スーツ

花園壜

第1話

 スーツとは……

 市のパンフレットの「よくある質問コーナー」によると「オーシャンサイド独自の警備組織で、警察とも密に連携が取られています。皆様に安心を提供するのが仕事です。お困りの際はぜひお声がけください」とのことだ。これはそこいらの掲示板や回覧板にも常時掲載されていた。

 マグレブ・オーシャンサイド駅の本部を中心に市内各所に点々と立ち、あるいは歩き、あるいは車両で巡回をしている、ダークスーツに身を包んだ連中はある意味ここの名物だ。

 が、パンフレットなどでの説明書きのおかげか、大人たちはまるで連中が見えていないようにしていて、話題にあがることはまずない。


 宇宙街のコンビニエンスストア・カワサキ商店から、駐車場のある駅前通りに出る通路にも、スーツが数人立っているのが常だった。

 買い物を終えた俺は、大人なふりをして彼らの前を通り過ぎ、バイクを停めた駐車場へ向かおうとした。

 その時、ランドセル姿の小学生の女子ふたりがスーツに話しかけるところに出くわす。

 俺はふと気になって、買い物の品を確かめるふりをしてベンチに座り、聞き耳を立てた。

 以下は小学生とスーツの会話。

「あ、スーツ」

「なーなースーツ、なんでいっつも立っとん?」

「仕事だからさ」と、スーツは目線を子どもたちに合わせて話した。

「知ってるよ! Uルトラ警備隊!」「悪い宇宙人来たら戦うんやよね?」

「お! よく知ってるね? それ、だれから聞いたの?」

「パパ」「うちは母ちゃん」

「そっか! じゃあ、スーツってどんな意味か知ってるのかな?」

「スーパースペース・ユニバーシティ・インターステラー・タスクフォース・セキュリティ!」

 ふたりが声を揃えて言う。

「いい! すごくいい! それ!」

 スーツは感激していた。

「いやいやいやいや!」

 そこへ別のスーツが血相を変えて駆け寄った。

「いくない! いくないからねー! お嬢ちゃんたちー!」と汗だくだ。

「こら……新人ちょとこい……!」と〝新人〟さんは先輩に引っ張られていった。

「じゃあねー!」とスーツたち。

 子どもたちも手を振り返し、

「Nーラライズ、忘れてったね」「ほんまやね」と去っていった。


「――てな話しがあった」

 俺は自分の机で絵を書きながらそう話した。

「KCにしてはよく出来た話だ」

 DYがバイク雑誌をめくりめくり、フゥとため息をつく。

「いや作り話じゃないって」って言おうとして「もういいや」とやめた。

「で? あした学校どうすんの?」

 VAはレコードのジャケットを見比べながら「これだ」と次のアルバムをかけた。

「美術あるから行くわ」と俺。

「雨だしな。俺も行くよっと」とDY。

「俺もー」と、VAの声が近い。

 片や雑誌を見、片やコンポの前に座っているものとばかり思っていたふたりの鼻息が、今は俺の両耳に当たっていた。

「うわっ! 何!?」

「お前、ほんとソアのこと好きな」

「な。けどこんなここまで別嬪だったか?」

「あー! やめてー!」俺は前かがみで必死に絵を隠した。

「アホか」

「それひとつ隠したところで……」

 ああ、確かに。

 俺の部屋中一面、クラスメイトの美人、ソア・シュヴァルツシルトを描いた鉛筆画ばかりだった。

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