第26話 悪の権現

 記者会見を終えた常世田達は、昼食から明日の午後まで自由時間を与えられた。


「え!? まじで!? 休み!?」

「ああ。今日の攻略は第2チームだ。お前達は休め」


 常世田は服部とハイタッチし、そのまま腕を組んでスキップしながらクルクル回った。2人の喜びを全面に出したアホ面は、働き者の千秋には怠惰の罪に見えた。



 新庄は明日の任務までに常世田オススメのアニメを見まくるつもりで、王様と共に基地へ帰って行った。



 常世田たち使徒3人と、ニコ達神々3柱は、銀座でショッピングをすることにした。

 彼らは6名分のクレジットカードを持たされており、各自の口座には宝箱からの報酬や、ダンジョンクリア報酬などが振り込まれていた。


 ダンジョンクリア報酬は自衛隊の予算から各自に振り込まれ、ニコ達神々にも数百万円の貯金がある。


「むふふ。俺ちょっとした金持ちなんだよねー。時計買っちゃおうかなー。欲しかったんだよなーうひひ」


 常世田は2000万近くある残高にニヤニヤが止まらなかった。




 彼らは記者会見が行われたホテルを出ると、銀座に向かって徒歩で移動を開始した。


 しかし、そこには報道陣が待ち構えており、シヴァの目立つ風貌により一気に囲まれた。


「常世田さん! 今日のご予定は!?」

「今日はどの辺にダンジョン出そうですか!?」

「ミシャグジ様! プリン買ってきたので召し上がって下さい!」


 ミーシャに犬耳と尻尾が生え、尻尾をフリフリして記者に近付いていくと、服部が首根っこを捕まえて肩車し、記者に言い放った。


「あー、餌を与えないで下さい。ダンジョンがどこに造られるかなんて俺たちは知らない。今日はこの後自由時間なので銀座に行きます」


 服部の塩対応に記者はここぞと食らいつく。


「服部さん! 銀座で何するんですか!? 午後3時には戻られるんですか!?」

「ブフっ、別に何してもいいだろ。アンタには関係ないよ」


 キリがない。常世田はそう思って、自分たちの周囲を除いた、記者たち野次馬の周辺に煙幕を張った。



プシューーーーー


「えほっ! ごほっ!」



 常世田達はこっそりと記者たちの間をすり抜け、街に消えて行った。




***




「プリン食べたかったあー……」

「もっといいもん食おうぜ? 銀座のレストランなら美味いもんもあるだろうよ」


 服部はミーシャを肩車しながら、皆んなと銀座の街並みを歩いて行く。

 周りはヒソヒソと自分達を見ては振り返り「テレビに出てた」だの「神様だ」だの言っているが、野次馬になるほどではなかった。


「ねえシヴァ、服、買う? 街中だとちょっと目立つね」


 それは、千秋からシヴァに対する初めての問いかけだった。千秋はずっとシヴァを怖がって避けていたのだ。


 シヴァは嬉しかった。


「そうだね。千秋が選んでくれるかい?」




 一行は銀座三星デパートへ。


 ちょうど昼食時ということもあって、レストランが並ぶフロアへとやってきた。


「スンスン。服部! なんか甘酸っぱい匂いがする! 美味しそう!」

「あー、こりゃ寿司だな」

「寿司いいな! ニコ様に是非食べてみて欲しい!」


 常世田は何年かぶりの寿司に興奮し、ニコにも寿司の旨さを知って欲しいと皆んなを説得した。

 ミーシャも酢飯の匂いに興味津々で、一行は高級寿司店へ。


「なんか……お客さん少ないね」


 千秋がガラ空きの店内を見て呟く。

 すると、店員が常世田たちに気付いて声を掛けてきた。


「あ、常世田さんですよね? うわわ、じゃあこちらは神様?」

「あーそうです。どーもどーも。6人座れるテーブルってありますか?」

「ございます。こちらへどうぞ」


 店員は皆を案内しながら、今は行動自粛中で、客が少ないのだと話した。

 特に『15階建て前後のビルはダンジョン化する』常世田以外にもこれに気がついた者がいるらしく、その噂は瞬く間に広がり、それに該当するこのビルは閑古鳥が鳴く始末なのだとか。



 それは常世田達が特上の寿司を待っている時に来た。



「いらっしゃ……」



 店員の様子がおかしい事にイチ早く気付いたのはミーシャだった。

 それまで気配を消していたのか、ミーシャの高性能『人外』センサーにも全く反応がなかった。


「服部。なんか来た」



 一同が入り口の方を向くと、


 そこには――



 黒い肌……肌と言うより、もはや外骨格とも言えそうな艶々の頑丈な筋肉に、所々黄色いラインが薄ら光って、腹筋の溝や胸筋の輪郭を強調しており、それはまるで戦隊モノの悪役という表現がピッタリな『悪魔』のような人外だった。


 シヴァよりも更に筋肉質な広背筋からは黒い翼が生え、こめかみ辺りからは2本の角、昆虫のような複眼は黄色く、どこを見ているかわからないところが不気味だ。


 その人外の後ろには、スラッとした白髪のイケメンが連れ添っていて、その表情はどこか生気がなく、色白なことや目が虚ろなこともあって、まるで生きる屍のような男だった。




 常世田たちはテーブルから立ち上がって身構えた。特に千秋は皆んなの後方に隠し、窓際に陣取る。




「おやおや、こっちは敵意を向けないように気を使って来たのに……そっちはやる気なんだ。ふーん」


 黒い人外が社交的な雰囲気で話し出す。


「僕らもお寿司食べに来たんだよ。君たちもそうなんだろう? たまたま、出会っちゃったけどさ」


 後半は明らかに嘘だとわかる邪悪な笑みだった。


「我はタバコの神『ニコ』だ。名を名乗れ」

「あはは! 名前ね! フフフ! ……ふう。簡単に『悪魔』の名を知れると思うなよ?」



 そう言いながら、悪魔の目が光る。



 高級寿司店に緊張が走った。



 一触即発の殺気に、常世田達は身構える。



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