【悲報】ニート俺、自宅がダンジョンになる~発現したスキル【自宅警備員】で、俺は何としてでも自宅を守る!!~

藤村

第一章 チュートリアル編

第1話 自宅警備員

 いきなりだが、寝て起きたら自宅がダンジョンになっていた。


 何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が何だか分からねぇ。


 俺、明智灯馬あけちとうま(25)はどこにでもいるニートだ。これといって秀でた能力はなく、夢も希望もなにも無い。


 親にはどうしてもやりたいことがあるから30まで許してくれと適当に嘘を吐き、月に20万の小遣いを貰っている。


 その金でやることと言えば、15万をソシャゲ課金に充て、残り5万が食費って感じだ。親からは「節約して貯金しなさいよ」などと口を酸っぱくして言われているが、ハッキリ言って、貯金なんてするつもりは毛ほども無いね。


 将来のことなんてどうでもいい。

 今この瞬間、一分一秒を自分を満足させるためだけに生きる。それが俺、明智灯馬という人間だ……。


 いや。

 ”だった”――と言うべきだろうか?

 

 なぜなら俺は、一晩のうちに【自宅警備員ダンジョン・マスター】になってしまったのだから…………!


#


「いや、ちょっと待て。いろいろとおかしいだろ。なんで俺の家がダンジョンになってんだよ!?」


 目覚めの第一声がそれだった。

 

 俺は布団を敷いて眠っていたはずだが、目が覚めるとそこは天蓋付きのベッドになっていた。様々な装飾が施されていて見るからに高級そうだ。他にも、ラノベとかアニメでしか見たことが無いような、超巨大な玉座までもが佇んでいる。


 しかも部屋が広い。

 俺の部屋は6畳……一般的な広さだ。

 けれど今いるこの場所はぱっと見で学校の体育館くらいの広さはありそうだった。


 そしてなにより、目の前にはスライムやゴブリンの姿があった。だからここがダンジョンなのは間違いない。


 もしかしたらダンジョンに捨てられたのかも? ほんの一瞬そう思ったが、その考えは秒で吹き飛んだ。


 なぜなら壁から充電器が伸びていて、ちゃんとスマホに刺さってていたからだ。そしてその壁には俺の好きなソシャゲキャラクターのポスターが張られている。


 つまりは、自宅がダンジョンになってしまったということ。俗にいう、ダンジョン化現象というヤツだ。

 

 俺は半ばパニック状態に陥りつつあった。


 脈打つ鼓動が早くなり、冷や汗がダラダラと流れて、呼吸が荒くなって……。そんなとき、頭の中に声が聞こえてきたのだ。


 ――おはようございます、マスター。まずはチュートリアルを始めます。「ステータス・オープン」と口にしてください。


「は? なっ、なんだこの声!? オイ、誰かいるのか!?」


 ――マスター、落ち着いてください。まずは私の言うとおり「ステータス・オープン」と口にしてください。それで、すべてが理解できるはずです。


「はぁ、はぁっ……。意味が分からない。どういうことだ。何が起きてやがる!? 誰かのイタズラか? ドッキリか!? 父さん、母さん、いないのか!?」


 しかし返ってくるのは、あの無機質な機械音声だけだった。バスや地下鉄のアナウンスで流れてくるようなあの女の声は、何度も何度も同じことを繰り返した。


 やがて俺はあきらめたように項垂れて、その声に従った。


「ステータス・オープン」


 すると、目の前に半透明の板が出現した。

 そしてそこにはいろいろな情報が記載されていた。


 ――――――――――――――――――――

 明智灯馬あけちとうま:Lv1. 男 25歳

 HP30

 MP10

 攻撃力8

 防御力8

 魔法攻撃力5

 魔法防御力5

 素早さ20

 ジョブ:【自宅警備員ダンジョン・マスター】 

 クラフトメニュー▼

 ――――――――――――――――――――


「なっ、なんだよコレ……?」


 目の前に出現したソレは、ゲームなどでよく見るステータス画面にそっくりだった。というか、ほぼまんまソレだった。


 ――マスター、あなたは本日を持ちましてこのダンジョンの主となりました。画面に表示されているのは、マスターの基本的な能力になります。もっとも大切なのはHPと呼ばれる数値で、これが0になると死んでしまうので、細心の注意を払ってください。


「し、死ぬっ!? ちょっと待ってくれよ、なんたっていきなりこんなことが!? それに、すぐそこにモンスターがいるじゃないか。おっ、俺は戦うなんてことできないぞ!」


 ――マスター、ご安心ください。マスターの目の前にいるスライムとゴブリンは、すべてマスターの配下です。どこに移動させるも、どんな仕事をさせるも、何もかも全てマスターの意のままなのです。では、チュートリアルを次の段階に移行しましょう。ステータス画面の一番下に表記されている【クラフト】の文字をタップしてください。または「クラフトモード・オン」と口にしてください。


「こ、こうか?」


 いろいろと聞きたいことはある。

 スライムやゴブリンが配下とか意味わからんし、移動させるとか仕事させるとか、まるで謎だ。


 でもとりあえず、頭の中の機械音声に従い、俺はクラフトの文字をタップした。するとステータス画面の手前にもう一つ画面が出現した。そしてそこにも、いろいろな情報が記載されていた。


 ――――――――――――――――――――

 ダンジョンLv.1

 階層:1~10

 現段階での出現モンスター:スライム、ゴブリン

 モンスター配置可能数:1フロアにつき10体

 トラップ配置可能数:1フロアにつき5個

 

 モンスター配置▼

 トラップ配置▼

 フロア拡張:未開放

 階層拡張:未開放

 モンスター作成:未開放

 モンスター育成:未開放

 モンスター合成:未開放

 トラップ作成:未開放

 トラップ合成:未開放

 施設作成:未開放

 施設設置:未開放

 ダンジョンマップ▼

 ――――――――――――――――――――


 俺はゴクリと息を呑んだ。

 長年ソシャゲをやり続けてきたせいか、この画面の意味するところを何となく理解したからだ。


自宅警備員ダンジョン・マスターって、そういうことかよ。要するに、俺がこのダンジョンのボスってことなのか!?」


 ――マスター、そのとおりです。


「は、ははっ、マジかよ。す、すげえ……っ!」


 と、その時になって俺はふと気が付いた。

 父さんと母さんはどうなってしまったのだろう?


「なぁ、父さんと母さんは? 二人はどこにいるんだ?」


 俺が聞くと、機械音声は相も変わらずの無機質な声で言った。


 ――マスターの両親、個体名・明智灯弥ともやと個体名・明智絵里奈えりなは、この建造物がダンジョン化した時間帯、外出中でした。おそらく、あなたがダンジョンに取り残されていると思い込み、探索者に救出を依頼していると推測できます。


「……なるほど。つまりこれからここに多くの探索者が来るかもしれないってことだな?」


 ――ダンジョンが出現としたとあらば、探索者がやって来るのは必然です。しかし救出願いが出されたとなれば、探索者がやって来るのは通常よりも早くなるでしょう。つまりマスターは、一刻も早くダンジョンの難易度を上昇させ、探索者の進行を阻止しなければなりません。


「ちなみに、帰るって言ったらどうなる?」


 念のため聞いてみたが、内心、俺は答えを分かっていたのかもしれない。どうしてそう思ったのかは分からないけど……たぶん映画の影響かな。


 船が沈むとき、俺が見た映画の船長は、その船と命運を共にした。その記憶が少しだけ残っていたのかもしれない。


 返ってきた声は、俺が予想していたとおりのものだった。


 ――マスター。このダンジョンのコアとマスターの心臓は連動しています。ダンジョンが攻略されコアが破壊されれば、マスターは死亡します。

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