にいたのだから、そう言った意味では驚いてはいるのだが、それと同時に安堵もしていた。


 どうやってブレットの相手をせずにここまで来たのかは分からないのだが、万が一冒険者ランクAのアーシャであったとしてもこの俺を倒す事は不可能であるといえよう。


 最悪の事態である帝国七騎士のメンバーが複数人やってくるのと考えれば、俺の悪運はまだ尽きていなさそうだ。


「それにしては少しばかり嬉しそうに見えるけど気のせいかい?」

「いや、気のせいではないさ。だってやって来たのが帝国七騎士のメンバーではなくてしがない冒険者一人なのだからね」

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